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個性派民泊、住宅だけじゃない お寺で外国人が写経 18年6月の全面解禁で競争火蓋、ホテルの稼働率に打撃も

2017/12/26 日本経済新聞 朝刊

寺の大広間に宿泊したタイ人旅行客は日本文化を存分に満喫した(岐阜県高山市)

民泊を全国で解禁する住宅宿泊事業法(民泊法)の施行(2018年6月15日)まで半年を切った。17年も訪日外国人客は過去最多を更新、2800万人に達する見通し。政府は20年までに4千万人に増やす目標を掲げる。企業は商機ととらえ、関連ビジネスは沸き立つ。既存ホテルの稼働率低下など産業構造を変える可能性もある。

「わぁ、きれい……」。和室の障子を開けると雪に覆われた庭園が現れ、タイから来たウォラヤー・ウォンウィラウットさん(31)はため息を漏らした。建築されて100年以上がたつ高山善光寺(岐阜県高山市)。本堂に併設した約93平方メートルの部屋に、会社の同僚と泊まった。税込みで1部屋1泊約6万円。「SNS(交流サイト)映えする写真が撮れそう」とほほ笑む。

寺に宿泊しチェックアウトするタイ人の旅行客(岐阜県高山市)

本堂から階段を下って暗闇を進み、本尊の下の錠前に触れて戻ってくる――。台湾の会社員、林明徳さん(35)は「戒壇巡り」を体験した。こうした体験は寺ならではの魅力。「日本の伝統文化を身近に感じられる」と話す。座禅や写経を経験することも可能だ。

7月から予約を受け付け始めた。9割は外国人で、すでに利用者は1千人に迫る人気ぶりだ。運営するのは社員10人前後のスタートアップ企業、シェアウィング(東京・港)。雲林院奈央子社長は「眠っていた資産を生かして訪日客に古き良き日本の魅力を伝えたい」と意気込む。

現在、合法的に民泊を営むには、旅館業法の許可か国家戦略特区の認定が必要だ。高山善光寺は旅館業法で簡易宿所として認められている。18年6月施行の民泊法は、日数上限などはあるが都道府県に届け出ればよい。一般住宅に加えて古民家や寺など個性的な物件も増えそうだ。

商機とみたスタートアップ企業は機動力とアイデア力を生かし、課題解決をビジネスにつなげる。民泊法では本人確認や宿泊者名簿の管理が求められる。アプリ開発のチャプターエイト(東京・渋谷)はアプリを使い民泊向けのチェックインサービスを特区で始めた。ビデオ通話で宿泊客の顔を確認し、パスポートを読み込んで自動で宿泊者名簿を作っていく。

大手でも楽天が中国最大手、途家(トゥージア)など海外勢と連携。民泊仲介世界最大手、米エアビーアンドビーに対抗する。「古くからの取引先である旅館の顔色をうかがって及び腰では」と指摘されていた既存勢力も動く。JTBは仲介の百戦錬磨(仙台市)と組んで民泊に参入する。

今や日本にとって訪日客効果は景気を左右し、個人消費にも大きく影響を与えている。「4千万人時代」を円滑に迎えるためにも、民泊が担う役割は大きい。

産業構造が変わる可能性もある。先行して普及するフランスでは「ホテル業界の雇用減少は民泊の影響」(仏ホテル業界団体)とされる。エアビーはフランスで50万近くの物件を掲載。14年の訪仏観光客数は8370万人と08年比6%増えたが、ホテルの客室稼働率は59.2%と2ポイント以上低下した。

日本では五輪開催などで「ホテルが足りなくなる」と言われたが、実は客室は不足しないとの試算も出ている。不動産サービス大手CBRE(東京・千代田)の調査では都市部で約3割増える見通し。今後、民泊間だけでなくホテルなどとの競争も激しくなりそうだ。

(清水孝輔、大林広樹)

[日本経済新聞朝刊2017年12月16日付を再構成]

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