
2018年から始まる積み立て方式の少額投資非課税制度(つみたてNISA)。申し込みを検討している恵が解説書を読んでいると「年に一回、実質的なコストが投資家に通知される」とあります。食事の際に「実質コストってなに?」と幸子に聞いてみました。
筧幸子 そもそも投資信託のコストって大きく2種類あるって知ってる? 一つは買うときに一回だけかかる販売手数料。運用担当者の腕で平均を上回ることを目指すアクティブ(積極運用)型だと投資金額の2~3%かかることも多いわ。そしてもう一つは保有コストよ。
筧良男 保有コストって信託報酬っていうんだろ? 運用会社や販売した金融機関などに保有期間中ずっと払い続ける報酬だよな。
筧恵 アクティブ型だと、平均で年に1.3%くらいって聞いたわ。指数に連動するインデックス型だと0.5%台らしいわね。投資家に残るのは信託報酬を差し引いた後の金額だから、長期になるほど信託報酬の影響は大きくなるのよね。
幸子 結構勉強してるわね。来年から始まるつみたてNISAは年40万円までの投資元本に対して、運用益が20年間非課税になるお得なしくみなの。対象となる投信について販売手数料は原則ゼロだし、信託報酬も低いものに絞り込まれているのも特徴ね。

恵 だからこそ私、つみたてNISAをやりたいの。
幸子 ただし保有コストって信託報酬だけじゃないのよ。ほとんど知られていないんだけど、実際にはほかにも、銘柄を売買する際の手数料や外貨建て資産の保管費用などがかかるの。これらを合計した「実質コスト」で見ると、信託報酬の水準を大きく上回ることもあるわ。長期で思わぬ負担増になりかねないので注意が必要よ。
恵 実質コストってどれくらいかかるの?
幸子 投信評価会社モーニングスターの調べでは、国内株式で運用する投信の実質コストは平均で年1.45%。アクティブ型とインデックス型を総合した信託報酬の平均1.29%より、1割強高い計算ね。
良男 結構差があるな。
幸子 新興国株式で運用する投信の平均だと信託報酬の1.36倍の年2.11%にもなるわ。個別にみるとさらに高いものも多いの。ある日本株のファンドだと、信託報酬が2.19%なのに実質コストはなんとその4.2倍の9.3%弱よ。
恵 えっ……。どんな投信の実質コストが高くなるの?
幸子 いくつか傾向があるわ。まず一つは新興国関連ね。売買手数料や外貨建て資産の保管費用が先進国に比べて高くなりがちなの。2番目は、売買頻度が高いアクティブ投信かしら。
恵 アクティブ型が高い理由は?
幸子 投信では組み込む銘柄を売ったり買ったりするでしょ? その売買手数料は信託報酬には含まれないのよ。でも実際には費用がかかっているから、実質コストには入ってくるわ。インデックス型に比べて頻繁に株式を売買することが多いアクティブ型では売買手数料がかさみ、実質コストが高くなりがちね。アクティブ型投信は長期では6~7割がインデックス型に成績が負けると言われるわ。信託報酬が高めであるだけでなく、売買手数料がかさみがちなこともその原因の一つなのよ。
恵 ただしインデックス型でも、実質コストが信託報酬の2.4倍の3.47%に達する中国株投信が表にあるわ。気をつけなきゃね。
幸子 実質コストが高くなる3つめの傾向としては、純資産の小ささかな。例えば外貨建て資産の保管費用は、資産規模が小さくても一定額を支払う契約になっていることが多いわ。すると相対的に比率が高くなってしまうわね。ほかにも、純資産が小さい時期に大きな資金流入があると、新たに組み入れる銘柄の売買手数料の影響が大きくなり、実質コストが相対的に高まりやすいってこともあるわ。
恵 純資産が小さい投信の注意事項として、償還されるリスクが高いというのは本に載ってたわ。でも実質コストが高くなりやすい、というのは知らなかったな。
幸子 3つの傾向というのは絶対じゃなくて、あくまでそうなりやすいという話だけどね。
良男 実質コストは事前に教えてくれるの?
幸子 通常、販売資料などでは信託報酬しか開示されていないわ。売買手数料などがいくらかかったかは、正確には決算後でないとわからない面もあるからなの。
恵 つみたてNISAならこれを通常は年に一度、実額ベースで教えてくれるってわけね。
幸子 そういう面でもつみたてNISAは便利ね。ただ投信を買った後で実質コストが高いのに気付くのももったいない話。過去の実績などは投信選びの際に調べておきたいわね。
良男 過去の実績はどうすればわかるんだい?
幸子 モーニングスターのサイトで見られるわ。自分で直接調べたいときは、各投信の運用報告書を見るの。「1万口当たりの費用明細」という項目の中の「合計」欄で開示されているわ。1年分の運用報告書ならそのまま判断すればいいけど、半期分の場合は比率の値を2倍すれば1年分の概算値を推定できるの。
モーニングスター社長 朝倉智也さん
つみたてNISAを期に投資信託の信託報酬の引き下げが再加速し、インデックス(指数連動)型では年0.1%台のものも増えてきました。ただし実質コストが信託報酬より大幅に高くなる投信もあることは、まだほとんど知られていません。実質コストが年に1度通知されるつみたてNISAの制度は、実質コストの重要性を投資家に知らせる大切な投資教育の役割も果たすことになります。
実質コストは最初の決算を終えた後でないと正確にはわかりません。つみたてNISAの超低コスト投信は新たに設定されたものも多く、その場合はまだ実質コストが見えませんが、やがてわかってきます。見かけ上の信託報酬が低いだけか、その他の費用も抑える努力をした本当の低コスト投信か、実力が問われます。
(聞き手は編集委員 田村正之)
[日本経済新聞夕刊2017年12月13日付]