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産業医が勧める上司像 理想は「キャバクラの店長」型

産業医・大室正志さんインタビュー(下)

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NIKKEI STYLE

産業医の大室正志さんは「ストレスを与え、部下に最も嫌われるのが、キレるポイントが分からない上司。目指すべき理想の上司はキャバクラの店長」という。その真意は何か。前回の「過労自死を招く企業の構造 産業医が見た職場のリアル」に引き続き、お話を伺いました。

フラットな職場環境の落とし穴

白河 働き方改革などで労働環境が大きく変わる中、上司たちは多様な部下をマネジメントする上で、何に気を付ければいいのでしょうか。

大室 まずは期待値の調整です。僕は、人間関係による問題の大部分は「期待値」だと考えています。

例えば、月に行けないことに対して不自由を感じる人は、ほとんどいないじゃないですか。人は、最初から期待値の外にあるものには、ストレスを感じないんです。

今、「フラットな職場環境」をうたう企業が多くありますよね。そのワードを見て、学生たちは「本当にフルフラットなんだ」と受け取ります。ところが実際は違う。言語化していないところに真実があるのです。

劇作家の寺山修司は、「書を捨てよ、町へ出よう」と言いましたが、彼の家は本で潰れそうでした。言葉に出す部分というのは、自分に足りていない部分なのです。

つまり、「フラットな職場環境」をアピールする企業の多くは、「昭和時代の当社と比べて相対的にフラットになった」という意味なのです。本当にフルフラットだと捉えてしまった学生たちは、期待があった分、入社するとストレスになってしまいます。

だから上司は、まずは新入社員たちの期待値をうまく調整することが必要なんじゃないでしょうか。もちろん、やり方は注意しなければなりませんが。

白河 まず、部下に対しては比較対象を明示した上で発言したり、きちんと言語化をしなければならないわけですね。

大室先生は、「トリセツが分かりやすい上司や指示が的確な上司が、評価が高い。キレるポイントが分からない上司が最も部下にストレスを与える」と、著書で書いていらっしゃいましたね。

大室 子どもがAという行動をしたら、親はお尻をたたくとします。子どもは、お尻をたたかれる行為自体は、それほどショックなことではありません。ただ、子どもがAをしたら、親は昨日はニコニコしていたのに、今日はお尻をたたいたというように一貫していない場合が問題なのです。

つまり、親が情緒不安定で対処が気分によって異なりますと、子どもにとってはキレるポイントがよく分からず、何が正解か分からなくなってしまい、いつもおどおどするようになります。こうして、子どもも情緒不安定になるわけです。

だから、一見怖い上司であっても、「この人はこうすると怒る人なんだ」「こうすると評価してくれるんだ」ということが一貫していれば、部下は「信頼できる」と感じるわけです。

大室 最近は、上司のみならず部下や同僚、顧客などさまざま々な立場から評価をする「360度評価」の導入が進んでいますから、部下も上司を見る機会があります。しかし、少し前は上司からの評価しかありませんでしたから、部下に対しては粗雑に扱う人が結構多かったんです。

部下が評価する制度を導入することで、上司のマネジメントもずいぶん改善されるでしょう。これからは、部下を導くのが上手な人、ファシリテーション能力が高い人が評価されるのではないかと思います。

「俺ってすごくない?」と確認する上司

白河 体育会系の「俺についてこい」というマネジメントではなくて、ちゃんと説明したり、言語化できたり、フィードバックが適切なマネジメントが求められるわけですね。

大室 そうです。かつては、高圧的な「親父」的な上司のほうが評価される傾向が強かったのですが、今はタモリさんや内村光良さんのように、一見すると薄味だけど、自然に周りを導くような感じの人のほうが評価されると思います。

白河 自分がガーっと行くよりは、周りにいる人を輝かせるような人ですね。

大室 ただ、困った傾向も出てきました。ミドルマネジメントが、部下に「俺って、すごくない?」と聞くケースが増えているのです。ちょっと気持ち悪いですよね。

白河 なぜ、そんなことを聞くのでしょうか。

大室 昔、上司と部下との関係は、親子ほどの年の差がありました。しかし今は、両者の関係はフラットに近づきつつあります。

年齢だけではありません。今はプレイングマネジャーが増えているので、かつてのように「監督と選手」のような明確な違いはなくて、「キャプテンと選手」くらいの差になっているわけです。

人は、近しければ近しいほど、「自分のほうが上だ」と確認したくなります。例えば会議中、本来ならば部下をもり立てるのが上司の役割なのに、「俺のほうがすごい」と言ってしまう。すると、部下がしらけてしまうんです。

つまり、上司というアイデンティティーが揺らいでいるから、マウンティングのような形のプチパワハラが増えているんです。一つ一つは小さなものかもしれませんが、積もり積もってゆけば、パワハラと認定されてしまう恐れがあります。

白河 大室先生は、著書の中で「目指すべきはキャバクラの店長」と書いていらっしゃいましたね。これについてちょっと説明してください。

大室 先ほども述べましたが、「オレについてこい」と言うような上司に、現在では若い部下はついてきません。上司・部下だけの関係で多様化した人材をマネジメントするには限界があるのです。

いわゆる体育会系の上司・部下の関係は部下も自分と同じような文化環境で育ったという前提で、言語化して説明するというプロセスを省略してしまいがちです。

むしろ、現在では部下は自分と全く違った環境で育っているので、もともと感じ方や考え方が違うのだという「諦め」からスタートしたほうがコミュニケーションがうまくいく場合もあります。

自分とまったく違った文化環境の人々をマネジメントしている例として分かりやすいのがキャバクラなど夜の接客業の男性店長ではないでしょうか。

そもそも、店員と自分は性別が違いますし、一人ひとりが能力給のため、「店長だから偉くて給料も高い」という図式は通用しません。

共通要素が少ない存在ですから、男性店長は、「この部下たちのために、このチームの能力を最大化するために自分がやれることは何か」を純粋に考えられるのです。

また、キャバクラは離職率が極めて高い職場ですので、部下を職場に引き留めておく「リテンション」も店長の重要な役割になります。店長は部下に気持ちよく働いてもらうためには高圧的な態度を取りません。むしろ店長はよく部下を褒めます。

企業は最近、すぐに辞めてしまう社員、あるいは組織に属することよりも自分というものを大事にする社員を多く抱えています。キャバクラのマネジメントは、彼らをマネジメントする上で参考になるのではないかと思ったのです。

白河 日本企業は45歳以上の男性が占める割合が非常に大きいといわれています。日本は容易に社員を解雇することはできませんから、その人たちをどのように活性化するかが重要課題になっていると感じます。つまりおじさん改革ですね。急な環境変化の中で、彼らは上司としての役割を担い、働き方改革で負担がどんどん大きくなっています。この世代のメンタルヘルスはどのようにしていけばいいのでしょうか。

日本人男性は、日ごろから感情を言語化せよ

大室 個人的な感覚ですが、日本の文化というのは、口に出さないことが美徳とされます。「下手なことを話すと、損をする」という意識が、社会の中で培われてきたのです。

一方、外資系企業は言いたいことをズバズバ言います。なぜかといえば、話さない人間は、マイナスの評価になってしまうからです。

今は環境がどんどん変わってきています。プロジェクト型の業務が増え、雇用の流動性も高まりつつあります。今までやったことのない業務をやらねばならない局面も増えてきました。

すると、ちゃんと話さなければ分からないことが多くなるわけです。それを環境に置き換えようとするならば、ちゃんと言葉にして発する人を評価できるような仕組みを作らなければなりません。

というのは、人間は、自分の意見を言い慣れていないと、いざというときに言えなくなってしまうからです。僕がさまざまな会社でメンタル不調で面談をするとき、特に男性社員は、感情言語が一切ありません。

白河 ええっ、感情を言葉にできないんですか? 例えば、彼らはどのように話すのでしょうか。

大室 上司にひどいことを言われて傷ついていたとしても、ただ「頭痛がして、頭痛薬を3錠飲んだらよくなった」という事実しか言わないんです。背景には上司とうまくいかないことがあるわけですが、そこに対する感情言語を言わないんです。

こういう人は男性が圧倒的に多い。「感情を出すことがはしたない」と育てられているのか、なかなか言えないのでしょう。

白河 「男はこうでなければならない」と。

大室 でも、本当は心の奥底に感情はあるんですよ。感情を抑え続けているとどうなるかと言えば、急に頭痛や吐き気が起こったり、電車に乗れなくなったりします。

感情は、普段からある程度は出しておかなければ、いざというときに本当に出せなくなるのです。

白河 どのように促せばいいのでしょうか。

大室 もちろん、感情的になり過ぎるのは幼稚ですが、感情がないように振る舞い過ぎるのも大人ではないですよね。適度に感情を出して、感情とうまく付き合うのが大人です。感情を抑えるのが大人ではないんですよ。

嫌なものは嫌、やりたいことはやりたいと適度に出す。その上で、やるべきことをやるんです。忙しいところに急に仕事を頼まれたら、「はい」とは言わず、「えーっ、今から?」と言ってみる。そのように言えない人のほうが、仕事を辞めてしまう確率が高いので。中長期的に見て、組織としてどちらが得でしょうか。

感情言語を抜いて、無理やりロジックの言語で解釈することもオススメしません。例えば、上司のことが明らかに嫌いなのに、「彼の言っていることは間違っていない」と無理に合理化しようとする人も多いです。そんなことをすると、だんだんおなかが痛くなってくるんですよ。

でも、そこで合理化する必要はありません。「上司の言っていることは間違っていない。でも、上司の言い方はムカつく」と、分けて考えなきゃいけない。この2つを無理やり統合しようとすると、だんだんストレスがたまってきます。

白河 うつになりやすい人は弱みを見せられない人が多いと書かれていましたが、まさにそうなのですね。企業は、「自分の弱みを言語化する研修」をやったほうがいいのではないかと思います。

大室 感情の言語化は、訓練でできるようになります。日本人男性ができないのは、そのスキルがないだけです。その点では、欧米のほうが進んでいるでしょう。欧米には「懺悔(ざんげ)」というカルチャーがあることも影響していると思います。

もちろん感情で我を忘れろというわけではありませんが、特に日本人男性のミドルマネジメントは、自分の感情を認めて、感情とうまく付き合っていくことを考えていかなければならないと思います。

あとがき:大室先生は長時間労働撲滅プロジェクトのシンポジウムに登壇してくださった方。そのときの「男性は40歳まで自分がロボットだと思って働いている」という言葉が印象的でした。電通の過労自死では「パワハラやセクハラが原因」で「長時間労働ではない」という言説もありましたが、もともとコップの水があふれんばかりになっている状態が長時間労働によってできており、そこに一滴足したらあふれてしまう……そのような状況で起きた悲劇だったのではと想像できます。

制限速度のない高速道路で犠牲を払いながら突っ走るような働き方だった日本。しかし労基法70年の歴史の中初めての制限速度ができる、これが「働く時間の上限規制」です。「社員の時間は有限だと思っていなかった」と発言する社長がいるうちは、まだまだ「時間を規制するのはおかしい」という議論は時期尚早と思います。

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「『婚活』時代」(共著)、「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)。

(ライター 森脇早絵)

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