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中古住宅の売買が変わる 「診断」の意思、確認義務化 不動産コンサルタント 田中歩

2017/12/13

PIXTA

来春から中古住宅の買い方、売り方が変わることをご存じですか? これまで中古住宅を売買する際、建物の劣化状況を専門家が事前に調査し、その内容を確認してから売買するということは一部でしか実施されていませんでした。しかし2018年4月1日に改正宅地建物取引業法が施行され、不動産業者は中古住宅の売り主や買い主に対し、インスペクション(建物状況調査)をする業者のあっせんの可否を事前に示さなければならなくなります。要するに業者に対して、消費者が中古住宅の「診断」をするかしないかの確認を義務づけた形になったといえます。

■国の登録を受けた技術者が調査

改正法の狙いはインスペクションを消費者に知ってもらい、インスペクションをしたうえで売買するケースを増やすことで、買い主も売り主も安心して取引ができるような市場をつくることです。

宅建業法の改正で規定されたインスペクションとは、国の登録を受けた「既存住宅状況調査技術者」が建物の基礎や外壁のひび割れ、雨漏りなどの劣化や不具合の状況を目視や計測で調査するものです。調査結果を見れば、従来よりずっと安心して売買契約ができます。さらに劣化や不具合がないなど一定の条件を満たせば「既存住宅売買瑕疵(かし)保険」に加入できるので、中古住宅を買った後に万一問題が見つかっても保険でカバーされた範囲については安心です。

中古住宅を購入するときの流れに基づいて国土交通省が改正のポイントをまとめたのが下の図です。今回のコラムでは改正を踏まえ、中古住宅を買う人が何に注意すべきかについてお話しします。

国土交通省「宅地建物取引業法の一部を改正する法律 概要」より筆者抜粋

■媒介契約は早めに結ぶ

まず図の「取引フロー」を見てみましょう。物件を見学し、購入物件が決まったら「購入申し込み」をします。申し込んで数日後から1週間後には売買契約を締結するのが一般的です。「取引フロー」にある通り、

(1)媒介契約締結(物件探しを不動産業者に依頼する契約)→(2)重要事項説明(売買対象の重要な事項の説明)→(3)売買契約締結

と進みます。しかし、現場の実務では契約日と同じ日にこの3つの作業を実施するのがほとんどです。つまり現状の取引慣行のままでは、建物の不具合や欠陥の有無をインスペクションで明らかにしたうえで契約したくても物理的にできません。

このため、改正法で定められたインスペクションをしたうえで購入したい場合、早い段階で「インスペクションのあっせんが可能な不動産業者かどうか」をチェックし、そのうえで媒介契約を締結しておく必要があります。インスペクションをした結果、問題が見つかってしまい契約ができなくなる、つまり仲介手数料をもらえなくなることを恐れ、媒介契約をなかなか締結しない、あるいは「インスペクションは不要だ」と説明する不動産業者が出てくる可能性もありますので気をつけましょう。

なお、媒介契約は複数の不動産業者に物件探しを依頼できる「一般媒介契約」にしておくのがよいでしょう。「専任媒介」や「専属専任媒介契約」だと1社のみにしか依頼できず、ほかの不動産業者から売り物件の情報を提供してもらえないばかりか、インターネットなどで自由に物件を探すことすらできなくなるので注意が必要です。

■インスペクション済みの物件も

購入の申し込みをした物件が、売り主側でインスペクション済みというケースも考えられます。この場合、必ずしも改めてインスペクションをする必要はないのですが、注意したいのはインスペクションをした時期です。ルールでは1年以内となっていますので時期をチェックしましょう。また、1年近く経過していると劣化の状況は変化している可能性があると認識しておくべきです。なお、売り主側でインスペクション済みでも、売り主が了承すれば買い主側の負担で新たなインスペクションはできるので、必要に応じて不動産業者に依頼するとよいでしょう。

既存住宅状況調査技術者はインスペクションをすると、「建物状況調査の結果の概要」を作成します。この書面を重要事項説明の際、調査ノウハウがない宅地建物取引士が説明することになっています。結果の概要は調査した部位の劣化の有無または「調査ができなかった」部位をチェックする書面であり、劣化の程度や修繕の必要性(今すぐ修繕すべきなのか、しばらく様子を見てもよいのか)や修繕費用などは一切語られません。

■調査者から説明を受けるのがベスト

このような説明内容では逆に不安になってしまうと筆者は思います。しかし、調査者は劣化状況などの確認結果を含む詳細な情報を盛り込んだ報告書も同時につくっているのです。そこで国交省は「買い主には結果の概要だけでなく、詳細な内容が記された報告書も渡すのが望ましい」としているので、少なくともこの報告書は不動産業者から入手すべきです。さらに「不動産業者は結果の概要の詳細な説明を依頼者から求められた場合、調査を実施した者に連絡して詳細な説明のための調整することが望ましい」としていますので、事前に説明を受けられるよう不動産業者に依頼しましょう。できれば契約前に実施されるインスペクションに同席し、終了後に調査者から説明を受けられるとベストです。

「建物状況調査の結果の概要」の書面。これだけでは不安は解消されない

筆者は長らく、第三者によるインスペクション付き住まいの仲介をしてきましたが、インスペクションに買い主も同席させるよう売り主や不動産業者と調整し、終了後に調査者から買い主に説明してもらっていました。このくらいしないと中古住宅の場合、本当に契約すべきかどうかの判断はできないと考えているからです。

なお、インスペクションの結果次第で瑕疵保険に入れるようなら、保険への加入を検討しましょう。特に築20年以上の建物(マンションなどの耐火建築物は25年以上)の場合、瑕疵保険に入れば住宅ローン控除の適用が受けられたり、登録免許税や不動産取得税の軽減を受けられたりします。住宅ローン控除は中古住宅では最大200万円の税金が戻ってくるので、買い主にとってのメリットは極めて大きいのです。

■広範囲かつきめ細やかな住宅診断を

宅建業法上のインスペクションは実質的には瑕疵保険のためのもので、調査範囲は限定的です。買い主がその住まいと長く付き合っていくために、広範囲かつきめ細やかに現状の劣化状況を把握し、どんなメンテナンスをしていくとよいかのアドバイスを受けるためのインスペクション(住宅診断)とは中身が異なります。こうした趣旨のインスペクションも兼ね合わせた調査を望む場合、媒介契約時に業者のあっせんが可能かどうか、不動産業者に確認するとよいでしょう。

次回は宅建業法の改正で、中古住宅を売る側の人が注意すべき点について解説します。

田中歩
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。

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