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割増率が高い企業ほど長時間残業の実態(八代尚宏)

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NIKKEI STYLE

昭和女子大学は八代尚宏氏を座長に「労働法制の変化と『働き方』研究会」を開催しました。活発に交わされた議論の中から、残業代割増率と残業時間の関係に迫ります。(以下、すべて八代氏談)

長時間労働にならざるを得ない理由

今回は労働時間規制がどんな必要があって定められているのか、また労働法規制がこれまでどんな推移を経て改正されてきたかを追っていきます。

わが国の労働基準法は戦前の工場法(1916年施行)がベースになっています。これは年少者と女子の健康保護を促すもので、もともとは弱い立場の人間を守るための法案でした。1947年の労働基準法では週48時間、それ以上の残業に関しては割増賃金を支払うことが義務付けられていました。

この労働基準法が1987年、「健康を害さない」「文化的生活」をうたい文句に、所定内労働時間を週48時間から40時間に削減するなどと大改正されます。文化的生活というのは実は後付けで、この背景にあったのは日米摩擦です。「日本は働き過ぎだ」と海外からソーシャルダンピングとして批判された結果、改正したという流れだったのです。その批判を受け、表向きは確かに所定内労働時間が短くなったとはいえ、残業時間も含めた総労働時間はあいかわらず2000時間を推移していたのが現実でした。所定内労働時間の代わりに、残業代の付く所定外労働時間が長くなる、事実上の賃上げになったというわけです。

裁量労働制の導入がもたらしたもの

裁量労働制という新しい概念も、この労働基準法の改正に含まれていました。裁量労働制とは、実際に勤務した時間ではなく、1日当たりの「みなし労働時間」を採用したことです。

工場法がベースであったこれまでの労働基準法は「働いている時間の長さ」と「生産量」が分かりやすく直結していました。例えば自動車工場のラインで1時間働けば、1時間分の生産台数が約束されています。ところが、例えば新聞記者やテレビのディレクター、大学教員など裁量労働制で働いている一部のホワイトカラーの人々は違います。1時間デスクに張り付いていたからといって、1時間分のアウトプットが必ずしも期待できるわけではありません。こうした特定の業務に関して1日1時間であろうが、1日12時間であろうが、1日8時間労働と「みなす」考え方が認められたというわけです。

これにより、一見「働いている時間の長さ」と仕事のアウトプットや質は切り離されたように思われました。特筆すべきは日本の裁量労働制では、「深夜・休日」における割増賃金が義務付けられるため、「働いている時間の長さ」から完全に解放されたわけではなかったということです。これは労働時間に関わる強行規定です(* 「強行規定」とは、法令の規定のうちで、当事者の意思にかかわりなく適用される規定を指します)。

やむを得ず深夜・休日になる場合も多いですが、仮に、自分の意思で「深夜・休日」を選んで勤務すれば、短時間で効率的に働く労働者よりも、それだけ給与所得が割り増しされるわけですから、不公平が生じます。

【労働時間に関わる規定】
・労働基準法の強行規定
 所定内・所定外労働、休憩時間(無給)
 残業割増賃金(平日25%、休日35%)
 月60時間超えについては50%

・週40時間、一日8時間の法定労働時間
 ⇒労働組合との書面協議で残業可
・法定残業時間上限(週15時間月45時間)
 ⇒特別条項付き労使協定で適用除外

大企業ほど残業が多いジレンマ

他方、2008年の労働基準法改正では、月60時間を超える残業を行う労働者については、残業割増率の引き上げ規定が新たに設置されました。

実はこの「月60時間超分については50%」という割増率は、労使間の妥協案でした。

諸外国では残業における割増賃金率は50%以上の場合が多く、仕事が増えた場合、新たに人を雇うよりも現状の社員に残業させるほうがかえって企業が損をする仕組みになっています。そのため長時間労働から免れているといえる反面、雇用需要が減れば即レイオフが表裏一体になっている。繰り返しになりますが、一方の日本では、長時間労働が不況時の雇用保障のための調整弁の役割を果たしてきたといえます。

当時、残業割増率の25%から50%の引き上げは各企業にとっては、国際的な水準に合わせるためにはやむを得ない措置でした。他方で、裁量労働の対象者にまで50%の引き上げ率を導入すれば、深夜・休日を選んで残業すればいくらでも稼げてしまいます。

そのため、欧米の仕組みに倣って、自分で働く時間を決められる高度に専門的業務の労働者には、「労働時間規制の適用除外(exemption)」という制度と組み合わせようとしたわけです。しかし、それが実現できなかったので、妥協の産物として「月60時間以上」という新たな基準が導入されたのでした。

ここで注目していただきたいのが下記の表です。

一般に労働条件は労使の合意の元、定められることになっています。ただし、最低労働賃金と労働時間は唯一例外で、法律によって定められる強行規定です。

労働組合の合意がなければ、法定の残業時間の上限を超えて働けないという「特別条項付き労使協定」は、労働組合が過重な労働時間を抑制する手段として機能するはずでした。ところが注意深く表を見ていきますと、この「特別条項付き36協定」を締結している比率は大企業ほど多く、著しく長い残業時間の労働者比率も同様に高いことが分かります。

2012年当時では、給与が高い大企業に至っては現に3割以上の人が80時間を超える残業をしていました。80時間以上は過労死レベルです。さらに1割の人が100時間を超える残業をしていたというのですから驚きです。

本来であれば、労働者の交渉力の弱いはずの中小企業よりも、労働組合の交渉力が強く労働条件の高いはずの大企業ほど残業時間が長いのはなぜなのでしょうか。

一つの説明は、中小企業と比べて年功賃金の度合いが大きく、同じ職種の企業間賃金格差も大きな大企業ほど途中で転職すると賃金や退職金の面で著しく不利になります。そのため長時間労働を強いられても「辞める選択肢が少ない」という面もあるかもしれません。これが労働市場の流動性の高い米国との大きな違いです。

労働時間の上限規制の強化

本来、長時間労働のストッパーになるはずの組合が十分に機能しない。こうした状況に対応して、「ダメなものはダメだ」と、仮に労働組合が合意しても外せない上限規制を設け、違反者には罰則を適用したことが、予定されている労働基準法改正の大きな成果です。

他方で評価が分かれたのが、他の先進国では普遍的にみられる高度専門業務の労働者に対して残業時間に見合った残業代を免除する「高度プロフェッショナル制度」の創設でした。

これは、(1)「高度の専門的知識を必要とする業務に従事している」(2)「一定水準(1075万円)以上の年収を得ている」(3)「健康を確保するための措置として年間104日(週休2日制に相当)の強制休業の義務付け」などの組み合わせです。もっとも、現実には年収1000万円以上も稼ぐ労働者は、管理職も含めて、全体の4%にも満たないのが現実です(国税庁「民間給与実態統計調査2016年」)。

この新しい制度に対して、一部マスコミでは「残業代ゼロ法案」と報じられていますが、これ自体が長時間労働自体よりも、いかに残業代を重視する人たちが多いかという証拠です。こうした高度プロフェッショナル制度における年間104日の休業日数の義務付け(年間労働時間の抑制)という「規制強化」は、一般労働者の残業時間の上限規制と同様に、従来の残業代規制よりも、労働時間の長さを、直接、抑制するための画期的な内容です。このどこが「過労死法案」なのでしょうか。

最後に、在宅勤務(テレワーク)の法制化ですが、現行では明確なルールがないため各社とも恐る恐る手探りで試行しているのが現状で、在宅勤務の利便性を活かした働き方の事例はまだ少ないといえます。例えば、パソコンの稼働時間で実働時間を管理せずに、いまだに業務の開始時間と終了時間を上司に電話で申告するなど、プリミティブな形態で行われているのが現状です。在宅勤務の法制化が実現されれば、日本全国あるいは海外でもどこにいても働けるわけですから、女性にとっても夫の転勤などで働き方を制限されずにキャリアの幅が広がる可能性が高いはずです。この他にも、副業、兼業のルール化やワークシェアリングなど、どれも同一労働同一賃金の問題と不可分の議題が山積みです。

八代尚宏
 経済学者。昭和女子大学グローバルビジネス学部長・特命教授。1970年、経済企画庁入庁。81年、米国メリーランド大学Ph.D取得。OECD経済統計局主任エコノミスト、上智大学教授、日本経済研究センター理事長、国際基督教大学教授などを経て、現職。小泉内閣で規制改革会議委員、第一次安倍内閣・福田内閣で経済財政諮問会議議員を務めた。9月に『働き方の経済学』(日本評論社)を発売

(ライター 砂塚美穂、協力/昭和女子大学ダイバーシティ推進機構)

[日経DUAL 2017年11月1日付記事を再構成]

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