一流ホテルの客室清掃術 前泊者の「気配」を徹底消去

ホテルオークラ東京 客室課マネージャー佐藤俊雄さん  1980年にホテルオークラ東京入社以来、一貫して客室対応を担当。客室清掃チェックに関する同ホテルの社内資格「マスター・オブ・ハウスキーピング」の試験官を務める
ホテルオークラ東京 客室課マネージャー佐藤俊雄さん  1980年にホテルオークラ東京入社以来、一貫して客室対応を担当。客室清掃チェックに関する同ホテルの社内資格「マスター・オブ・ハウスキーピング」の試験官を務める

上質なホテルの客室に漂う、自宅とはまた異なる心安らぐ空気。それは「前日の宿泊客の気配」を徹底的に消し去る清掃法により生み出されたものでもある。日本を代表するホテルの一つ、ホテルオークラ東京では、業界でも珍しい、清掃後の客室チェックの社内資格制度「マスター・オブ・ハウスキーピング」を導入し、83ものチェック項目で細部まで清掃に目を光らせている。

同制度の試験官も務めるベテランホテルマン・佐藤俊雄さんによると、「清掃担当者が客室に足を踏み入れた瞬間、まずチェックするのは臭い」。体臭や香水の残り香がないか、嗅覚を研ぎ澄ます。1室の清掃にかける時間は約45分。その間に臭いを外に追い出すため、入室と同時に窓を開ける。臭いが強く残る場合、オゾン発生装置で脱臭することもあるという。

髪の毛や指紋が残りやすいバスルームは、最も清掃に注力する場所。バスタブや壁を洗剤で洗った後は、鏡や金属部分などを1つ1つ丁寧に磨き上げていく。専門的な薬剤や道具を使うのかと思いきや、「磨くときに使うのは、湯に浸し、絞ったタオルが基本。熱が汚れを緩めるので、ついてすぐの汚れなら大半は落ちます」。汚れは、ついてから時間がたつほど落ちにくくなる。そのため、「お客様がチェックアウトされたら、直後から清掃を始めます」。

家具や家電はから拭きした後、位置のゆがみを正す。わずかなずれが部屋の印象を下げるので、角度や間隔にも気を配る。さらに「気配」を消すため、テレビの音量確認や目覚まし時計のアラーム解除なども抜かりなく行う。

最後は掃除機がけ。部屋の奥からドアに向かって順に進み、「最後は清掃担当者の足跡という気配も消し去り、部屋を後にします」。

清掃の流れをもっと細かく見ていこう。

(1)客室に入り、臭いをチェック

臭いがあれば、すぐに窓を開けて換気する。絨毯にこぼれた香水や酒などが原因なら、ぬれタオルで拭き取るなどして対応。それでも臭いが取れない場合は、オゾン発生装置を作動させて脱臭することも。

(2)カーテンをすべて開け、照明を点灯

細かな汚れやほこりも見逃さないよう、清掃はカーテンを開け、照明をつけた明るい状態で行う。その際、カーテンに汚れがないか、室内のすべての照明が問題なく点灯するかの確認も併せて実施する。

(3)ベッドメイキング

清掃はベッドメイキングから始める。「リネンの掛け替えで舞い上がったほこりは、床に落ちるまでに時間がかかる。その後で掃除機をかけると無駄がない」ため。家庭ではなかなか再現が難しいホテル品質のベッドメイク。シーツのシワやたるみを徹底して伸ばし、余りはマットレス下にたくし込む。羽毛の種類が異なる2つの枕をパンと張った状態で並べると、美しさが際立つ。

手刀で枕を縦半分に折って枕カバーに差し入れ、枕カバーの口を両手で持って底まで枕を落とし、口を内側に折り込む。カバーの余りはヘッドボード側に隠すときれいに見える

ベッド周りは時計などの忘れ物も多い場所。ベッドメイキング終了後、備えつけの懐中電灯の点灯確認も兼ね、ベッド下を照らして必ずチェック。

(4)バスルームの清掃

バスタブ内と壁を中性洗剤をつけたスポンジで磨いて流し、乾いたタオルで上から下に拭く。鏡はぬれタオルで拭き、洗面ボウルはスポンジで磨き、それぞれ乾いたタオルで拭き上げる。客用タオルは幅と長さをそろえてバーに掛ける。髪の毛を残さないよう注意しながら掃除機をかけ、最後に床を拭く。

金属部分の光具合を統一する

蛇口やタオル掛けなど、バスルームには金属のパーツが多い。「1カ所でも磨き残しがあるとそこに目が行き、全体がくすんだ印象になる」。“光り方のトーン”をそろえるつもりで、金属部分を残さず磨き上げてこそプロ。

ついてすぐの汚れなら湯に浸し、固く絞ったタオルでほぼ落ちる。使い古しの毛羽立ったタオルは拭いた後に繊維クズが残りがちだが、同ホテルでは上質なタオルを使うので、拭き上がりがきれい。

(5)室内の清掃

ソファなどの家具が正しい向き、間隔で配置されているか確認しつつ、テーブルの上、テレビ、ベッド脇の照明などを乾いたタオルで拭く。クローゼット内のバーに掛かっているハンガーの数を確認し、向きもそろえる。窓を閉め、カーテンを戻し、客室の奥からドアに向かって掃除機をかけていく。

家具や書類の向きを平行、垂直に

ソファとローテーブルは平行に配置し、デスク上のパンフ類は向きをそろえると、整って見える。宿泊約款など、宿泊客が手にする機会が多いものを入れた引き出しは、客が見つけやすいよう5cmほど開けておく。

素手でほこりをチェック

額縁の上やテレビの裏などにほこりがたまっているのは論外。清掃のプロはそうした場所も見逃さない。「ほこりの有無は素手でチェックする。手袋越しでは、ちょっとしたザラつきを感知できないため」

プロが使う道具たち

使用頻度は高くないが、常に携帯する掃除道具。


1.2.カッターは絨毯(じゅうたん)のほつれ取りに便利。
3.メラミンスポンジは絨毯の泥汚れも落とせる。
4.軽石でこすると洗面ボウルの水垢などもきれいに。
5.6.8.スプーン、竹ベラ、歯ブラシは、絨毯のシミをかき出すとか、タオルを巻いて隙間のほこりを取るときなどに使用。
7.ネジの緩みはドライバーで即締める。
9.真鍮(しんちゅう)のくすみはクリームタイプの金属磨き剤で除去。
10.エタノールは油性のペンや粘着テープの痕も消せる。
11.石鹸(せっけん)をタオルにこすりつけて拭くと、鏡についた指紋も落ちる。

(文 籏智優子、写真 松川智一)

[日経おとなのOFF 2017年12月号の記事を再構成]

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