「花粉症のスギ」を善玉に 木材博士が挑む家具作り天童木工(上)

天童木工の西塚直臣常務
天童木工の西塚直臣常務

従来、家具には不向きとされてきた針葉樹のスギを使った家具作りに挑戦しているのが、木製椅子の傑作「バタフライスツール」で有名な天童木工(山形県天童市)の西塚直臣常務だ。独自の技術を開発し、スギ材家具の商品化を実現。ものづくり日本大賞も受賞した。スギは花粉症の温床と悪玉イメージが強いが、家具作りに活用して善玉に変える試みでもある。スギを使った公共施設向けの家具は人気で、この2年間で受注が約2倍に増えた。日本ではまだ法律で定められていない「燃えにくい・腐りにくい家具」もスギで作ろうとしている。

インテリア商材を中心とした国際見本市が東京ビッグサイト(東京・江東)で11月、開かれた。天童木工のブースでひときわ注目を集めたのは、国産のスギを使った木製自転車だ。「これは実際に乗って走れるんです」と西塚氏が解説すると、集まった人々から感嘆の声があがった。

ブナやナラなどの広葉樹に比べると、スギは軽くて柔らかい。加工しやすい半面、傷がつきやすく、細い部材で構成される製品を作るには強度が足りなくなってしまう難点がある。そこで西塚氏をリーダーとする開発チームは、薄く切ったスギ板をローラーで圧縮し密度を高める加工技術(以下、圧密加工)を開発。同社の原点ともいえる成形合板技術と組み合わせて、これまでにないスギの家具を作るのに成功した。その第1号シリーズは2014年に発表済みだ。

今回の展示では、圧密加工を施したスギに薬剤を染みこませて燃えにくくしたり、腐りにくくしたりする技術を披露。先の自転車はその耐候性(屋外使用時の耐久性)を実証するために作った展示用で、ずっと水をかけながら展示していた。

木材知識の豊富さでは、社内で右に出る者はいないという西塚氏。営業担当者も「木のことでわからないことがあれば西塚さんに聞きに行く」という。そんな「木材博士」はなぜ針葉樹を使った家具作りを思い立ったのか。

日本の林業を取り巻く現状と矛盾

「実家はもともと農業と林業を営んでいました。子どものころは『山に木を植えてあるから、大きくなったらそれを伐採して売れば、会社勤めをしなくても十分に生活できるから』といわれて育ったんです」。西塚氏は65歳。「山の近くで育った同年代なら、同じような経験をした人も多いはず」という。

高度経済成長期の日本では、急増するマイホーム需要に応えるため、柱や梁(はり)など建築の構造用に使用されるスギやマツなど針葉樹の需要が拡大した。「ピーク時にはスギの丸太は1本あたり4万円から5万円で売れました。東北だと1ヘクタールあたり300本は植えますから、伐採や運搬などの費用を差し引いても、手元に700万円から800万円は残ったはずです」と西塚氏は言う。

貿易が自由化され、円高で輸入材が大量に入ってくるようになると、一転して国産材の価格は急落した。過疎化・高齢化に伴う林業の担い手不足も深刻になり、伐採や運搬にかかる費用負担が山林所有者に重くのしかかるようにもなった。結果として国内人工林の多くが伐採の「適齢期」を迎えているにもかかわらず、手つかずのまま放置されるようにもなった。

近年は中国での木材需要の増加や韓国でのヒノキ人気の高まりで、日本からの木材輸出は伸びている。木材の自給率は近年上昇傾向にある。それでも34.8%と、国土面積の約3分の2を森林で覆われている国としては少ない。

「天童木工で使用している木材の仕入れ先も米国、カナダ、デンマーク、ドイツと海外が主。そのすべてが先進国です。違法伐採が社会問題化して以降、発展途上国からの仕入れはしていない」(西塚氏)という。

国内にスギが豊富にあるにもかかわらず、外国材を輸入して家具を作らなくてはならない現状はどこかおかしいのではないか。スギで家具が作れれば、材料費も抑えられ、林業関係者も助かる。放置された森林の手入れが進めば、花粉症に悩む人も少なくなり、獣害や土石流の発生を防ぐなどの効果も期待できるだろう――。西塚氏はこう考えた。

林業を巡る矛盾と、家具業界を取り巻く厳しい現実。この2つを同時に解決しようと、西塚氏はスギを使った強くてデザイン性の高い家具作りに挑戦し始めた。

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