銚子極上さば、独自の加工術が美味を呼ぶ サバ博開催
日本全国のサバ産地ならではのサバ料理が楽しめる「鯖サミットin銚子2017」が、11月26日、千葉県銚子市で開催された。鯖サミットは2014年から開催。第4回となる今年は、初の東日本エリア開催となった。
会場の銚子漁港卸売市場には、地元・銚子をはじめ日本各地のサバを使った、さまざまな料理を販売する33店舗、サバだけに「38ブース」が大集合した。
注目は、地元・銚子が提供したブランドサバ「銚子極上さば」。味噌煮、つみれ汁、サバずしなどを販売する店舗が出店した。
銚子市はサバ水揚げ量日本一を誇る。その中でも最も脂がのった秋に水揚げされる、700グラム以上の大型サバが「銚子極上さば」だ。漁獲量全体のたった1パーセントという貴重なサバになる。
銚子のサバのほとんどは加工品として利用されていた。地元では獲れすぎてありがたみのない「下魚」扱い。銚子への観光客が年々減少するなか、そんなサバで銚子の町を盛り上げられないかと立ち上がったのが、地元の飲食店やホテルなどの有志で結成する「銚子うめぇもん研究会」だ。
銚子に行かなければ食べられないサバ料理を、と研究した結果、目指したのが「サバの生食」。サバは寄生虫対策のため、万全を期すためには、いったん冷凍する必要がある。ところが、研究会が開発した「熟成塩タレ」につけてから冷凍すると、解凍後も生と遜色ない新鮮な食感が味わえるようになった。そればかりか、なんとむしろ熟成して、生を超えるおいしさになるという。実際、極上さばの刺し身は、新鮮そのもの。うまみあふれる、まさに「極上」の味わいだ。ただし、刺し身は野外イベントなどでは提供せず、店内のみの提供になる。
カキの殻、香味野菜、海藻などを素焼きのかめに漬け込んで作った「魔法のタレ」を使って仕上げた「極上さば棒寿司」は、サバの身が締めつけられることなくふんわりした食感。酢飯と一体となってとろけるような舌触り。「サバずし界のシフォンケーキ」と呼びたい絶品。だししょうゆで煮てから白味噌、田舎味噌で味付けした、「極上さばの味噌煮」、ふわふわのつみれとうまみが染み出た汁の味わいがたまらない「極上さばのつみれ汁」もバツグンのおいしさだ。
ほか、各地のブランドサバもサミットに登場した。
「八戸前沖さば」は、サバの本州における最北端の漁場である八戸のブランドサバ。秋の早い時期から海水温が下がり、冷涼な水温で育まれることから、脂が身全体に入り、肉でいえばまさに霜降り。いわばサバの「大トロ」ともいえる味わいを堪能できる。
その味わいを一串で楽しめるのが東京にある八戸前沖さばPRショップ「炭火焼ごっつり」の「八戸前沖さばの串焼き」。これは、たんに「サバの切り身を串に刺して焼いたもの」ではない。「1本で1尾分を楽しめる」ように計算し尽くして、刺し上げられた一串なのだ。
腹の白い身、背中の皮の黒い身、脂の多い部分、少ない部分、厚みのある部分、ない部分を絶妙なバランスで串に刺してある。炭火でじっくり焼き上げた串焼きは、こんがり焼けた皮、ふっくらした身。一口かじれば、パリッ、ジュワッ。麗しいほどジューシーな身に感動がとまらない。そして、ビールもとまらなくなる。
世界3大漁場の一つである、金華山沖。黒潮と親潮が混ざり合う良質な漁場で捕獲し、宮城県石巻港に水揚げされた「金華さば」。鯖サミットには、そんな金華さばを使ったユニークな料理が登場した。ヤマトミ「金華さばのハンバーグ」だ。
たんなる「練り製品」ではない。「開発に2年かけた」と常務取締役の千葉尚之さんが語る商品だ。手作業で、サバを細かくたたき、あえて「大きめのゴロッとした身」も加える。さらにタマネギ、ニンジン、セロリ、大葉と野菜もたっぷり入れて仕上げたパテを、ローズマリー、バジル、ケッパー、タイム、オレガノ入りのトマトソースで煮込んだというこだわりのハンバーグ。
サバのうまみいっぱい、ふんわり、なおかつ食感も楽しめるというハンバーグは、ナイフとフォークで食べたいビストロ級の味わい。パッケージデザインもスタイリッシュで、女性ウケバツグンのサバ料理だ。
日本各地の郷土色豊かなサバ料理も登場した。サバが古来より郷土料理として身近なのが、鯖街道を有する福井県若狭湾沿岸の地域。
サバを一尾まるごと串に刺して焼いた「浜焼き鯖」は、若狭を代表するサバ料理。これをアレンジして全国的な大ヒットとなったのが「焼き鯖寿司」。羽田空港「空弁」で、5年連続売上第1位 を誇る若廣の「焼き鯖寿司」も出店。職人の技で黄金色に焼き上げた焼き鯖と、福井県産コシヒカリが織り成す絶妙な一体感が楽しめる。程よく脂がのって、しっとり肉厚、香ばしいサバの身、ふっくらと甘いシャリが口の中に広がり、「焼き鯖寿司」の至福がたっぷり味わえる。
へしこ(サバのぬか漬け)も若狭ならではの味。2005年に「へしこの町」として登録商標をしているほど、へしこ造りが盛んな美浜町も出店。
「美浜のへしこは調味料にほかのエリアにない秘訣があるんです」と美浜町商工観光課の伊達美鈴さん。へしこは一般的に、塩とぬかだけで作られるが、美浜はしょうゆ、みりん、酒かす、唐辛子など各家庭によって「秘伝の隠し味」を使っている。へしこが日々の食卓にあがるお総菜なので、毎日食べても飽きないように工夫されているのだ。この日も、昔ながらの手作業で本格的なへしこ造りを行う、美浜町内の旅館・民宿の女将さんたちが、自慢のへしこを販売した。
へしこ造りは完成までに約1年かかる。手作業でサバを一尾一尾開き、内臓とエラを取り出し、約2週間たるで塩漬けした後、今度はぬか、調味料とともに本漬けをして、たるに重しをのせて約10カ月寝かせる。手間暇かけて丁寧に作られた、へしこはコクとうまみが凝縮されて、ご飯にも酒のさかなにも絶品。美浜町のへしこは全国に多くの熱烈なファンがいる。この日も、なんと販売から1時間で、完売してしまったほどだ。
鳥取市からは「因幡のしおさば」が登場。鳥取市民が愛してやまない「因幡のしおさば」は、鳥取東部・因幡地方の伝統食。サバを背開きにして、身に塩をふったものだ。100年もの歴史があり、その本場は鳥取市から約15キロ西に位置する日本海に面した漁港・酒津(さけのつ)。
酒津の塩サバ加工はひとつひとつ伝統の手作業で行われる。その特徴は「徹底した血抜き」。サバを背中から開いて内臓をきれいに取り除き、ひとつひとつ手洗い。さらに、水に一晩つけて、血を落とす。水の温度も季節によって職人が長年のカンで調整。さらに、手で塩ふり。そんな塩サバの味わいは「ジュワッと広がる脂、口を『支配』するうまみ」。在京鳥取人が「東京であれほどの塩サバは食べられない!」と口をそろえる気持ちがよくわかるほどの「究極の塩サバ」だ。
日本各地には、ブランド化はされていないけれども、絶品の「知る人ぞ知る」サバがある。鯖サミットは、サバファンなら垂ぜんモノの「インディーズサバ」に出合える機会でもある。
三重県一の漁獲量を誇る南伊勢町・奈屋浦漁港はサバの水揚げが豊富。しっかりした食感、上質な脂のりが魅力の「南伊勢のサバ」で町を盛り上げようと活動している「みなみいせ商会」。鯖サミットのために、試行錯誤を重ねて完成したのが「サバ坦々麺」だ。
スープは、サバを湯がいた汁を煮詰め、うまみを凝縮させたのちに、鶏ガラスープ、芝麻醤をブレンドした「極旨サバスープ」。麺はスープとの絡みを考えた特製縮れ中華麺。ひき肉の代わりに、味噌仕立てのサバのフレークを使用。さらに脂ののった一夜干しのサバを軽くあぶってトッピング。南伊勢のサバのおいしさをまるごと詰め込んだ坦々麺は、サバのコクとうまみが、どこまでも身体に染みてくる逸品だ。
近年、人気となっているサバ料理といえば「サバサンド」。東京都三宅島から、ご「島」地グルメとして登場したのが「三宅島サバサンド」だ。
東京都内で、いち早くサバサンドがブレークしたのは、実は三宅島だ。島民からまったく人気がなく、なんと港に着く前に捨てられていたサバを有効活用しようと、「民宿スナッパー」の宮野理恵さんが作り始めたのがきっかけだ。
三宅島サバサンドは、みるみるうちに島を訪れた観光客の間で評判をよび大人気に。島民の間でも評判になりサバのよさが見直された。
あまりの人気に島ばかりか、本土上陸。イベントで大好評。ついには、かの「フジロックフェスティバル」へも出店。そして、不遇だった三宅島のサバは、いまや「船上で活け締め」されるほどの扱いを受け、かつての10倍の値段がつくという「奇跡のサバサンド効果」が起きたのだ。
宮野さんが愛情込めて作るサバサンドは、かば焼き風のボリュームたっぷりのサバ、コッペパン、マーガリン、特製オニオンソースで仕上げられる。豪快にかぶりつくと、おおらかな気持ちになるおいしさだ。
奇跡のサバサンドは鯖サミットでも一番人気。あれよあれよという間に、待ち時間が1時間半という大行列。またしても島外で伝説を作ってしまったようだ。
「サバ」だけで、料理はかくもさまざま。日本のほぼどこでも水揚げされ、その地に根付いた料理があること、和洋中とさまざまな料理の汎用性が高いこと。サバにはほかの魚にはないポテンシャルがある。今年は、3万人の来場者が場内を「回遊」。サバは、日本人に愛されてやまない、国民的「ソウルフィッシュ」であることを実感した。
(食文化ジャーナリスト 池田陽子)
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