「脳梗塞」リスクの上昇 気温や気圧がどう影響?
脳卒中は、冬に多く、夏に少ないことが広く知られています。そこで、広島大学の研究グループは、脳卒中で入院した日本人約4000人について、発症した日および発症前7日間の気温と気圧を調べて、脳卒中リスクとの関係を調べました。その結果、前日よりも気温が上がった日、または下がった日は、虚血性脳卒中(脳梗塞)の発症リスクが約1.2倍になることなどが明らかになりました。
脳卒中患者4000人について気温・気圧との関係を分析
著者らは、広島市、呉市、福山市内の、救急部門がある7つの病院に、2012年1月から2013年12月までの2年間に脳卒中で入院した3935人を分析対象にしました。
3935人の平均年齢は73.5歳で、内訳は、男性が2325人、女性が1610人でした。診断名は、3197人が虚血性脳卒中(脳梗塞)で、738人が脳内出血でした。
地方気象台の観測データから、それぞれの患者の発症日と、発症前7日間の平均気温、気圧、相対湿度を調べました。分析には、平均気温ではなく、相対湿度で補正した気温(thermo-hydrological index;THI)を用いました。THIは、気温が健康に及ぼす影響を評価する際の指標として適切であることが示されています。
まず、個々の患者の発症日のTHIと気圧が、表1のどれに該当するのかを調べました。また、発症前7日間については、それぞれ前後する日のTHIと気圧の変化を算出し、それらが表2のどこに該当するのかも調べました。
脳梗塞には当日の気温ではなく前日との気温差が影響
まず、発症日のTHIと気圧は、虚血性脳卒中(脳梗塞)の発症リスクに影響を与えていませんでした。一方で、発症前日に比べ発症当日のTHIが低下、または上昇すると、虚血性脳卒中の発生率が高くなっていました。前日からTHIが変化しなかった場合に比べ、前日より低下していた日の発生率は1.19倍、反対に前日より上昇した場合には1.16倍で、前日よりやや上昇した場合も1.16倍になっていました。
一方、脳内出血は、気温が高い日には少なく(THIが中間の日に比べ、THIが高い日のリスクは0.72倍)、気圧が高い日には多く(発症日の気圧が中間の日に比べ、やや高い日の発生率は1.31倍)発生していました。また、発症の5日前から4日前にかけて気温が下がった場合に、発症率が1.33倍になることが明らかになりました。
得られた結果は、脳卒中の発症に気象条件が複雑に影響している可能性を示しました。論文は、2017年6月2日付のPLOS ONE誌電子版に掲載されています[注1]。
[注1] Mukai T, et al. PLoS One. 2017 Jun 2;12(6):e0178223. doi: 10.1371/journal.pone.0178223. eCollection 2017.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday 2017年12月6日付記事を再構成]
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