そうした罠にハマらないためにも、自分の本当にやりたいことは何か、目指すべきゴールは何かということを、ことあるごとに確認する必要がある。一度しかない自分の人生で、本当にそれは自分がしたいことなのか。ただの甘えではないのか。胸に手を当てて問い直してみる。それを怠ると、とたんに足元をすくわれて誘惑に負けてしまうかもしれない。
どうしても煩悩を抑え切れない人もいるだろう。そういう人は、むしろ煩悩を実現する生き方を選んだほうが、自分も幸せだし、まわりにも迷惑が及ばない。だが、人を率いる立場に立つ以上は、ある程度自制が必要だ。煩悩をコントロールして、人を率いていくには、自分の弱さを凌駕するほどの強い思いが必要だ。それが「自分はこうしたい」「こうなりたい」「職業人としてこれをやり遂げたい」という自分なりの前向きな動機付けなのである。
リーダーに向かない人
自分の煩悩さえコントロールできないのに、他人を意のままにコントロールしたいと思うのは、欲張りというものである。そういう人は、リーダーの道から降りたほうが、世のため、人のため、自分のためになる。
たとえば、政局好きの人は、派閥をつくったり、派閥の間を泳いだりして、うまく立ち回る。ところが、風見鶏のように空気を読むことばかりに長けているから、いざ自分が意思決定しなければいけない立場になると、決められないという人が多い。
また、何でも他人のせいにしたがる他責の人が出世すると、部下のせいにしたり、外部環境のせいにしたりして、結局、誰も責任をとらなくなる。そういう人も、残念ながらプレッシャーのかかるポジションには不向きだ。
内にこもりがちな人も、人を率いるリーダーにはにつかわしくない。自分の殻に閉じこもって、誰とも信頼関係が築けないなら、最初から一人で完結した仕事をしたほうがお互いのためである。
とにかく偉くなりたいという出世欲の強い人は、自分がかわいいだけだから、いざというときに自分の身を投げ打って組織のため、部下のために働くよりも、自らの保身に走る可能性が高い。また、これだけは曲げないという自分なりの信念が希薄だから、誘惑に流されやすい。そうなると、どこかで足元をすくわれる可能性がある。
自分の煩悩を認め、それをコントロールしようというのは、ダークサイド・スキルである。英語が得意だとか、数字に強いとか、マーケティングが得意というのは、業務上の経験や学習で培ってきた知識や実践勘の積み重ねであるブライトサイド・スキルだ。それももちろん大事なのだが、ダークサイドの強み・弱みは、自分の価値観や煩悩に基づいている。自分の根っこの部分から来ているから、そう簡単に変えることができない。自分の価値観は簡単には変えられないからブレない信念になるし、自分の煩悩は簡単には変えられないからコントロールする術を身につける必要がある。
