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音楽評論の真嶋雄大氏がクラシック普及へ企画公演

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NIKKEI STYLE

「家(か)」抜きの「音楽評論」とだけ称する著名な音楽評論家の真嶋雄大(まじま・ゆうだい)氏が、若手や地方の演奏家を育てる公演を企画している。山梨県在住の演奏家とバイオリニストの礒絵里子さん、チェリストの新倉瞳さんのリハーサル風景を交え、「クラシック音楽を聴く人を増やしたい」との思いから取り組む地道な普及活動について聞いた。

山梨県在住の演奏家と第一線の先輩たちがコラボ

「私も彼女ら2人も山梨県からやって来ました」。11月30日、東京・銀座の街に姿を現した真嶋氏はこう語り始めた。真嶋氏は甲府市に暮らし、コンサートの企画やプロデュース、評論活動のために頻繁に都心に通っている。この日は真嶋氏の地元の演奏家として山梨市在住のピアニスト小林侑奈(ゆうな)さんと甲府市在住のフルート奏者の布能美樹(ふのう・みき)さんも来ていた。3人はヤマハ銀座ビル別館に入っていった。

そのビルの一室で待っていたのはバイオリニストの礒絵里子さんとチェリストの新倉瞳さん。コラニー文化ホール(甲府市)で12月2日開催のコンサートに向けて4人でリハーサルを始めるところだった。「真嶋雄大の面白クラシック講座特別コンサート~めくるめく音色の華麗なる競演~」という真嶋氏が企画した公演のためのリハーサルだ。「これからの日本の弦楽を引っ張っていく礒さん、新倉さんという第一線の先輩の演奏家と、山梨県を拠点に活動する若手演奏家2人の共演によって双方が刺激し合い、学び取ることがあると思う」と真嶋氏は企画公演の意義を語る。

「音楽評論家」ではなく「音楽評論」とだけ称する理由について真嶋氏に聞くと、「わざとそうしている。『家(か)』と書くと偉そうだ。人間は偉そうにしたら絶対にダメ。クラシック音楽はただでさえ偉そうで高尚な芸術と思われがちだ。『音楽評論』は一つの仕事としてあり、それをしている『マジマ』という人間がいるとのことならば有りだと思う。だが『音楽評論家』と称すれば相手に偉そうな印象を与えてしまい、壁ができてしまう」と説明する。もっとも、真嶋氏は「音楽評論家」の名称を否定しているわけではなく、あくまで氏個人の心構えだ。クラシック音楽を通じて教養を深め、人生を豊かにしたいと思う人も多い。そうした向学心のある人々にとって音楽評論家のような高度な専門家は心強い案内役になるはずだ。

作品や演奏家を知らしめるのが「音楽評論」の使命

CDケースを開いて音楽を聴こうとすると、ジャケットの文章が目に入る。「ライナーノーツ」と呼ぶ解説文を書いているのが音楽評論家や音楽ジャーナリスト、音楽学者といった専門家だ。しかし今は専門家に限らず、多くの詳しい一般の音楽ファンがインターネット上にCDレビューを大量に書き込む時代である。こうした状況の中で「音楽評論」の意義はどこにあるのか。真嶋氏に聞くと「素晴らしいクラシック音楽の作品がせっかくいっぱいあるのに、どこから入っていいか分からないでいる人が多い。だから音楽評論の第一の使命はクラシック音楽の作品や演奏家を知らしめることにある」とナビゲーター役を示す。

例えば、アーティストを「音楽評論」する意義について「なぜこの演奏家はこのテンポで弾くことを選んだのかといったことを推量し、その音楽の美質や才能を引き出し、様々な誌面や媒体に書かせてもらう」と説明する。そうすることによって「コンサートホールに来場した聴衆だけでなく、ほかの来られなかった数十倍もの人々の目にもその文章が触れ、1人でも多くの人に演奏家への興味を持ってもらい、次のコンサートに足を運んでもらえたらうれしい、という考えで僕は音楽評論をしている」。現代にはJポップやロック、ジャズなど様々な素晴らしい音楽が豊富にあるが、長い歴史の中で培われたクラシックを聴かないともったいないという考えが真嶋氏の信条を支えているようだ。

確かに真嶋氏が企画するシリーズ公演には「面白クラシック講座」「はじめてのクラシックシリーズ」といった親しみやすい名前が付いている。開催地は甲府市のコラニー文化ホールや長野県岡谷市のカノラホールなど地方都市が多い。チケット価格もコンサートの種類によって1枚500円から2000~3000円、小中高生は500円など、一流アーティストが出演するにしては比較的安く設定している。「クラシックを聴く人々を増やすことが演奏家にも聴き手にも幸せな状況を生み出す」と語る。演奏会が増え、演奏する機会も、聴く機会も増えるからだ。

人々が聴きたいと思うようになり、次に聴けるチャンスにつながる「音楽評論」でないと意味がないともいえる。大物アーティストらとの交遊や、脚光を浴びる高価なコンサートに行けたことなどを自慢するような「知識のひけらかしは何の役にも立たない」と言う。11月にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を率いて来日した指揮者のサイモン・ラトル氏は記者会見の席で「生涯二度と聞きたくない言葉」として「クラシック音楽は『エリート層』のためのもの。特定の選ばれた人にしか分からない芸術」を挙げた。そして専門家やエリート層にしか分からないと考えるのは「大きな間違いだ」と主張した。

「ブラームスなんて分からないくせに」に憤る

真嶋氏も同様の考えを持つ。「20代の頃、僕らがその夜聴いたコンサートの話をしながら酒を飲んでいたら、やはり同じコンサート帰りの年配の方々が『ブラームスなんて分からないくせに』と僕たちについてつぶやいていた。明治時代から高尚なものとして西洋音楽を輸入してきた弊害がそうした発言に表れていると思えて憤りを覚えた」と振り返る。クラシックを「貴族による貴族のための音楽」と誤解している向きもいまだにあるようだ。ベートーベンもブラームスも貧しい家庭に生まれ、広く一般大衆のために美しく高貴な音楽を作曲した。「ハードルは高くない。楽しく聴いてもらいたい」と真嶋氏は訴える。

もっとも「音楽評論」には変遷があるという。「ベートーベンやシューマンの時代とは音楽評論の在り方が異なっている」と語る。「19世紀当時は現代音楽としての同時代の音楽を作曲家が書いて、その作品を聴衆に向けて発表するのが演奏会の中心だった。同時代の作品を批評し、作曲家にフィードバックし、作曲家がまた新たな作品を書く糧にするというサイクルがあった」と説明する。

しかし現代のクラシック音楽は古典作品を演奏する再現芸術が中心となった。今日において現代音楽を時事的に論じるのは難しい。「再現芸術としてのベートーベンやブラームスの古典作品を紹介し、演奏を批評しつつ、現代音楽の評論もするような並行的な仕事にならざるを得ない」というのが実情のようだ。

クラシックの流れをくむ現代音楽ではなく、様々なポピュラー音楽が広く支持され、時代の空気を敏感に映し出すようになって久しい。これに伴いクラシックの評論は時事的な内容よりも学究的な傾向をみせる。作品や作曲家に関する専門的な研究書が増えるとともに、小林秀雄の「モオツァルト」や吉田秀和氏の一連の著作は文学作品として扱われる。逆にハードルが高くなりがちな状況の中で、真嶋氏は執筆としての音楽評論を越え、企画公演や演奏家のプロデュースにまで領域を広げたクラシック普及活動に挑んでいるといえる。

ピアノや作曲の経験から演奏家の気持ちを知る

「真嶋さんは私をベテランの演奏家と引き合わせてくれたり、演奏会をプロデュースしてくれたり、とても感謝している」とフルート奏者の布能さんは話す。この日のリハーサルでは布能さんのフルート、小林さんのピアノでフォーレの「シシリエンヌ」を練習した。真嶋氏は2人の演奏に対し実地でアドバイスをしていた。

演奏家の指導まで担えるのは、真嶋氏が5歳からピアノを習い、中学生の頃から作曲も手掛けるなど、音楽を供給する側としての実技の経験もあるからだ。1973年には「ソプラノと和洋合奏のための変容」という自作を自ら指揮し注目された経験もある。聴くだけでなく、ピアノやバイオリンやギターなど何らかの楽器を自ら弾いて感動した体験も持つ人が音楽評論に携わる今の傾向がみえる。演奏家の気持ちをつかめるのだろう。小林さんは「真嶋先生が斬新ですてきな演奏会を企画してくれる。年に1度、山梨でリサイタルもさせてもらっている」と話す。

小林さんのピアノ、新倉さんのチェロ、礒さんのバイオリンでメンデルスゾーンの「ピアノ三重奏曲第1番ニ短調作品49」第1楽章の練習が始まった。新倉さんのチェロが熟達した響きで憂愁の旋律を生み出しながら、全体の演奏をリードしていく。「ピアノ三重奏曲の中で最も有名な作品。私も演奏会で100回くらいは弾いている」と新倉さんは語る。「向き合う時間が長かったメンデルスゾーンの作品で互いの成長ぶりを近況報告し合えるのが楽しい」。スイスを拠点に活躍する新倉さんは2017年末にも日本で公演を控えているが、今回は山梨の演奏家と共演する真嶋氏の企画のためだけに一時帰国した。

故・中村紘子さんから若手まで多数の出演実績

17年にデビュー20周年を迎えた礒さんは「刺激をもらえるいい機会」と後輩たちとの共演を語る。「新倉さんも小林さんも私と同じ桐朋学園大学で学んだ。楽しく息するように音楽づくりができている」。練習中に礒さんは弾き方の違いで意見を主張する。新倉さんは小林さんのピアノのテンポ運びに注文を付ける。率直に意見を交わす様子が息の合った仲を物語っている。「今回はオーボエ奏者の中村あんりさんも出演する予定だったが、急病のため4人になった」と真嶋氏は出られなくなった演奏家への心遣いも忘れない。「真嶋先生は長年、私たち演奏家の成長を見守っていてくれる」と新倉さんは言う。若手からベテランまで幅広い演奏家に敬愛される父親のような存在だ。

「私の地元の山梨はクラシック音楽の盛んな県だったとはいえない。隣の長野県では指揮者・小澤征爾さんの『セイジ・オザワ松本フェスティバル』が開かれるなど、音楽文化の層が厚い」と真嶋氏は指摘する。しかし「小澤さんのお父さんは山梨県出身で、16年に亡くなったピアニストの中村紘子さんも山梨で生まれた。日本を代表する指揮者とピアニストのゆかりの地として、もっとクラシック音楽に人々が親しめる環境をつくりたい」と話す。

これまで「はじめてのクラシックシリーズ」「真嶋雄大の面白クラシック講座」など真嶋氏が企画したコンサートで演奏した有名アーティストは数多い。ピアニストでは中村紘子さん、田部京子さん、スタニスラフ・ブーニン氏ら。バイオリニストでは二村英仁氏や川田知子さんら。「ビジュアル音楽堂」で取り上げたアーティストも複数挙がる。18年は「面白クラシック講座」を12回予定。1月13日の1回目はフィンランド在住のピアニスト舘野泉氏を招き、「左手のピアニスト、舘野泉の世界」をテーマに開く。5月にはチェリストの長谷川陽子さん、6月にはバイオリニストの大谷康子さん、11月にはピアニストの三浦友理枝さんなど有名アーティストの出演が相次ぐ。それぞれの公演で真嶋氏の分かりやすい解説のトークが入る。

「クラシック音楽を普及させるには、ハードルを下げることが大事。アーティストと聴衆とのパイプ役になれたらうれしい」と真嶋氏は言う。親しみやすさと分かりやすさが真嶋氏の活動方針だ。それでいて同氏の著作からはどんなプロをもうならせる専門性の高さが読み取れる。自身も作曲や編曲を手掛ける音楽家であることが高度な専門性を裏付けている。聴衆の高齢化が進み、需要の先細りも懸念されるクラシック音楽界。真嶋流の地道な「音楽評論」は現状の打開を目指す。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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