湾岸エリアの分譲マンション(写真:ハウスマート)都心回帰を追い風に、活況を呈する中古マンション市場。中古マンション仲介サービス「カウル」の運営を手掛けるハウスマート代表取締役CEOの針山昌幸氏に、売却時の注意点を解説してもらった。
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2020年の東京オリンピック開催を目前に盛り上がる不動産市場。公益財団法人・東日本不動産流通機構のデータによれば、首都圏の中古マンションの平方メートル単価は12年10月から61カ月連続で前年同月を上回っており、特に都心部でその傾向が顕著です(17年10月時点)。実際に当社(ハウスマート)が扱った物件でも、数百万~1000万円程度の利益が出ていると思われる事例が何件もあります。
これだけ不動産価格が上向いてくると、「今のうちに利益を確定して、もっといい物件に住み替えようか」と考える人も多いのではないでしょうか。また、当面その気はなくても、「いくらで売れるのかな?」と気になる方も多いことでしょう。こうした状況の中、当社にもマンションの買い替えや売却の相談が多数舞い込んでいます。特に、お子さんが大きくなって手狭になった若いファミリー層には買い替え需要が強いようです。
そんな中で、お客様に必ず確認することがあります。「今のマンションに住んで、お正月を『5回』迎えられましたか?」――。
別に世間話というわけではありません。回答が「いいえ」だった場合、お客様には売却・買い替えを延期するようにお話しすることもあります。なぜなら、売却時の税金が2倍に跳ね上がり、場合によっては数百万円単位で損する可能性もあるからです。
■保有期間が5年以内だと税金は2倍に
不動産の売却利益に対する税金は、物件の保有期間が5年を超えているかどうかで大きく異なります。保有期間が5年以下の売却における所得を短期譲渡所得、5年を超える売却における所得を長期譲渡所得と呼びます。
・短期譲渡所得の税金 …… 譲渡所得×39%(所得税30%+住民税9%)
・長期譲渡所得の税金 …… 譲渡所得×20%(所得税15%+住民税5%)
(注)平成25~49年までは所得税額に対して2.1%の復興特別所得税が追加で課税される
このように、不動産を取得してから5年以内で売った場合と、5年を超えてから売った場合では、税金は2倍も変わってくるのです。仮に1000万円の譲渡益が出た場合、短期譲渡の場合の税金は396万円、長期譲渡なら203万円。その差は193万円にも達します。ちょっとしたコンパクトカーなら買えてしまう金額ですね。
不動産売却益に対する税金・早見表
「うちは買ってから5年たっているから大丈夫だろう」と言う方もいますが、この「5年」の数え方には独特のルールがあり、注意が必要です。ここで言う「5年超」とは、保有期間がちょうど5年を迎えた日の次の年の「1月1日」以降に売却した場合を指します。例えば12年4月1日にマンションを購入したとすると、5年を超える「長期譲渡所得」として扱われるのは17年の4月1日以降ではなく、次の「1月1日」、つまり18年1月1日以降なのです。
分かりづらいルールですが、これを簡単に理解する方法があります。それが先ほどの「お正月を5回過ぎたかどうか」。お住まいの家でお正月の写真が5年分あれば、間違いなく長期譲渡の対象となります。マンション売却の前には、このルールを思い出してください。
【事例】 横浜のマンションを売却したMさん
うっかり100万円も税金を多く支払うところだったのが、横浜のマンションを売却したMさんです。2人目の子供が大きくなり手狭になってきたことから、それまで住んでいた2LDKのマンションを売却。3LDKのマンションに住み替えることにしました。
Mさんのマンションは築浅であったこともあり、販売開始から1カ月ほどで買い手が見つかりました。Mさんは割安な時期にマンションを購入していたこともあり、500万円強の売却益が見込まれました。
買い手は年内の引き渡しを希望し、Mさんも「そのスケジュールで問題ありません」とのことで話が進んでいきました。大半のお客様は「新しいマンションで新年を迎えたい」と思われるので、年内引き渡しを希望するケースが非常に多いのです。
ところが、ここでMさんに確認してみると、「お正月を5回過ごしていない」ことが判明。これだと短期譲渡所得の扱いになり、売却益に39%の税金がかかってしまいます。年内引き渡しと年明けの引き渡しで、税金の差は実に100万円。そこで買い手と当社が交渉したところうまく話がまとまり、年明けの引き渡しとなりました。これによりMさんが支払う税金は半分の100万円で済みました。
■特別控除をとるか住宅ローン控除をとるか
不動産売買に詳しい方は、「短期売却でも『特別控除』を使えば、よほど高額な不動産でもない限り税金はかからないだろう」と思われたかもしれません。
実は、不動産の売却には、「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」という制度があります。これは、実際に自分が住んでいる不動産であれば、居住年数にかかわらず、売却益が3000万円までであれば無税という強力な制度です。この制度を使って、多くの方が不動産の売却益にかかる税金をゼロにしています。
非常に強力な3000万円控除ですが、こちらを使うと結果的に「損」することもあるのです。具体的には、自宅の買い替えを検討しているケースです。
実は、この3000万円控除を利用すると、「家を売却した年とその後2年間、新しく購入した家に対して住宅ローン減税を利用できない」という制限があるのです。住宅ローンの減税額は、新たに購入する住宅が新築なら最大で400万円(長期優良住宅は最大500万円)、中古住宅だと200万円にもなります(法人売主の中古住宅は最大400万円)。つまり、家の買い替えを検討している場合は、まず自宅が短期譲渡なのか長期譲渡なのかを把握した上で、3000万円控除が得か、新しい家の住宅ローン減税が得か、想定される売却益を前に頭を悩ませなければなりません。
一般論としては、自宅の売却で大きな利益が出た場合は3000万円の特別控除を利用した方がお得になります。自宅を売却した年を含めた3年間は、新たな不動産を購入せずに賃貸に住むのがよいでしょう。その後に新居を購入すれば、住宅ローン減税の恩恵を余すところなく享受できます。
他方、売却利益が少額だった場合は、税金を支払った上で住み替え、住宅ローン控除を受けた方がお得になります。もちろん、「5回のお正月」を待てるのであれば税金が安くなりますので、売買を急がないのであれば時間をおいた方がよいでしょう。
では、住み替えで新しい物件を購入する際に、税金と3000万円特別控除の「損益分岐点」はいくらなのでしょうか。具体的には下の金額を超えた場合は、3000万円控除を使った方が「お得」になります(いずれも住宅ローン控除を最大限使えるものとします)。
(1)短期譲渡かつ新規購入物件が中古住宅 …… 504万6682円
(2)長期譲渡かつ新規購入物件が中古住宅 …… 984万4945円
(3)短期譲渡かつ新規購入物件が新築住宅 …… 1009万3364円 ※
(4)長期譲渡かつ新規購入物件が新築住宅 …… 1968万9884円 ※
※法人売主の中古住宅も同額
売却益が上記金額を上回る場合は、住宅ローン控除による減税分を捨ててでも、3000万円控除のメリットを受けた方がよいのです。また前述したように、短期譲渡と長期譲渡では税金が2倍変わってきますから、待てるのであれば「お正月を5回」過ごして、長期譲渡のメリットを享受した方がよいでしょう。
針山昌幸ハウスマート代表取締役CEO。2009年に大手不動産会社に入社。不動産業界の非効率さに疑問を感じ、楽天に転職。2014年にハウスマートを創業し代表取締役CEOに就任。ITを活用して不動産営業の効率を5倍に高め、仲介手数料を半額に据えた中古マンション仲介サービス「カウル」(https://kawlu.com/)の運営などを手掛ける。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』(日本実業出版社)がある。 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。