週末レシピ Xマスチキン、ジューシーに仕上げる秘密
12月もいよいよ終盤。
忘年会にクリスマス、さらにはお正月と、ごちそう目白押しのイベントシーズンである。お風呂に入る時についつい鏡で身体を見てはため息をついてしまうシーズンでもあるが、おいしいものが目の前にあるのだから、多少食べ過ぎるのは仕方がない。きっと来年の自分がなんとかしてくれるであろうと信じている。
ということで今回は、クリスマスチキンのレシピをご紹介したい。調理工程にかかる時間は長めだが、自分の手を動かすのは単純作業のみで合計しても10分足らず。基本的には下ごしらえをしたら冷蔵庫の中、オーブンの中に放置しておくだけなので、普段料理をしない人でも簡単にできる。それなのにものすごく豪華で料理上手に見えるので、持ち寄りパーティーの際には「ええ! ちょっとすごくない?」という感嘆の声が上がる、そしてあなたの株もあがるという、非常に便利な一品だ。
ローストチキンに限らず、おせちのローストビーフなどにも応用できるので、この機会にぜひ覚えておいてほしい。
このレシピの一番の肝は「〇〇漬け」だ。
この記事をご覧のみなさんは、〇〇とは何か、見当がついただろうか? 味噌、塩こうじ、タレ、酢、ヨーグルトなど、発酵食品だからいいはず、酢が肉を柔らかく仕上げてくれるはず……など、色々なものが頭をよぎっただろう。しかし、正解は非常にシンプル。「塩水」なのである。これがあるおかげで、ローストチキンではバサバサになりがちな身が、ふっくらジューシーに焼きあがるのだ。
「は? 塩水漬け?」と思うなかれ。実は塩水漬けは、欧米でも古くから使われてきた「Brining(ブライニング)」と呼ばれる、立派な調理加工技術の一つなのである。彼の地のクリスマスで食べる大きなターキーをおいしく焼き上げるのには欠かせない技術だ。
そもそも肉を加熱した際に固く感じるのは、焼くことによってたんぱく質が縮み、水分が押し出されて外に出てしまうからである。脂肪はたんぱく質ほど縮まないので、脂肪の多い部位は焼いてもジューシーに仕上がりやすいが、モモなどの脂肪の少ない部分は、縮んで固くなってしまいやすい。
ところが、下ごしらえの段階で肉を塩水に漬けておくと、浸透圧の関係で塩水が浸透し、たんぱく質がほぐれ、その隙間に水分が入り込む。さらに、細胞組織が引き締まるので、加熱によって水分が外に出ようとした時に出にくくなる。そのため、肉を焼いた際にふっくらジューシーに焼きあがるのである。
これは、鶏肉でも牛肉でも豚肉でも、どんな肉にも通じる技術なので、クリスマスに限らずおせち料理にも、ローストチキンに限らずローストビーフにも、とぜひ多様に活用してみてほしい。
さて、早速だが、絶品ローストチキンのレシピを紹介しよう。
【材料】
鶏肉(内臓処理済) 1羽 / 水 1リットル / 塩 30グラム / ブラックペッパー 適宜 / ローズマリー 3本 / タマネギ 1個 / オリーブオイル 適宜
(1)水に塩を溶かす。
(2)鶏肉を(1)に漬けて、最短2時間、できれば半日~1日漬け込む。
(3)漬け終わったらキッチンペーパーで水気を拭き取り、ザク切りにしたタマネギを詰めて、お尻の皮をつまようじで止める。
(4)ブラックペッパーとローズマリーを全体にすりこむ。
(5)オーブンを230℃に熱し(4)を置いて、アルミホイルをかぶせて、70分焼く。
(6)焼きあがったらアルミホイルを取り外し、全体にオリーブオイルをまわしかけたら、ふたたびオーブン(210℃)で50分焼いてできあがり。
*切り分けたあとにソースをかけたり塩をつけたりしたい場合は、塩水の濃度を1%程度(水1リットルに塩10グラム)にするとよい。
*冷凍の鶏肉の場合は、流水解凍してから塩水漬けにする。
今回のレシピは一番基本となるレシピだ。シンプルに塩味で食べるレシピなので、ぜひ塩にはこだわってもらいたい。また、お好みでハーブをバジルにしたり、タイムにしたり。中に入れる詰め物だって、タマネギ以外にもニンジン、セロリ、ピーマン、パプリカ、キノコなどなど、冷蔵庫の中に余っているものを色々入れてしまってよいのだ。こんがり茶色くしたければ、(4)のあとにはちみつ水を塗っても良い。アレンジの幅が大きいのもローストチキンの良いところなのである。
「人数少ないからまるごと一羽はいらないんだよね」という方のために、チキンドラムを使ったグリルチキンのレシピもご紹介しておく。
<材料>
チキンドラム 5本 / 水 500ミリリットル / 塩 15グラム / はちみつ 大さじ2 / 白ワインビネガー 大さじ2 / ローズマリー 1本 / オリーブオイル 適宜
(1)水に塩を溶かす。
(2)鶏肉を(1)に漬けて、最短1時間、できれば3時間ほど漬け込む。
(3)漬け終わったらキッチンペーパーで水気を拭き取る。
(4)食品保存袋の中にはちみつ、白ワインビネガー、ローズマリーを入れて(3)を入れてもみ込む。冷蔵庫で半日置いておく。
(5)グリルにアルミホイルを敷いて(4)を並べる。オリーブオイルを回しかけて、中火で片面10分、もう片面10分焼く。
(6)食べやすいようにスティック部分にアルミホイルを巻いたらできあがり。
*冷凍の鶏肉の場合は、流水解凍してから塩水漬けにする。
*漬け込みタレの中身は、はちみつがなければ砂糖でもOK。その場合は大さじ1程度。白ワインビネガーがなければ米酢でもOK。分量は同量で。
このブライニング(塩水漬け)で重要なのは、塩分濃度と、どの塩を使うか、ということだ。数々の文献を当たってみたものの、塩分濃度は1~5%、塩については「岩塩がよい」「海水塩がよい」「どんな塩でも構わない」など、それぞれにばらつきがあった。
色々と試してみた結果、下記のような結論に達したが、あくまで感覚による個人的な見解なので、好みによっても変わるだろう。
【塩分濃度】
そのまま食べる場合は、塩水は約3%がベスト。ただし、あとでソースや塩をかけて食べる時は約1%がちょうどよい。
【使う塩の種類】
ナトリウムだけの塩より、適度にマグネシウムを含んだ塩がおすすめ。食材のうまみを強く感じやすい。パッケージ裏の栄養成分表示の数字を参照するといいだろう。
なお、今回は、キリバス共和国に属するクリスマス島で生産されている完全天日塩「クリスマス島の塩」を使用した。クリスマス向けのローストチキンだから……というくだらないきっかけもあるのだが、もちろんこの塩の味わいがチキンにぴったりだからというのがメインの理由だ。
隣のガラパゴス諸島までの距離はなんと約7500キロ。「絶海の孤島」とも呼ばれる島で、その面積はシンガポールほど。世界で一番大きなサンゴ礁から形成される島だ。南極や北極から流れてくる深層海流が湧きあがるポイントにもなっているため、豊富に含まれるミネラルにより大量のプランクトンが発生し、豊かな漁場ともなっている。そのためか、適度なしょっぱさがありつつも、ほどよいうまみがある。また、切れ味のよいすっきりとした酸味も感じるため、鶏肉特有の脂の香りを緩和してくれる。
前日に仕込んでおいて、パーティーの2時間ほど前にオーブンに放り込んでおけばよいので、とっても簡単だ。「今年のクリスマスはみんなをあっと言わせるぞ」と意気込んでいるそこのあなた、ぜひお試しあれ。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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