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長寿社会にどう対応? 運用業界の「2025年問題」 QUICK資産運用研究所 北澤千秋

2017/12/20

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国の人口動態と金融商品・サービスの販売動向には密接な関係があるようだ。投資信託市場では退職世代の増加とともに、一見、利回りが高い毎月分配型投信が残高を増やしてきたが、2015年に退職世代の人口がピークアウトすると、今度は減少に弾みがついた。では、団塊世代(1947~49年生まれ)がすべて後期高齢者となる2025年には何が起きるのか。証券会社や銀行、運用会社は市場の構造変化に今から備えておく必要がある。

■的中した投信市場の「2015年問題」

投信市場で毎月分配型投信の販売が急増したのは2000年代に入ってから。増加する退職世代に向けて、金融機関が高い分配金を出すファンドを年金の補完商品として売り込み、多くの人々がそれを受け入れてきたからだ。退職世代には毎月の生活費を補うために分配金がほしいという人もいたためだ。毎月分配型のピークは14年の約43兆円。その後、残高は減り続け、今年11月末には31兆円とわずか3年弱で12兆円減った。

この1年の急減は、高い分配金利回りを売り物にした投信販売に否定的な、金融庁の意向を映していると思われる。だが、注目すべきは金融庁の圧力が強まる前に、すでに残高が減り始めていた点だ。

残高減少の原因の一つと思われるのが市場の縮小だ。15年は団塊世代がすべて65歳に達した年で、この年を境に60~75歳の人口は減少に転じた。最大の顧客層だった退職世代の人口のピークアウトとともに、毎月分配型ファンドの販売は低迷した。

「投信市場の2015年問題」として、人口動態が投信市場に与える影響を11年にいち早く指摘したのは、野村総合研究所の金子久上級研究員だ。60~75歳人口の頭打ちとともに、退職世代に毎月分配型を売り込む投信業界のビジネスモデルは「早晩行き詰まる」と予想。そのうえで、資産形成層など新たな顧客の掘り起こしが急務だと警鐘を鳴らした。

ビジネスモデルが行き詰まったのは金子氏の予想通り。一方、課題に挙げた顧客層の掘り起こしは、業界全体でみれば緒に就いたばかりだ。

例えば、来年始まる積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)への取り組みは、金融機関による温度差が大きい。目先の収益には目をつむり、新たな顧客基盤を地道に開拓すると腹をくくった金融機関もあれば、「(つみたてNISAの普及に熱心な)金融庁の目が厳しく光るのは、長官が交代しそうな夏まで」とみて、身を縮めてやり過ごそうとしている金融機関もある。

とはいえ、今後10年を見据えれば、投信保有層の世代交代も進むはず。つみたてNISAへの対応はともかくとして、足元の利益にこだわるか、将来への布石を打つかによって「5年、10年後には金融機関に大きな収益格差が生じているだろう」(伊井哲郎・コモンズ投信社長)という見方は強い。

■置き去りにされた高齢投資家

2015年問題への対応が不十分なまま、次に金融業界に突きつけられるのは、団塊世代のすべてが後期高齢者(75歳以上)となる2025年問題だ。かつてない長寿社会に突入すると何が起きるのか。すでに問題の兆候は表れている。

「高齢者が金融機関から置き去りにされている」。独立系運用アドバイザーの吉井崇裕氏は指摘する。吉井氏が問題視するのは、75歳以上の後期高齢者に対する金融機関の対応だ。

多くの金融機関は後期高齢者に金融商品を販売する際、本人への丁寧な商品説明だけでなく、親族の同席や了承などを義務付けている。高齢投資家の保護が目的だが、金融機関の現場では、手間もコストもかかる高齢客を忌避する傾向があるという。このため、運用の相談をしたくても相手がいない高齢者が増えている。

高齢化が進むほど「置き去りにされた投資家」がさらに増えていく恐れは強い。団塊世代は高額の分配金をうたった毎月分配型投信の中心購入層とみられるが、基準価格が大きく下落しているファンドもあり、問題は深刻化しかねない。吉井氏は「金融商品の販売時の規制だけでなく、販売後のサポートまで配慮するのが本来の顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)のはずだ」と主張する。

■長寿社会の新金融サービスを

今後、高齢者に提供していく金融商品やサービスのあり方も大きな課題になる。ただし、資産形成層に対する働きかけと異なり、「高齢者層への対応は一律に論じることはできない」(野村総研の金子氏)。一口に高齢者といっても、富裕層から貧困層、自己判断ができる人からできない人まで幅広いからだ。

保有資産で分類すれば、富裕層には黙っていても金融機関が手厚いサービスを提供するし、一方、貧困層は日々の生活こそが問題で、セーフティーネットの世界になる。個人的には、その中間層ができるだけ経済的な不安を感じずに、老後を送れるようなサービスのあり方が主要テーマだと思う。

では、具体的にどんな商品やサービスが想定されるのか。金子氏は一例として、本格的なトンチン保険(死亡保障や返戻金がない終身年金保険の仕組みで、長生きするほど多くの年金を受け取れる)や、ファンドラップの新形態(顧客があらかじめ金融機関と契約しておけば、自己判断ができなくなっても運用・取り崩しが続けられる)などを挙げる。

金融庁は11月に公表した「金融行政方針」(17年事務年度版)の中で、家計の安定的な資産形成を推進する一環として、退職世代に対する金融サービスのあり方を新たな検討課題として取り上げた。この問題提起に業界はどう応えるか。求められるのは、世界で長寿・高齢化の先頭を走る日本にふさわしい新商品・サービスだ。

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