検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

過労自死を招く企業の構造 産業医が見た職場のリアル

産業医・大室正志さんインタビュー(上)

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

電通の過去2度の過労自死は、防げた事件だ」と語るのは、『産業医が見る過労自殺企業の内側』(集英社新書)の著者、大室正志さん。長時間労働は、どのように人の心をむしばんでいくのか。同じ過ちを繰り返さないために、企業はどのように変わるべきか。詳しくお話をお聞きしました。

長時間のストレスが体の誤作動を起こす

白河桃子さん(以下、敬称略) 長時間労働が過労死、過労自死にどのようにつながるのか、産業医の立場から解説していただけますか。

大室 まず言えることは、有名企業の社長だろうが健康な若手社員だろうが、「睡眠不足が体に悪いのは人類共通である」ということです。人類の体は、解剖学的には20万年前からほとんど変わっていません。ただ、環境だけが変化しているんです。

僕らが類人猿だったころ、ライオンに遭遇すれば、まず戦うか逃げるかを決めなければなりませんよね。大抵の場合は戦えませんから、逃げるわけです。そのときに、人間は瞳孔が開いて、皮膚の血管が収縮します。襲われても出血が少なくて済むようにするのです。こうして重要な部位に血液が集まってくるから、緊張すると心臓がドキドキするんです。

一方、胃腸などの消化器系は副交感神経が動かしています。これはリラックスしているときの働きですから、緊張すると、止まってしまいます。だから、緊張すると食べ物が喉を通らないんです。

ただ、僕らが類人猿だった時代、ライオンに遭遇するような緊急事態はごくまれにしかありませんでした。たまに出合ってしまっても、逃げ切れば「やれやれ」と気が抜けて、胃腸が動き始めます。このような体の反応は、今も変わっていません。ところが、今は悲しいことに、隣の席にライオンのような上司が座っているケースがあるんですね。慢性的なストレスを抱えながら、仕事をしなければならない。

こんな状況は、人類のプログラムとしてはすごく不自然なことなんです。緊張が長く続くと、運動をしていないのに動悸(どうき)を感じたり、突然眠くなったりという症状が現れ始めます。

さらに近年は、モバイル機器が発達したことで、どこにいても仕事ができるようになりました。15年前は、六本木ヒルズあたりで、ゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズのダイレクターたちが、「BlackBerry(注:ブラックベリー、スマートフォンの元祖的な存在)」を操作して仕事をしていたんです。その姿は、外にいても仕事ができるほどの裁量権があるという証しでした。

これが今では当たり前となり、新入社員にとっては、外にいても仕事が振られてくるという「首輪」の状態です。

形を先に変えれば、意識も変わる

白河 モバイル機器が、裁量権の証しから奴隷労働の証しになってしまったというわけですね。働き方改革によって柔軟な働き方ができるようになったことはいいことだけれど、副作用もあります。今、仕事のメールを読むツールの1位はパソコンですが、2位のスマートフォン(スマホ)も5割ぐらいを占めるそうです。

大室 もちろんモバイル機器の発達によって、子育て中の主婦も仕事ができるようになるなど、プラスの面もたくさんあります。その一方で、「仕事のやめどき」が分からなくなるという問題も出てきました。特に日本人は、人から「終わり」と言われないと、やめられない傾向があります。欧米は個人主義の国ですので、自分で終わりを決められる人が多いんですが、日本人はそうではない。

例えば、コンサル業のように忙しい仕事でも、プロジェクトが立ち上がって、繁忙期がきて、その後は1週間ほど余裕が出てくるというようにメリハリがあれば何とかなるでしょう。でも、そうはいかない場合が多い。

白河 確かに日本は始まりの時間は決まっていますが、終わりの時間は非常にルーズです。産業医としてさまざまな会社を見てこられて、実感としてそう思われるんですね。

大室 例えば、よく日本のおじさんがビールを飲むとき、断る理由として「いや、僕は医者に止められているから」と言うシーンがありますよね。

それは外国人から見ると、不自然なのです。医者はあくまでもメディカルアドバイザーですから、自分はそのアドバイスに従って主体的に飲まないと決めるわけですよね。

つまり、日本人は責任の主体を曖昧にする言語が大好きなんです。「医者に止められている」という大義名分があるから、仕方なく従いますという言い方が好きなんですね。

逆に言えば、大義名分が現れた瞬間に、薄々思っていたことが一斉に動き出すことがあります。クールビズなんか典型的な例でしょう。「うちの会社、クールビズを始めるというんで、ジャケットを脱いでみたんですよ」と。自分が決めたわけではない。でも、もともと皆が「夏はネクタイなんかしないほうがいい」と考えていたから、一斉に動いたわけです。

「日本人は責任の主体がなくて成熟していない」と否定的な言い方をする人もいますけれど、それを逆手に取って、うまいこと大義名分を誘導してあげるのも、働き方改革を進める上で有効な手段になるのではないかと思います。

白河 私もそう思います。働き方改革の取材をしていたときに、午後7時退社のルールを決めている会社の経営者に「マインドも重要だけど、日本人は横並び意識が強いから、まずは形を決めてあげることが大事だ」と言われたことがありました。

ある程度、「何時までに仕事を終わらせるように」と決めることは、日本のビジネスパーソンにとっては「周りを巻き込む上で重要」なんですね。

大室 よく、「形を決めても、意識が変わらなければ意味がない」という議論をされる方がいらっしゃいますが、僕は逆に、形が決まるからこそ意識が変わると思っています。

「村八分」という言葉があります。かつて日本人は、村社会の中で毎日同じ人と顔を合わせなければならなかった。その中で出過ぎたまねをすることは、村の秩序を乱す行為だったわけです。だから、空気を読んで忖度(そんたく)する。これは、本来の日本人の感性というより、村社会に最適化した感性だと言えます。

疲れてくると、論理思考ができなくなる

白河 電通の事件の話に戻りますが、同社の山本敏博社長が「人の時間というものが有限である、希少なものであるという認識が非常に希薄であったと思う」と発言されていたのが印象的でした。長時間労働が当たり前のようなマッチョカルチャーを象徴する内容です。

私は、やはり制度は弱者に合わせるべきだと思います。会社のベーシックな制度の在り方も今、変化を問われているのでしょうか。

大室 政府の働き方改革では、2カ月連続で80時間を超える残業は禁止という規制を設けることになりました。なぜ80時間かというと、そのラインを超えると睡眠時間が5時間くらいに短縮され、過労死の割合が増えるという統計があるからです。

基本的には、人は睡眠不足になると、一定の割合でうつ状態に陥ります。長く続けば、うつ病になります。うつ病患者は、通常よりも何倍も自殺率が高いのです。

白河 「100時間残業なんて普通だ」とか「電通の事件の原因は、実はパワハラなんだ」などとさまざまな議論がありますが、もともとは長時間労働という、うつになりやすい環境があるところに、何らかのトリガーがあったということなんですね。

大室 そうです。人間の脳は、主に3つの部分に分かれています。表面が大脳新皮質といって、ロジカルに考える機能を持っています。その次にあるのが、大脳辺縁系。感情をつかさどっています。最後は脳幹という部位で、呼吸や内臓の制御など、生きるために必要な動きをコントロールしています。

疲れてくると、表面からどんどんシャットダウンしていくんです。大脳新皮質がシャットダウンすると、次に出てくるのは感情ですよね。

白河 論理思考がどんどん弱くなってくるわけですね。

大室 その通りです。こうして疲労が続いていくと、普段温厚な人がちょっとしたことでキレたりします。これは危険信号だと思ってください。ごくまれにですが、衝動的な行動を取ってしまう人もいます。

白河 よく、「自殺するくらいだったら、会社を辞めてしまえばいいのに」という議論があります。でも、実際は判断力の低下によって、会社を辞めることさえ考えられなくなるのでしょうか。

大室 うつ病と診断されるレベルになってしまうと、複雑な判断が難しくなります。会社がつらいとなると、(1)転職をする(2)今の会社に残る(3)上司に相談する--というふうに、複数のプランを比較検討してメリットやデメリットを考えますよね。ところが、うつ病の方は論理思考ができなくなるわけですから、そういう判断ができなくなるんです。この状態に陥る前に対処しなければなりません。

ある会社では、社風に合わない人を早めに見つけて、うつ病と診断される前に、会社と合うかどうかを議論する仕組みをつくっています。

働き方改革を錦の御旗に

白河 最近、「健康経営」という言葉が注目されていますね。

大室 経営者は、かつて「労働」と「収益」という2軸を持っていればよかったんですが、今は「健康」を合わせた3軸が必要になりました。お手玉を2つやっているときと3つやっているときとでは、複雑性が全く違います。経営の難易度が上がってきたと感じますね。

昔の体育会系気質の人は、部下に無理難題を与えて「何とかしろ」としか言いませんでした。

白河 また、それに応えて、何とかする人が評価されていましたね。

大室 確かに最初から否定する人は、ビジネスマンとしては後ろ向きですけれど、やはり無理な仕事は無理なのです。

しかし、部下が「無理ですよ」と言った瞬間に、上司は「俺を否定したのか」とまるで人格を否定されたように捉えてしまうことが結構多いのです。特に40代以上の課長クラスです。

こうして不機嫌になってしまった上司を見て、部下は「やります」と言ってしまう。

白河 そこで働き方改革のお触れが出ていれば、とりあえず錦の御旗にできますよね。大義名分がある!

大室 そうです。そのときに大義名分として働き方改革があることは、大きいと思います。部下は、「僕がやりたいのはやまやまなんですが、今のご時世では(働き方改革に沿うと)その期間での対応は難しいんですよ」と言える。

よく、働き方改革はマジックワードで、中身は何もないんじゃないかという批判をする人がいますが、まずは言葉を独り歩きさせることは重要だと思います。クールビズと一緒ですね。

(来週公開の後編ではメンタル不調を起こさないためのセルフマネジメントと管理職としての役割と対処についてお伺いします)

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「婚活時代」(共著)、「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)。

(ライター 森脇早絵)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_