12月中に準備すべき 会社員も確定申告で損しない
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Q. 同僚が、もう来年の確定申告の準備をしていました。会社員が確定申告をするのはどのような場合でしょうか。今から準備をしておいたほうがいいのでしょうか。
会社員でも確定申告をしなくてはならない人は?
A. こんにちは。経済エッセイストの井戸美枝です。
会社員の人でも、確定申告が必要な場合があります。
税金の計算や納税は、勤め先の会社がしてくれますが(年末調整ですね)、そこで処理されない収入や支出がある人は、自分で申告しなくてはなりません。
では、どういったケースで、確定申告が必要になるのでしょうか。国税庁のウェブサイトを見てみましょう。
1.給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
2.1か所から給与の支払を受けている人で、給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える人
3.2か所以上から給与の支払を受けている人で、主たる給与以外の給与の収入金額と給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える人
(注)給与所得の収入金額から、雑損控除、医療費控除、寄附金控除、基礎控除以外の各所得控除の合計額を差し引いた金額が150万円以下で、給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円以下の人は、申告の必要はありません。
4.同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている人
5.災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
6.源泉徴収義務のない者から給与等の支払を受けている人
7.退職所得について正規の方法で税額を計算した場合に、その税額が源泉徴収された金額よりも多くなる人
大まかにいうと、「会社の給料以外の収入が年に20万円以上ある人」「年末調整では処理されない所得控除を利用できる人」の2つに分けられます。
最近、副業を認める会社が増えているようです。勤め先以外からの収入が年に20万円以上ある場合は、確定申告が必要です。
また、2017年は仮想通貨のビットコインが大きく値を上げました。国税庁は、仮想通貨で得た売却益は「雑所得」に分類すると、17年8月に公表しています。こうした取引で利益を得ている人も確定申告が必要となります。
12月のうちから確定申告の準備をするといい理由は?
一方、年末調整で処理できない控除に「医療費控除」「寄付金控除」「雑損控除」の3つがあります。これらは確定申告によって税金が戻ってくる可能性がありますので、対象となる支出がある場合は今から準備しておきたいところです。なお、近年話題の「ふるさと納税」は、寄付金控除の一種です。
とはいっても、来年の確定申告期間は、18年2月16日から3月15日。まだ2カ月以上先の話なのに……? と思われるかもしれません。しかし、それぞれの控除には上限額や制限があり、毎年1~12月を一区切りとして計算します。
つまり、今年どれくらいお金を使ったかを12月中に把握しておけば、この控除を上手に利用できる可能性があるのですね。
医療費が家族で年10万円を超えそうなら、年内に支払いを
今年はよく病院に行ったなあ……という人に確認してほしいのが「医療費控除」です。医療費控除は、1年間の医療費の自己負担額が10万円を超えた場合、超えた金額が所得控除されるというもの(注1)。
(注1)所得が200万円未満の場合は、所得の5%が控除の対象となります。
医療費は、治療を受けた日ではなく、お金を支払った日で計算されます。
少々極端な例ですが、医療費19万円を12月に9万5000円、翌年1月に9万5000円と2度に分けて支払った場合、12月までの合計が10万円を超えなければ控除額がゼロになってしまいます。
医療費控除は、申告する本人だけでなく、生計を一にする家族や親族が支払った医療費も合算できます。家族全員の医療費を合算すると、上記のようなケースはあり得ない話ではありません。
もし世帯全体で10万円近く医療費を支払っているのであれば、必要な支払いを年内に済ませると、控除できる金額が多くなる可能性があります。
市販薬、年末多めに買ってストックするのもアリ
ドラッグストアで薬を買う人も、要チェックです。17年から、指定された市販薬を年間1万2000円以上買うと、超えた分を所得控除できる「セルフメディケーション税制」が始まりました。
対象となる市販薬は、医療用にも使用され効果が高いとされる83成分を含むもの。風邪薬や解熱鎮痛剤など約1600品目が指定されています。医師によって処方される医療用薬品から転用された医薬品、ということで「スイッチOTC医薬品」と呼ばれています(注2)。
(注2)スイッチOTC医薬品のリストは、厚生労働省のウェブサイトで確認可能。今後、増える可能性があります。
スイッチOTC医薬品には、風邪薬や痛み止め、花粉症などのアレルギーを抑える薬なども含まれています。薬局やドラッグストアで、よく頭痛薬や痛み止めを買っている……という人はレシートで確認を。1万2000円を超えているかもしれません。もう少しで控除を利用できるのに、という人は年内に多めに買ってストックしておくとよいかもしれませんね。
医療費控除と同様に、申告する本人と生計を一にする家族や親族の支払いも合算できます。控除の上限額は8万8000円です。
セルフメディケーション税制の注意点
ただし、セルフメディケーション税制は、医療費控除とは併用できません。どちらの方が控除額が大きいか、計算して有利なほうを申告しましょう。
また、セルフメディケーション税制を利用するには、申告する年に健康診断や予防接種を受けている必要があります。会社の定期健康診断でもOKです。
確定申告の際には、領収書(日付、商品名、価格などが確認できればレシートも可)と健康診断の結果通知表を添付します。1万2000円以上買っているけれど領収書がない……という人は、残念ですが諦めましょう(来年は保管しておきましょう)。
領収書は原本を提出しますが、健康診断などの結果通知表はコピーでの提出が認められています。健診結果部分は不要なため、結果部分を黒塗り、または切り取って提出します。
ふるさと納税・医療費控除・住宅ローン 1年目の人は注意!
次に「寄付金控除」です。
地方公共団体や公益財団法人など、国が認めている団体に寄付をしたとき、寄付をした金額の一部が所得控除されます(国が認めていない私立学校や特定の個人、任意団体への寄付は控除の対象となりません)。
控除額は、「寄付金額」または「その年の総所得金額の40%相当額」のいずれか低い方の金額から2000円を引いた金額が、所得控除されます。
返礼品の自粛の要請が出た「ふるさと納税」も、この寄付金控除に当たります。
ふるさと納税で控除される金額は、年収や家族構成によって異なります。
より細かい目安は、総務省のウェブサイトで確認できます。ふるさと納税をする予定で、まだ上限金額に達していない人は、12月中に手続きを済ませましょう。
ふるさと納税の納税先が5カ所以内の場合は、確定申告をする必要はありません。自治体に申請書を送るだけで寄付金控除を受けられる「ワンストップ特例制度」が16年に設けられており、確定申告なしで控除を受けられます。
ただし、医療費控除や住宅ローン控除(注3)などで確定申告すると、特例は無効になり、改めて寄付金控除の確定申告が必要になります。確定申告の際、ふるさと納税(寄付金控除)を追記し忘れないように、注意してくださいね。
(注3)住宅ローン控除は、1年目は自分で確定申告する必要があります。2年目以降は年末調整で処理されます。
泥棒に入られた! は「雑損控除」
最後に「雑損控除」を見てみましょう。
雑損控除とは、自然災害、盗難、横領などで損害を受けたときに、その損失の一部を所得から控除できるものです。
空き巣に遭い、生活に必要なものを盗まれた……という人は、確定申告すると所得控除を受けられます。ただ、詐欺や恐喝による被害は雑損控除の対象となりません。
雑損控除の対象になる資産は、納税者本人のものか、生計を一にしている家族や親族で総所得金額等が38万円以下の人のものとなります。また、その資産は生活に通常必要な資産であることが条件となっています。
雑損控除できる金額は、次の2つのうち、いずれか多い方の金額です。
(1)(差引損失額)-(総所得金額等)×10%
(2)(差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円
確定申告の際には、被害に関連した支出の金額の領収証を添付するか、提示します。会社員の人は、給与所得の源泉徴収票の原本(会社からもらえます)も申告書に添付します。
自然災害で損害を受けた人は、雑損とは別に、災害減免法による所得税の軽減免除があり(年間所得金額の合計が1000万円以下の人のみ)、どちらか有利な方法を選べます。自然災害の申請は複雑ですので、市区町村の役場などで相談しながら準備をするとよいでしょう。
このように「雑損控除」以外は、12月末までに支出を把握しておくと、控除を活用できる可能性があります。年末進行で慌ただしくなる前に、一度「医療費」と「寄付金(ふるさと納税含む)」の金額を確認してみてはいかがでしょうか。
・会社員でも確定申告が必要なことがある。最近副業を始めた人や仮想通貨を売却した人は要確認。
・医療費控除は10万円を超えた分から。医療費の支払いは年内に済ませよう。
・スイッチOTC医薬品の購入額を計算しよう。1万2000円を超えそうなら、年内に多めに買ってストックしておくのも◎。
・ふるさと納税は、納税先が5カ所以内なら確定申告の必要なし。ただし、医療費控除や住宅ローン控除を申告する場合は、確定申告の書類に追記する必要あり。
・自然災害、盗難や横領などの被害に遭ったら、確定申告で雑損控除を受けよう。
ファイナンシャル・プランナー(CFP)、社会保険労務士。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。社会保障審議会企業年金部会委員。確定拠出年金の運用に関する専門委員会委員。経済エッセイストとして活動。近著に「ズボラな人のための確定拠出年金入門」(プレジデント社)「定年男子定年女子」(日経BP社)「5年後ではもう遅い! 45歳からのお金を作るコツ」(ビジネス社)など。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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