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2020年から見える未来

東京の禁煙、五輪の基準超える? 「屋外」も肩身狭く 都条例は家庭内まで規制、加熱式たばこへのシフト加速か

2018/1/5 日本経済新聞 夕刊

隔離された屋外の喫煙所。世界でも珍しい光景だ(東京都品川区)

2020年の東京五輪・パラリンピックを前にたばこの屋内規制が進んでいる。東京都は家庭内の子どもがいる部屋で禁煙を求める規制をつくった。受動喫煙を減らすことに反対の人はいない。ただ、日本は喫煙の屋外規制が世界でも厳しい。行き場を失う「ホタル族」の喫煙者からは「どこで吸えばいいのだろう」との声も漏れる。

都議会は「子どもを受動喫煙から守る条例」を17年10月に可決した。罰則規定はないが、子どもがいる部屋や自動車内で受動喫煙を防止するため、禁煙を求める。私的空間で禁煙を促す全国初の条例で、加熱式たばこも対象にしている。

推進派には「受動喫煙は子どもの虐待防止と同じ観点で考えるべきだ」との考え方がある。

一方、喫煙者からはとまどいの声も。調布市の会社員(53)は「3人の子どもの健康を考えて加熱式に変えた。これまでも換気扇の下やベランダで吸ってきたが、条例は家庭内に及ぶ。『ホタル族』はどうすればいいのか」と話す。

日本の喫煙人口は激減している。日本たばこ産業(JT)の調査によると、17年の成人喫煙率は男女計で18.2%。過去30年で半減した。従来の紙巻きたばこに比べて有害物質が少ない加熱式たばこの利用者も増えている。

加熱式たばこは、専用器具でたばこ葉を加熱して発生した蒸気を吸う仕組み。JT、米フィリップモリス・インターナショナル、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコの大手3社が販売し、有害物質の発生量は紙巻きの1割程度だという。JTは、17年末に喫煙者の約18%が加熱式たばこになったとみている。

受動喫煙の環境改善が進むなか、条例はたばこにとどまらず法律のあり方の問題をはらむとの声もある。

「たばこを巡る議論は必ず荒れる」。そんな理由で普段は語らないというコラムニストの小田嶋隆さんは「家庭への行政の介入に大きな反発がなかったことに驚いた」という。小田嶋さんはたばこを吸わない。だが「他人に迷惑をかけないという喫煙マナーで進めてきた流れを上からの規制で白黒決着させることは、相互監視社会の一歩になりかねないのでは」と話す。

「紙巻きたばこ× 加熱式たばこ○」という分煙スペースも登場している(東京都港区)

国の受動喫煙防止対策は国会提出が先送りされているが、都は「子ども条例」とは別に、罰則付きの屋内禁煙条例案を18年2月にも議会に提出する予定だ。

都が11月に公表した意見公募では、約1万7千件のうち「たばこ自体を規制すべき」といった規制強化に賛成の意見が約6500件あった。「飲食店は店頭表示を徹底すれば十分」などの反対意見が約5千件。「加熱式たばこは規制対象から外すべき」などの一部反対が約3千件あった。

飲食店では自主的な分煙対策も進む。都の17年の調査では、都内の飲食店のうち「全面禁煙」が44.7%と最も多く、「分煙」と合わせると64%になる。「全面禁煙」は15年に比べ2年間で17.6ポイント高くなった。

全国飲食業生活衛生同業組合連合会では、店の入り口に禁煙、分煙がわかるステッカーを貼ることを義務付けている。加熱式専用の喫煙スペースも増えるなど分煙は確実に進んでいる。

同連合会の小城哲郎専務理事は「我々も受動喫煙の根絶に賛成だ。営業と顧客や従業員の自由に折り合いをつけながら、協調・共存できる分煙環境を自主的に築いている」と強調する。

仮に飲食店が全面禁煙になると、かえって逆効果になってしまうのでは、との懸念もある。

外国人観光客でにぎわう東京・浅草。浅草おかみさん会を束ね、自身は手打ちそば店を営む冨永照子さんはこう話す。「路上でも店内でも吸えなくなれば、建物の陰で吸う人が出てくる。ポイ捨てされて火事になるのが心配です」

受動喫煙防止の屋内規制条例を初めてつくった神奈川県。検討会の座長を務める玉巻弘光東海大名誉教授(行政法)は「たばこは百害あって一利無しだと個人的には思う」と言う。

そのうえで「世界保健機関が主導しているように、健康に良くないものは規制しようとの流れがある。規制強化に傾きすぎれば禁酒法やスイーツ規制法もできるかもしれない。そういった社会で暮らしたいかと考えてみる視点も必要」と話す。

■五輪は「屋外」まで禁煙求めず

2008年の中国・北京以降、五輪・パラリンピックの開催都市で屋外のたばこ規制があるのは東京(20年)だけだ。英・ロンドン(12年)、ブラジル・リオデジャネイロ(16年)、仏・パリ(24年)には屋外規制が原則ない。日本はやけどやポイ捨て防止のために屋外規制が先行し、東京は23区すべてと大半の市町村で路上喫煙やポイ捨てを禁じる条例やルールがある。

国際オリンピック委員会(IOC)は屋外規制は求めていない。欧米では飲食店も含め屋内は原則禁止だが、テラス席があり喫煙できる場合が多い。一方、東京でテラス席がある店は六本木で10%、銀座で3%程度だ。

週刊ホテルレストランが訪日客に実施した日本の喫煙環境意識調査(15年)では「街中に吸い殻が落ちていない」が9割強で好印象だった。喫煙者が望む改善点は「屋外喫煙所の案内の充実」「屋外の喫煙所の増設」が各56%と最多。訪日客のとまどいがうかがえた。

(大久保潤)

[日本経済新聞夕刊2017年12月18日付]

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