海外旅行中の下痢 予防に有効な薬はどれ?
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ、今日からのセルフケアにお役立てください。
(1)ビタミン剤
(2)胃腸薬
(3)乳酸菌整腸剤
(4)鎮痛薬
正解は(3)乳酸菌整腸剤 です。
「日本人特有の下痢」の正体は?
海外旅行などに行くと、日本人は下痢をよく起こしがち。特に衛生的な環境が整っていない国や地域では、細菌などによる感染性の下痢を起こすことがあるので、「生水や火の通っていない食べ物は口にしない」「氷の入った飲み物は避ける」といった注意が必要だと、旅行医学を専門とする千駄ヶ谷インターナショナルクリニックの篠塚規院長は言います。
ただ、日本人の場合は、ハワイや米国本土、ヨーロッパへ行っても、3日もすると多くの人が下痢を起こしたり、軟便の回数が増えたりします。いわば、「日本人特有の下痢」があるのです。
篠塚院長によると、それは「食事と水の違い」から起こる下痢です。日本の食事は油分や脂肪分が少ないのですが、海外での食事はいずれの場所でも、日本よりも油分や脂肪分が多い食事になります。また、日本の水はほとんどがカルシウム・マグネシウムの含有量が少ない軟水ですが、ヨーロッパや北米などの大陸系の国や地域は、カルシウム・マグネシウムを多く含む硬水が一般的です。医療では酸化マグネシウムが下剤として使われているように、マグネシウムは下剤のような働きをすると考えられます。この日本人には慣れない油分の多い食事と硬水が相まって、数日もすると下痢を起こしやすくなるのです。
消化酵素剤の入った乳酸菌整腸剤を
そうした日本人特有の下痢を防ぐのに有効だと篠塚院長が言うのが、プロバイオティクス(生きたまま腸に届いて増殖し、体に良い影響を及ぼす微生物)をとること、つまり乳酸菌整腸剤などで腸内の善玉菌を強化しておくことです。日本ではさまざまな乳酸菌整腸剤が市販されていますが、その中でも消化酵素剤の入ったものが、脂っこい食事対策には適しているそうです。
「2002年の日本旅行医学会の立ち上げの頃、いろいろな乳酸菌整腸剤を買って試したところ、消化酵素剤が入った『パンラクミン錠』(第一三共ヘルスケア)の有用性が確認できたため、私はこの乳酸菌整腸剤を予防的に飲むことを勧めていますが、それ以降に発売されたものもあると思うので、他にも有用なものはあるかもしれません」(篠塚院長)
ちなみに、下痢を起こしてしまった場合に備えて、粉末のスポーツドリンク剤などイオン飲料も用意したほうがいいのだろうか。
「スポーツドリンクは電解質がとれる一方、糖分が多いため、私はあまりお勧めしていません。現地の空港の売店や薬局などで経口補水液(ORS)が入手できますし、インスタントの味噌汁やスープなどでも代用できます」(篠塚院長)
海外で死亡リスクが高いのは、感染症よりも心疾患や脳卒中
東南アジア、中南米、アフリカなどに行く場合は、感染症予防のためのワクチンを接種しておくことが大切です。また、高齢者で団体のツアーに参加する場合は、インフルエンザや肺炎予防のためのワクチンを接種しておくことも重要です。海外旅行時は環境の変化や移動などで体への負担がかかるため、インフルエンザや肺炎にかかりやすくなるうえに、誰か1人が発症すれば、集団感染するリスクがあるからです。
ただし、実際には感染症で死亡に至るケースはごくまれ。外務省の「2015年(平成27年)海外邦人援護統計」によれば、死因の多くを占めているのは心筋梗塞や脳卒中です。ですから、高血圧症、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病、肥満といった生活習慣病のある人、喫煙習慣のある人、家族が心筋梗塞・脳卒中を経験している人などは、それを加味した予防検診を受けておくといいでしょう(詳細は「海外旅行中に急病になったら? よくある間違いと対策」を参照してください)。
そして渡航先で、これまで経験したことのない痛みを感じるなど、自分が緊急事態だと思えたときは救急(ER)と判断し、1秒でも早く、質の高い診療を受けられる専門病院へ行くことが大切です。多くの日本人は、クレジットカード会社や保険会社が提供する医療電話サービスを利用して、日本語が通じる医療機関を紹介してもらおうとしますが、緊急時にそんなことをしていれば、手遅れになってしまいます。
日本語が通じる医療機関は、命に関わる恐れのない体調不良のときにかかるべきで、緊急時には宿泊先のホテルや現地の知り合いなどにアドバイスを求めて、あるいは救急車で1秒でも早く、専門病院を受診しましょう(詳細は「海外旅行中に急病になったら? よくある間違いと対策」を参照してください)。
(日経Gooday編集部)
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