本の魅力を映像に乗せて 出版社、アニメとコラボ
人気作家の書き下ろし長編小説の発売にあたり、アニメーションのプロモーションビデオ(PV)を作成し、大々的にアピールする手法を河出書房新社が始めた。また、作品のテレビドラマ化に合わせ、複数の出版社がその作家の共同キャンペーンを張る動きもある。いずれも映像とのコラボレーションをテコに、長引く出版不況を乗り越えていこうという試みだ。
山田悠介といえば、デビュー作の「リアル鬼ごっこ」など、若者に支持される人気作家として知られている。その山田が書き下ろした4年ぶりの長編小説「僕はロボットごしの君に恋をする」を2017年10月21日に発売するにあたり、河出書房新社は異例の販促を仕掛けた。
通称「僕ロボ」プロジェクトは、一言でいえば小説とアニメとのコラボレーションだ。本の販促のために、オリジナルアニメのPVを作成し、書店の店頭で映像を流す。プロジェクトにかかわるスタッフの顔ぶれの豪華さも話題となった。これだけ本格的なアニメPVを作ったのは、出版業界では初めて。しかもアニメと関係のある大手ではなく、文学系のイメージの強い河出であることが興味深い。
「僕ロボ」プロジェクトの中心となったのは、担当編集者の中村孝志氏。山田悠介のデビュー直後から10年以上編集担当を務めた後、河出に転職し、改めて今回、新作を担当。山田の文庫本も、河出から再出版されることになった。
人気作家の「移籍」にあたって、いかに本を売るか、社内会議が始まったのは17年3月だった。「山田さんの読者は本だけでなく、エンターテインメント全般が好き。新聞広告など従来の宣伝とは違う、新しい販促を考えるなかで、アニメPVを作るというアイデアが生まれた」(中村氏)。声がけした関係者からの反応も良く、プロジェクトは大きなものになった。
今回の販促には、出版不況のなかで「書店に足を運んでもらいたいという狙いもあった」(中村氏)。特設サイトではショートバージョンしか公開せず、書店でのフルバージョンの視聴へと誘導する。参加書店は、目標の1000店を大きく上回り、1900店以上に。初刷り10万部からスタートし、6刷り13万部に達している。
まずは本を売ることに徹し、PVから発展した、テレビや映画アニメなどの映像化については未定だが、良い話があれば積極的に検討するとの意向だ。今回のアニメで得た映像化のノウハウは、河出の大きな財産となりそうだ。
主役は大泉洋、小説あて書き
本が売れない時代にあって、出版界では他にも新しい形の販促に挑戦する動きが生まれている。
雑誌「ダ・ヴィンチ」での連載をまとめ、17年8月31日にKADOKAWAから発売された、塩田武士著の「騙し絵の牙」は、主人公を俳優の大泉洋にあて書きした異色の小説だ。映像化を前提として、大泉の所属事務所との共同企画により改稿を重ね、取材・執筆に4年をかけたという。その話題性から予約好調で発売前に重版となった。
一方、企業のワクを超えて共同でPRを展開したのは文芸春秋と中央公論新社。池井戸潤の文庫を17年9月1日に同時発売して「半沢直樹×花咲舞」合同キャンペーンを実施した。同じく池井戸原作のドラマ「陸王」(TBS系)の10月放送に合わせてのプロモーションとなった。
いずれの販促も映像とのかかわりがポイント。単なる原作提供だけでなく、影響力の大きい映像といかに積極的にかかわっていくかが重要になっている。
(日経エンタテインメント!12月号より再構成 文・高宮 哲)
[日本経済新聞夕刊2017年12月16日付]
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