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紫煙に怒声…、80年代の名画座は無法空間だった

立川談笑

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NIKKEI STYLE

テーマは「映画」。DVDやウェブ配信での視聴は確かに便利で、私もお世話になります。それでも、映画館に足を運ぶのが一番楽しいと私は確信しています。私にとって映画とは、ライブで体験するアトラクションなのです。

学生だった1980年代、足しげく通ったのが「名画座」。今では少なくなりました。権利関係のためだなんて理由も聞きましたが残念なことです。名画座は、最新作を上映する「ロードショー館」に比べると入場料が半分くらい。古い作品から半年前に公開された準新作まで2本立て3本立てでたっぷり見られるありがたい存在でした。またそんな名画座には、劇場それぞれに個性があったものです。

館内にたばこの煙が充満

その当時、新宿の東口に古い任きょう映画ばかり上映する名画座がありました。菅原文太主演の「まむしの兄弟」シリーズや「バカ政ホラ政トッパ政」、若山富三郎主演「極悪坊主」シリーズだとか……。ううむ、前回の吉笑と比べて作品のギャップが激しいなあ。ともあれ、その新宿の映画館に入った時に味わった衝撃的な体験をお話します。

あれは日曜日の昼すぎでした。ドアを開け上映中の客席に入ると、一面に人がみっちり。すごい人気だ。男性100%。おじさんばっかり。しかも驚いたことに、上映中だというのにみんな客席でプカプカと当然のような顔でたばこを吸っています。もちろん当時も客席は禁煙です。もはや館内全体が煙でもうもうとしていて、映写室からスクリーンに向かう光が四角垂の形で立体的に見える。

なんとか空席を見つけて座り、ひょいと横の席を見ると、初老のおじさんがやっぱりたばこを吸ってます。映画館の客席ですから灰皿はありません。おじさん、当然のごとく床に捨てましたよ。ポイ捨て in 映画館。あっちでもこっちでもポイ捨てポイポイ。暗い客席の床は吸い殻だらけです。

「これは、いかんだろう」と思っているところに、作業服をまとった劇場の係員が近づいて来ました。さあ、この無法空間に厳しい警告が下されるぞ、と思いきや。

「あー、失礼しますね。ハイごめんなさい…」

座席を縫うように、ホウキとチリトリで吸い殻を掃除して回っていました。あらら。これって、ここではオッケーなのか。これがこの辺りのありふれた日常なのか。

ラジオの競馬中継に聴き入る

わずかな休憩をはさんで、目当てである「昭和残侠伝」の上映が始まりました。いわずとしれた高倉健主演の人気シリーズで、あれは第何作目だったのか、とにかく場末の名画座にしてはかなりメジャーな作品といえます。

そして映画を見ているうちに、どことなく客席の反応が妙なことに気が付きました。さっきから明らかにどこかおかしい。そう、映画のストーリーとは無関係なタイミングで、何人ものお客さんが奇妙に似通った反応を示すのです。映画としては大したことがないところで一斉に「おおぅ」と驚いたり「あぁ」とため息がもれたりする。

注意深く観察すると、そんなおじさんたちは耳にイヤホンを突っ込んでいました。この人も、あの人も。そうか、そうなのか。みんな、携帯ラジオで競馬中継を聴いていたんです。そういえば、すぐそばに場外馬券売り場もある。つまり、彼らはそれぞれ馬券を買っていて、競馬のついでに居心地のいい映画館で映画を見ている人たちなのでした。だからスクリーンと関係なくレースの結果に反応していたんだ。

そうこうするうちに映画もそろそろ終盤。高倉健さんが単身殴り込みに向かいます。死地に向かう男の生きざまが際立ついいシーンです。これぞクライマックス!流れるのは主題歌「唐獅子牡丹(からじしぼたん)」。高倉健さんの歌声が劇場に響きわたります。

義理と人情を はかりにかけりゃ 義理が重たい 男の世界……

すると「ぎぃい、りぃ、いと。にんじょ、おう、おうお。はかりぃい、にぃい」

なんだ?変なところから健さんじゃない声が聞こえてきます。あっちからもこっちからも。見ると、客席のおじさんたちが一緒になって歌っているのです。横を見ると、たばこのおじさんも口ずさんでる。というか、涙流して泣いてるし。

ドラえもん映画で客席が子供の無邪気な歌声に包まれるごとく、任きょう映画の客席はもうもうたる煙とともに唐獅子牡丹の大合唱となるのでした。

映画館でサングラス

スクリーンではいよいよ敵(かたき)の屋敷で壮絶な斬り合いが始まりました。

「うわー、来た来た。来やがった!」

「命のいらねえ奴はかかってきやがれ!」

「うわー!」 「ぎやー!」 ドタン! バタン! バリバリ、ガッシャーン!

もろ肌脱ぎになった血まみれの健さんが肩で息をしながら、さらに奥の座敷に進んでいく。ふすまの陰に隠れた男が長ドスを手に健さんの背後から忍び寄る。その時、客席から酔っ払いがスクリーンに向かって叫びました。

「健さん、危ない! うしろ! うしろー!」

その瞬間、別な方向から

「うるせえ、この野郎!静かにしやがれッ!」

立ち上がって怒声を浴びせるのは上下純白のスーツ姿のおじさん。映画館なのにサングラスしてる。ああ、客席があちこちツッコミどころ満載で、ちっとも映画に集中できないんですけど。

ライブ感たっぷりだった、あの名画座も今はもうありません。楽しかったし懐かしくもあるけど、二度と行きたくもないなあ。むかしむかし。30年前の新宿での話でした。

☆     ☆     ☆

さてさて。この連載は少々体制が変わります。二番弟子の笑二がこちらの執筆に関してはお休みをいただくことになりました。師匠としては本業の落語にさらに身を入れることを期待しています。これからは私と一番弟子の吉笑と2人で連載を続けてまいります。今後ともどうぞご贔屓(ひいき)に。

立川談笑
 
1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打ち昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。談志門下の四天王の一人に数えられる。

おことわり らくご「虎の穴」は原則として隔週日曜日に掲載します。次回はお正月休みを挟んで2018年1月7日を予定しています。

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