色彩と形の科学者、熊谷守一 創作の軌跡に迫る
明るい色彩と塗り絵のような愛らしい画風で知られる画家・熊谷守一の画業をたどる展覧会「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」展が東京国立近代美術館で開かれている。油絵やスケッチなど生涯の作品約250点を集めた。東京美術学校(現・東京芸術大学)時代から97歳で亡くなるまでの70年以上にわたる創作の軌跡をたどる。
代表作「猫」(愛知県美術館 木村定三コレクション、1965年)。塗り絵のように平面的で単純化された形は一見、感覚的に描かれたかのようだ。だが、同館企画課長の蔵屋美香さんは、「隅々まで緻密に計算して描いている」と指摘する。形について「猫は体が軟らかいため、リラックスして寝ていると皮や肉が下に落ちる。熊谷は猫の姿をよく観察して、皮や肉が下に落ちている部分と骨が出ている部分を正確に描いている」と語る。
色彩も計算しつくされている。青みがかった白、蛍光ペンのようにさえたオレンジ色に黒を使って描く。一見まとまりがなさそうな難しい色彩を組み合わせているにもかかわらず、作品全体として色調にまとまりがあるように見えるのは、「長年、色彩学を研究し、この色とこの色の組み合わせならなんとかまとまるという計算があるからこそ」と話す。
展覧会は東京美術学校時代から年代ごとに順を追って展示する。最初の20代の作品が並ぶ展示室は真っ黒な色調の作品ばかり。熊谷ならではといえる明るくかわいらしい画風をうかがわせる作品は一つもない。
「よく知られる明るくて猫や虫を描いた作品は、実は晩年に描かれたもの。今回の展覧会で特徴的な画風までいかにしてたどり着いたのか、熊谷の創作の裏側を知ってほしい」と話している。
生涯の創作の道筋をたどれば、色彩と形の科学者たる熊谷の新たな一面がうかがえるだろう。
(映像報道部 鎌田倫子)
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