「運動はがんの進行を抑える」 ウソ・ホント?
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ、今日からのセルフケアにお役立てください。
(1)ホント
(2)ウソ
正解は、(1)ホント です。
がんは長年、日本人の死因第1位の座を独占し続けています。多くの人にとって最も怖い病気でしょう。
では、がんだと宣告されたら、私たちはどうしたらいいのでしょうか。もちろん、医師と相談しながら、積極的に治療に取り組むことになりますが、自分でできることもあります。そのひとつが「運動」です。
がんといえば重病です。運動なんかしていいの? と思われるかもしれません。確かに症状や進行度にもよりますが、「運動できる人はしたほうがいい」というのが最近の定説になっています。
報告されているエビデンス(科学的根拠)をいくつか紹介しましょう。1つは、大腸がんと診断され、転移のない男性668人を20年間観察した研究です。20年間で258人が死亡し、うち88人は大腸がんが原因でした。「1週間の運動量」を見ると、運動量が多いほど死亡率が低く、最も運動量が多かったグループは、まったく運動しなかった人たちに比べて大腸がんによる死亡リスクが47%も下がっていたそうです[注1]。
前立腺がん患者を追跡調査した米国ハーバード大学の研究でも、「週3時間以上のウオーキング」をしている人たちのがん再発・転移、死亡のリスクは57%下がっていたそうです[注2]。
ドクターランナー(事故に備えて選手と一緒に走る医師)として多くの市民マラソン大会やトライアスロン大会に出場している、よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック(神奈川県横須賀市)院長の奥井識仁さんは、「運動によって大腸がんや前立腺がんの進行は抑えられます。実際、米国にはランニングやウオーキングでがんを抑えようという患者のサークルがいくつもあります」と話します。
奥井さん自身も、長いこと前立腺がんと運動の研究を続けています。
[注1] Arch Intern Med. 2009 Dec 14;169(22):2102-8.
[注2] Cancer Res.2011 Jun 1;71(11):3889-95.
前立腺がんと診断された患者102人(平均74.8歳)に、ホルモン治療と併行してウオーキングを指導しました。8年間で48人が死亡、うち20人(41.7%)は前立腺がんが原因でしたが、「1カ月に120km以上のウオーキング」をしている人たちは、死亡率が半分に抑えられたそうです。
「雨の日も風の日もやる必要はありません。1日6km、月20日を目安に指導しています」(奥井さん)
筋肉の成長に男性ホルモンが使われる?
では、なぜ運動によって前立腺がんの進行が抑えられるのでしょうか? 奥井さんはテストステロン(主要な男性ホルモン)が筋肉で消費されるからではないか、と考えています。
前立腺がんはテストステロンをエサにして増殖する性質を持ちます。そのため、治療はテストステロンの分泌を抑えることが基本になります。運動によってテストステロンが筋肉で使われると、前立腺がんのエサになる量が減るのではないか、というのが奥井さんの仮説です。「大腸がんの場合も同じく、運動でIGF(インスリン様成長因子)が筋肉で使われることが、がんの進行を抑える大きな要因になっているように思います」(奥井さん)
これらはまだ解決しないといけない問題が多くあります。運動とがん抑制の関係については、いまだにメカニズムがほとんど分かっていないためです。「もっと多くのサンプルを集めて、日本全体で考えていくべきテーマだと思います。米国のように、がん生存者が積極的に治療データを後世の研究のために残して、日本のがん治療に役立てるシステムが必要です」と奥井さんは話します。
(日経Gooday編集部)
[日経Gooday 2017年11月27日付記事を再構成]
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