大学生の娘が「夢がない」と泣きます
著述家、湯山玲子さん
大学1年生の娘が「将来の夢が決まらない」と泣くのが悩みの種です。大学は本人の希望通りで、この春上京しました。仕送りもしています。私も高校生を教える立場にいながら、的確に答えられません。夫はぜいたく病だと取り付くしまもありません。(福岡県・40代・女性)
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大学で学生に接していて、つくづく思うことは、学生たちの幼さです。十数年前の感触は「彼らの精神年齢って、私の高校1年の頃みたい」でしたが、今はひょっとすると「小学校低学年か!?」ぐらいになっている。
相談者氏の娘さんの泣き言もまた、子どもっぽい。つい思い出してしまったのは、私の少女期の体験です。昭和一桁世代の父は一切、子どもに関心を持たないタイプでした。周囲の友達がお父さんとキャッチボールをしたなどと話すのを羨ましく思った私は、あるとき「パパが私をかわいがらないのは、私がもらいっ子のせいだ(ウソ)」という、少女マンガのストーリーまがいの芝居を打ったのです。
さめざめと嘘泣きする私に、父は反省するどころか「ふざけたことを言うな!!」といまだかつてない剣幕(けんまく)で激怒。結果、子どもと遊ばないお父さんは親失格という世論を味方に付けて、父に反省を促そうとした計画は大失敗。彼の剣幕は「世間を後ろ盾に、被害者面して甘えるその根性がなっちゃいない」というもので、それは私が父から受けた教えの中で最大級の生きるための規範となったのでした。
当時の私と同様、相談者氏の娘さんは、世論の威を借りて甘えている気がします。今、親子関係に対する世論とは「子どもに寄り添い、悩みを解決するのが親の務め」というもの。加えて、彼女の泣き言は「親や世間の期待通りに頑張って大学に入ったのに、こんなに苦しいのは育て方が悪かったせい」といういわれなき非難も感じられる。
ではどうするか。ここはひとつ、わが父の「ふざけたことを言うな!!」という愛のある本気の激怒で対応してみては? 「親の役目はもうすんだ。アナタの悩みを助けることは私にはできない。自分の人生なんだから自力で立って、充実する努力をしてみろ」ときっちりと引導を渡して連絡を絶つ。
自殺でもされたら困る、というのが今どきの心配でしょうが、これはイジメでもなんでもなく、子どもに十分愛を注いできた親だからこそできる「愛のむち」。人類がこれまで伝統的に行ってきた、子が自分の足で生きていくために必要な試練です。子どもの生きる力を信じるしかない、と私は思うのです。
[NIKKEIプラス1 2017年12月16日付]
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