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転ばぬ先の不動産学

中古住宅、売り主次第で「競争力」が変わる 法改正で 不動産コンサルタント 田中歩

2017/12/27

修繕費用に見合う価格で売却できるかも重要なポイントだ=PIXTA

売り主として中古物件の競争力をいかに高めるか――。来春から住まいの売り方が大きく変わり、売り主が不動産業者選びについて従来以上に意識する必要が出てきています。前回のコラム「中古住宅の売買が変わる 『診断』の意思、確認義務化」では主に購入する側が押さえておくべきポイントを紹介しました。今回は売り主側がどんなことに留意すべきかについてお話しします。

中古住宅を売買する際、建物の劣化状況について専門家が事前に調査し、その内容を確認してから契約できれば取引完了後に欠陥が見つかるといったトラブルが減り、売り主も買い主も安心して中古住宅の取引ができます。こうした取引を増やす目的で、2018年4月施行の改正宅地建物取引業法では不動産業者が媒介契約(物件探しや買い主探しを業者に委託する契約)を締結する際、中古住宅の売り主や買い主に対して、インスペクション(建物状況調査)をする業者のあっせん可否を事前に示さなければならなくなります。不動産業者が消費者に対し、建物の「診断」をするかしないかの意思確認をしなければならなくなったのです。

■瑕疵担保責任、リスクを減らすには?

改正宅建業法で規定されたインスペクションでは、国の登録を受けた既存住宅状況調査技術者(以下、調査技術者)が建物の基礎や外壁などに生じているひび割れ、雨漏りなどの劣化や不具合の状況を目視し、計測などにより調査します。この調査結果を開示して売り主が中古住宅を売却すれば、買い主も建物の状態を理解したうえで購入できるので、売り主側にとってはインスペクションをしていない中古住宅と差をつけることができると考えられています。

また、インスペクションは売り主が負わなければならない瑕疵(かし)担保責任のリスクも少なくできます。売り主も買い主も契約時点では気づけなかった不具合や欠陥が後日見つかった場合、売り主が責任を負わなければなりませんが、売買契約前に分かっている欠陥や不具合を買い主に説明しておけば、その部分については瑕疵担保責任を負う必要がありません。買い主はそうした欠陥や不具合があることを分かったうえで、価格交渉などをして購入することになりますので、売り主がこの部分についての責任を負う必要はなくなるわけです。

■保険の付与で他の物件と差をつける

さらに調査の結果、劣化や不具合がないなど一定の条件を満たせば買い主は「既存住宅売買瑕疵保険」に加入でき、万一問題が見つかっても保険でカバーされた範囲については修繕費用が支払われます。また、瑕疵保険に入ると築20年以上の建物(マンションなどの耐火建築物の建物の場合には25年以上)でも住宅ローン控除、登録免許税や不動産取得税の軽減などが受けられます。中でも住宅ローン控除による減税は中古住宅で最大200万円、登録免許税は85%引きと買い主のメリットは極めて大きくなります。つまり売り主からすると、瑕疵保険を付保することでより競争力のある物件にすることができるのです。

このように売り主がインスペクションを実施したうえで売却することには一定の意味があるといえますが、注意しなければならないことがいくつかあります。

■インスペクション業者は自由に選べる

インスペクションを実施すると、調査技術者は依頼者に対して劣化の有無についての「調査の結果の概要」と詳細を記載した「報告書」を作成します。これらの書面にはどの部位が劣化しているかは必ず記載されますが、それぞれの劣化の程度や修繕すべき時期、望ましい修繕方法、修繕費用の概算といったアドバイスが付け加えられるかどうかは調査技術者の知識と経験によるところとなります。

調査技術者は建築士が多く、新築には詳しいものの、劣化にどのように対応すべきかというノウハウをあまり持っていない人もいます。こうした場合を想定し、不動産業者からのインスペクション業者のあっせんを受けず、これらのノウハウに詳しい別のインスペクション業者に自ら依頼することもできるので検討するとよいでしょう。

■修繕費用に見合う価格で売却できるか

インスペクションの費用と瑕疵保険の保険料の合計はおおむね十数万円程度といわれます。ただ、筆者の経験からすると何も手を加えないままの状態で瑕疵保険に入ることができる物件はさほど多くなく、瑕疵保険を付保するためには追加の費用がかかるのが実情です。

築10年程度の比較的新しい戸建てでも劣化の状況によっては修繕をしないと瑕疵保険に入れないものもあり、劣化の状態や範囲によって修繕費が10万円程度で済むケースもあれば、100万円以上かかることもあります。築20年以上の戸建住宅でも瑕疵保険が付保されれば売り物件として競争力がかなり高まるものの、それなりの費用がかかる修繕をしないと瑕疵保険に入れないものがほとんどでしょう。

いずれの場合も修繕費用を早めに明らかにし、その費用に見合う価格で売却できるかどうかの判断が重要になります。そして、こうしたポイントを不動産業者が調査技術者と連携して売り主にアドバイスしてくれるかどうかがとても大切になります。

■不動産業者選び、従来以上に注意が必要

インスペクション付きの仲介を早くから手掛けてきた不動産業者は、売り主から価格査定の依頼を受けた時点で瑕疵保険を見据え、経験のあるインスペクターと一緒に劣化の状況と修繕範囲、修繕費用を調べます。こうした調査と並行し、売り物件が「瑕疵保険を求める購入客が多いエリア」にあるのか、競合する物件に対して修繕や瑕疵保険で差別化できるか、それらの費用対効果はどうかなどを分析し、売却の方法や価格を提案してきたはずです。今後は大手に限らず、中堅中小でもそのような対応ができる不動産業者が出てくるでしょう。

田中歩
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。

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