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次世代リーダーの転職学

コンサル活用より勘と度胸? 伸びる会社に3つの視点 リクルートワークス研究所副所長 中尾隆一郎

2017/12/15

実際に、Kさんが見事にアウフヘーベンした一例に、ある主力事業のデジタル化がありました。短期的な業績を考えると、高収益を上げていた紙ベースの事業を維持するという判断になります。現場の意見も大半はこれでした。しかも2000年代初頭の話です。中長期でIT化は進むとしても、その市場への浸透速度はもっと遅いので、「デジタル化は時期尚早」という意見が多くを占めていました。また、IT化投資と設備投資に加え、当時はデジタル商品の顧客への課金が難しかったことから、収益の大幅悪化も懸念されました。

しかし、Kさんは、検討メンバーと一緒に自社の強みを再点検し、「ユーザーの利便性向上という新たな価値を付加することができれば、ユーザー数が大幅に増加する」ことを確信します。そして、価値を向上する施策を具体化し、一気にデジタル化に舵(かじ)を切りました。事業計画は保守的に作成していたものの、この価値向上により想定以上にユーザー数が増加。IT化が浸透するにつれて、従来の事業を上回る収益化に成功したのです。

■アートとサイエンスに加えてクラフトも重視

採用や人材育成の場面でもアウフヘーベンは必要になる=PIXTA

経営に、アートとサイエンスだけでなく、クラフトを加える重要性を提唱したのが、カナダの経営学者、ヘンリー・ミンツバーグです。この3つをアウフヘーベンすることが経営にとって重要だという説です。

ここでは、アートを「思い」、クラフトを「事業経験」、サイエンスを「定量的データ」というように整理すると分かりやすいかもしれません。

私自身、担当分野や業界が変わる、あるいは職種が変わるなど大きな人事異動だけで10回を数えます。毎回、ほとんど異業界に転職したようなものでした。近年では、住宅業界が未経験で住宅の相談を受け付けるスーモカウンターを担当したり、技術者でないのにITのスペシャリスト集団(リクルートテクノロジーズ)の経営を担ったり。現在は、研究経験がないのにHR領域のリクルートワークス研究所で仕事をしています。

もちろん、その分野の専門性や経験がなくても、「アート=思い」を持つことは可能です。リーダーとして担当した部署をどのような組織にするのか、どのような価値を持つのか、思いの部分を考えるのはワクワクします。また、ビジネスモデルを考え、論理的な思考や定量的なデータを活用する「サイエンス」も得意です。

しかし、どうしても私のように人事異動が多いと、「クラフト=事業経験」が不足します。そのため、任された会社や事業を経営していくにあたっては、豊富なクラフトを保有しているパートナーを見つけることが重要です。

逆に、アートやサイエンスの不足を補う必要がある方もいると思います。この3つの観点を同時に実現できると、それぞれの強みを生かした組織をつくれるのです。

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