「本能」が欲する冬アイス 塩とオイルで大人の味わい
魅惑のソルトワールド(10)
きゅっと身の縮むようなりんとした冷たい空気と北風で、指先がかじかむほどの寒さにさらされる真冬。「なのにどうしてアイスクリームの記事なのよ」と思われたあなた、ごもっともです。
でも、身に覚えはありませんか?
会社や飲み会の帰り道「こんなに寒いのに、どうしてかアイスクリームが食べたい、しかも、ちょっとこってりしたやつ……」という欲望が湧き出てきて、ちょっとした葛藤のあとにコンビニエンスストアに立ち寄る。冷蔵ケースの前でしばし悩みつつ、いつもよりちょっとお高めの、脂肪分高めのこってり系アイスクリームを買って帰った。そんな経験、ありませんか?
大丈夫です。冬なのにそんな思いに駆られているのは、あなただけではないのです。
実はこれ、本能的な働きによるものだったのです。
まず、アイスクリームは含有する乳固形分や乳脂肪の量によってアイスミルクやラクトアイスに分類されますが、水分を除き、どちらも炭水化物と脂質が主成分となります。
冬は、本能的に寒さに対抗しようとするため、身体は自然と脂肪を蓄えようとします。だからそのもとになる炭水化物や脂肪が欲しくなるのは自然なことなのです。冬のダイエットは難しいのですが、これはみなさんご存じですよね。
実はほかにも欲しくなる理由があります。寒さにさらされると、熱を逃さないように血管が収縮しますが、その際に、炭水化物と脂質が分解されてできる成分が消費されます。
そのため、アイスクリームのような炭水化物や脂肪をふんだんに含んだもの、特に乳脂肪の多いタイプのこってりしたアイスクリームが食べたくなるのです。それがないと、寒さに対抗できないからです。
ね、生理的な働きだったということで、これで安心して冬のアイスクリームを堪能できますね。ん? そういう問題じゃない?
さて、今回ご紹介するレシピでは、さらにそこに、良質な油脂であるオリーブオイルと塩をプラスします。
塩は、味覚の対比効果でアイスクリームの味わいを濃厚にしてくれるだけでなく、前回の「塩ショウガごま油鍋、体の芯から温まる 寒い日の夜に」でご紹介したように、身体を温める働きがあります。加えて、フレッシュな味わいのオリーブオイルは、良質な油分としての働きだけでなく、アイスクリームの味わいにまた新たな一面を加えてくれます。
今回は、塩とオイルをアイスクリームにかけるわけですが、シンプルなレシピだけに、塩とオリーブオイルの質も重要となります。
塩はおいおいご紹介するとして、まずはオリーブオイルを。
今回使用したのは、イタリアはトスカーナ産の「フレスコバルディ ラウデミオ」と、同じくイタリアはカラブリア産の「有機オリーブオイル ベルガモット」です。
まずは前者から。「ラウデミオ」は、トスカーナ中央丘陵地帯で産出されるオリーブオイルの中でも、生産者組合の厳しい基準に合格したものだけがその名を名乗ることを許されているオリーブオイルです。その中でも、フレスコバルディ家が生み出す3種類のオリーブをブレンドした「フレスコバルディ ラウデミオ」は特に高評価を得ています。
6キロの実から絞るのはわずか1リットルというこの希少なオリーブオイルは、酸度が低く、美しく透き通った緑色に、強めのスパイシーさ、そしてふわりと鼻孔をくすぐるフレッシュな香りに魅了されます。
後者の「有機オリーブオイル ベルガモット」は、アールグレイなどの紅茶のフレーバーとしても有名なかんきつ類「ベルガモット」のエキスと、有機栽培のオリーブオイルをブレンドしたフレーバーオイルです。ベルガモットはカラブリアが世界一の名産地であり、彼の地では非常にメジャーなフレーバーで、近年ではその豊かな香りに世界から注目が集まってきています。ベルガモット由来のまろやかな酸味、そしてさわやかな苦味、芳醇(ほうじゅん)な香りをしっかりと楽しむことができる一品です。
今回は私のお気に入りの2種類をご紹介しましたが、このオリーブオイルでなくても十分に楽しめますので、ご家庭にあるどのようなオリーブオイルを使用していただいてもオッケーです。ただし、酸化しているものを使用すると風味が台無しになってしまうので、酸化していない新鮮なものを使用するように気を付けましょう。
さて、オリーブオイルの紹介が終わったので、次はいよいよ大人のアイスクリームに最適な塩のご紹介です。
今回は、全部で4つご紹介します。
まずは、キプロス共和国で生産される完全天日塩「地中海クリスタルフレークソルト」。
細やかなフレーク状の結晶が特徴で、シャクシャクとした食感を楽しむことができます。すっきりとしたしょっぱさなので、対比効果でアイスクリームの甘さをしっかりと引き出してくれます。オリーブオイルは「ベルガモット」のようにフレーバーのついたものや、なければローズマリーなどを添えるのもおすすめです。
次は、沖縄県宮古島産の海水塩「雪塩」です。
独自の瞬間蒸発製法で濃縮海水を瞬間的に塩に仕上げるため、通常は分離してしまうにがりも含んだままパウダー状の塩に仕上がっています。
ミネラルのバランスの影響か、乳製品に感じるような酸味を持っているため、アイスクリームに使うとフレッシュチーズのような風味を醸し出します。
見た目が粉糖のようなので、黒い食器に盛ると「お砂糖と思ったらしょっぱい!」と、ちょっとしたサプライズにもなります。
しょっぱさはかなり控えめなので、少し多めにふりかけて。
3つめは、北海道の洞爺湖近辺で生産される海水塩「カムイ・ミンタル 淡雪」です。
数年前に自分へのご褒美旅を敢行した際、ザ・ウインザーホテル洞爺リゾート&スパにある「ミシェル・ブラス トーヤジャポン」で使用されているのに出合って、すっかり一目ぼれしてしまった塩なのです。
「カムイ・ミンタル」とは「神々の遊ぶ庭」というアイヌ語に由来しています。そして、「淡雪」という名の通り、ふわっふわの食感で、美しい純白色。口に入れると、はかなくもするりと溶けていきます。
まろやかなしょっぱさと酸味、うまみ、甘味が、アイスクリームの味わいをより濃厚なものにしてくれます。
最後は、北海道の熊石の海洋深層水とイカスミからできた調味塩「ミエルシオ」です。
イカスミパウダーの専門店が、独自製法で作り上げた生臭さのまったくないイカスミパウダーと、熊石の海洋深層水からできた海水塩をブレンドしています。イカスミ由来のうまみが強く、オリーブオイルと合わせてアイスクリームにかけると、デザートというよりは、冷たいミルクスープのような雰囲気に。
真っ黒の見た目も注目を引くので、最初はなにもかけずに提供し、テーブルの上で「ミエルシオ」をかけると、パーティーシーンなどでは盛り上がるかも。
アイスクリームに合うオリーブオイルと塩をいくつかご紹介しましたが、最後にもう一つ。
塩とオリーブオイルをかけたあと、最近流行のドライフルーツやナッツの入ったグラノーラをぱらりとふりかけると、ヘルシーにボリュームアップ。腹持ちも良いので、3時のおやつにもぴったりです。
この冬は、ぜひアイスリーム+塩+オリーブオイルで、大人の味わいを堪能してみてください。ただし、おいしいからといって、くれぐれも食べすぎ注意ですよ!
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。