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ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している八重洲ブックセンター本店だ。来年の経済予測本などが出そろって一見にぎやかに見える売り場だが、売れ筋にはそうした定番の刊行物にロングセラーが並び、もうひとつ新刊に勢いがない。そんな中、ビジネス書好きの中高年読者が買っていくのが、自衛隊元最高幹部が書いた戦略論だった。

東日本大震災の災害派遣を指揮

その本は折木良一『経営学では学べない戦略の本質』(KADOKAWA)。著者は2009~12年に自衛隊統合幕僚長を務めた自衛隊の元最高幹部。現在防衛大臣政策参与を務める。東日本大震災のとき災害と原発事故への自衛隊の対応を指揮し、映画「シン・ゴジラ」に登場する統合幕僚長のモデルになったといわれる。「戦略」とは最近ビジネスの世界でよく使われる言葉だが、戦略の本家ともいうべき軍事戦略の視点から見ると、「考慮されていない部分」があると感じるという。そうした視点を補いながらビジネスパーソン向けに「戦略の本質」を説いたのが本書だ。

経営戦略が語られるときの違和感を著者はいくつかの視点から指摘する。ひとつは軍事戦略という、そもそもの戦略論を抜きに語られることが多いということ。これは4つの戦史研究をひもとくことで明らかにしていく。キューバ危機とノルマンディー上陸作戦、ミッドウェー海戦とガダルカナル作戦が対象になる。現代の経営戦略とのつながりを意識させるため、ところどころにM&A(企業の買収・合併)の事例や、経営者や経営学者、コンサルタントの言葉などを織り込みながら語るところがみそだ。NIKKEI STYLEの「リーダーのマネジメント論」などからの引用もまじえながら、最新の経営者の実感と戦史研究が語る戦略の教訓をうまく結び付けている。

「戦力回復」の視点も提示

戦史研究から語る戦略と並んで読みのがせないのは、人や組織を動かす要諦や休むことの重要性を説いた本書の後半部分だろう。「情報」と「作戦」のバランスが戦略の実行には不可欠といった教訓を、原発事故へのヘリコプター放水を決断した実体験に基づいて語っていくところにこの本の真骨頂がある。23万人という巨大組織を動かす長期の災害派遣を振り返りながら「戦力回復」のために必要な休みをどう戦略に組み込むかを語るくだりなども、働き方改革や生産性が課題となっている今日のビジネスパーソンに、多くの示唆を与えてくれそうだ。

「入荷した初めはあまり注目していなかったのですが、玄人好みという感じでベテランの会社員のお客さんが買っていく」と副店長の木内恒人さんは話す。ふだんは覗き見ることができない自衛隊という組織の行動様式やリーダーシップの一端を知ることができる。そんな新鮮な視点が読者受けしているようだ。

「力強い新刊、乏しい」

それでは、先週のベスト5を見ておこう。

(1)ザ・ビジネスモデルイノベ-ション村上幸一著(ダイヤモンド社)
(2)集中力 パフォ-マンスを300倍にする働き方井上一鷹著(日本能率協会マネジメントセンター)
(3)日本の論点 2018~19大前研一著(プレジデント社)
(4)仕事ができる人の最高の時間術田路カズヤ著(明日香出版社)
(5)「言葉にできる」は武器になる。 梅田悟司著(日本経済新聞出版社)

(八重洲ブックセンター本店、2017年12月3~9日)

1位と2位はまとめ買いが入ってのランクイン。1位は、ビジネスモデル・イノベーションの成功事例を解説したコンサルティングファームによる一冊。2位は、集中によってパフォーマンスの質を上げる働き方のメソッドを紹介した本だ。3位は大前研一氏の来年の経済予測本。毎年刊行される定番の本だが、今年は10月の総選挙の結果を織り込むため少し発売が遅れた。4位は仕事もプライベートも充実させる時間の使い方を説いた本。著者関係者によるまとめ買いが入った。

5位は16年刊行のベストセラーだが、今年八重洲ブックセンターで一番売れた本になったという。そのことをうたって店頭展開したところふたたび売れ行きが伸びた。表にはないが、紹介した戦略の本は6位だ。「まとめ買いと定番の本、ロングセラーが並び、勢いのある新刊が見当たらない」と木内さん。ヒットが続いていた昨年の秋から年末にかけてと比べると、今年はビジネス書の売れ行きは弱いという。

(水柿武志)

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