働き方と暮らし方、私が変える 女性リーダーらが討論
2017日経ウーマノミクス・シンポジウム
女性が力を存分に発揮し、活躍できる社会の実現に向け、日本経済新聞社は11月16日、「日経ウーマノミクス・シンポジウム」を東京・大手町の日経ホールで開いた。効率的に働き成果を上げる「スマートワーク」をテーマにしたパネルディスカッションには、企業のリーダーの女性3人が登壇。自社で進める働き方改革や、キャリアの考え方などについて意見を交わした。(文中敬称略)
パネリストの略歴
積水ハウス常務理事経営企画部ダイバーシティ推進室長 伊藤みどり氏
1974年一般職で入社。結婚・出産を経て営業(総合)職に転換。91年、女性初の店長となる。2006年から女性活躍推進を担当、14年2月から現職
東京海上日動火災保険京葉支店長 三浦時子氏
1987年入社。新横浜支社担当課長、東東京支店専業第5チーム課長などを経て2016年から現職。96年に長男を出産し、仕事と子育てを両立
アフラック執行役員広告宣伝部長 沢村環氏
1985年、外資系食品飲料メーカーに入社。広告業界を経て、2007年アフラックに転職。広告宣伝部門で活躍し、15年に執行役員に昇格
仕事の棚卸しで効率化
司会 女性の活躍には、長時間労働を前提とした働き方の見直しが不可欠だ。どう進めているか。
沢村 2015年から積極的に働き方の見直しを始めた。まず部門単位で仕事を棚卸し。本当に必要かを見極めたうえで、優先順位をつけた。16年は全社で在宅勤務を採用。業務手順書をつくり、仕事の見える化を進めた。今年はテレビ会議やサテライトオフィスを整備するなど、テレワークを進化させている。在宅勤務もかなり広がってきた。
伊藤 単に労働時間を短縮するのではなく、短い時間でいかに成果を出すか、生産性を上げるかが働き方改革の本質だ。業務改善に注力し、個人、チーム、全社で取り組みを進めている。設計や工事など、それぞれ違っていた書類を一元化。ほぼ全社員がスマートフォンやタブレットを持ち、どこでも仕事ができるようになった。
三浦 働く時間と場所、意識を変えて生産性の高い働き方を追求する。そのうえで多様な働き方を認め合う取り組みを進めてきた。社員同士が働き方をどう変えていくか話し合う会を定期的に開催するなど、自由闊達な風土を生かした取り組みもしている。10月からはテレワークを利用できる対象を全社員に広げた。
定時帰宅、仕事の質、成功体験に 目指す3つの「かえる」
司会 自身はどんな働き方改革を実践しているか。
伊藤 空けておきたい時間を確保し、実現するよう仕事のスケジュールを管理している。予定は全社員が見ることができるので、チーム内で仕事の優先度の高さを話し合い、互いの予定を確認しながら効率的に仕事ができている。
三浦 自分もメンバーも3つの「かえる」を目指している。1つは定時に「帰る」で、自己研さんなど自分時間の充実。2つ目は仕事の質を変える。そして働き方改革で成果を出して成功体験に変える。そうすることで一人ひとりが輝ける。生まれた時間は業務に直結する知識の取得にも使うが、映画や美術展を見にいくこともある。人間力や感性を磨くことに時間を使いたいと思っている。
沢村 上司がいるから部下が帰りづらいというのはあってはいけないこと。なるべく早く帰るよう、社員が見ることができる予定表に予定や帰る時間を意識して入れるようにしている。仕事では、自分の中に(アイデアの)引き出しを増やすことが重要。同僚と一緒に芝居を見にいったり、まったく違う仕事をしている友人と食事をしたりする時間を持つことで、いろいろな気づきを得られる。
仕事と仕事以外 双方向性実現したい
司会 目指す働き方は。
三浦 働き方の変革で生み出した時間を、顧客への付加価値提供につなげる必要がある。そのためには内向きの仕事を削減することも課題。付加価値を生まない過剰なこだわりや、丁寧すぎる社内資料は減らすなど、課題意識をもって取捨選択を進める必要がある。
沢村 人生100年といわれる時代。この先まだまだ働こうという気持ちで、もう一度キャリア設計を考えたい。いくつになってもいきいき仕事をして、人生も楽しむ。そんなロールモデルになりたい。
伊藤 仕事で身につけた専門性が世の中への貢献につながり、仕事以外の世界での経験や刺激が仕事に生きる。そんな双方向性を実現したい。そのためには働き続けられる自分自身と、会社や社会とのつながりが必要。持続可能な体制をつくるとともに、女性が前向きに働き続けることを支援していきたい。
講演 永田潤子・大阪市大大学院准教授 「迷ったら面白い方を選ぶ」
ながた・じゅんこ 高校卒業後、海上保安大学校に初の女子学生として入学、卒業。26歳で巡視艇船長に就任。大学院進学を機に教育研究の道に進む。2003年から現職。
私のキャリアは三十数年前、女性に門戸を開放した海上保安大学校に入校するところから始まった。志望していたわけでなかったが、海好きの父に強く勧められたことがきっかけだった。1次試験の合格発表後、なぜか「訳の分からない海保に行く方が人生面白そう」と思えてしまった。私のキャリアを考える一つのキーワードは迷ったら面白い方を選ぶということだ。
「女性初」ということで、テレビなどで紹介された。女性初で鍛えられたことは何なんだろうと考えた。「女性はどうなの」や「おまえはどうなの」と、とにかくよく聞かれる。「私は何を考えているんだろう」と自分の感情と思考を見る癖がついたように思う。
船長になったことをきっかけに、心の環境整備をしておく「心のエネルギーチャージ」が良い仕事をするために必要だとも学んだ。心の(エネルギーの)針を上げる秘訣はライフの中にあるのではないか。
ライフ&ワーク、ワークライフバランスと言ったときのライフには命、日々の生活、人生の3つの意味がある。日々の生活には仕事、家庭、地域・社会、個人の4つが出てくる。この4つのバランスを取ることがワークライフバランスだ。
働き方改革の先には何があるのか。社会や個人にイノベーションを起こしていくことが目的ではないかと考える。
人間観や仕事への情熱、健康状態など一見すると氷山の水面下より下にあるものが、仕事を通じて表現されているのではないか。どんなサービスが求められているのか、どんな人生を望むのかが、人工知能(AI)が出てくる時代の発想やエネルギーの源泉になる。
生活することによって得たヒントをビジネスに生かす「暮らし目線」と、地域や社会から日々の生活を考える「社会目線」を合わせることで社会問題の解決につながる。働き方改革で暮らし目線を考えていくことで、次の日本のイノベーションを起こし、新しい社会をつくっていけると思う。
トークセッション 外交官 私たちの働き方 「働くことで自分が得られること、子供に与えられることはたくさんある」
駐日ルーマニア特命全権大使 タティアナ・ヨシペル氏
1967年生まれ。92年ルーマニア外務省入省、在米国大使館や在イスラエル大使館に勤務。外務報道官兼報道課長などを経て、2016年8月から現職。夫は同じ外交官。2人の娘がいる
駐日イスラエル大使館経済部経済公使 ノア・アッシャー氏
ハーバード大などで学位を取得。前職はイスラエル経済省海外貿易局国際金融支援課長で、イスラエル企業の国際進出を資金面から支援、管理。2014年9月から現職。1男2女の母。
司会 仕事がたまっているが週末は家族と過ごしたいときがあると思う。どう対処しているか。
アッシャー 簡単です。他の人ができること、例えば家事労働はお金を払ってやってもらう。子供と過ごす時間は質が高い時間でなければいけないと思っている。それ以外の家事は、お金を払ってやってもらう。
ヨシペル 同感です。必要なときに手伝ってもらえばいい。それを恥ずかしがってはいけない。我々だけが必要としているわけでないのだから。夫も子供も家事の一部をやってくれる。女性が全部やらなければいけないということもない。優先順位をつけ、本当に必要でないものは後回しにする。
アッシャー 子供が安心して健康で暮らせるかが私の最優先課題。緊急事態のときは100%を子供たちに振り向ける。仕事は効率を重視し、できるだけ早く結論を出す。少し荒っぽいかもしれないが、次の優先課題に移れるよう、すぐ結論を求める。良いチームを作り、チームワークで解決できるようにしておくことも重要だ。
ヨシペル 長時間労働が続くときは、上司に尋ねるべきだ。週に1~2回程度のことならともかく、毎日残業しなければいけないならば、仕事が多過ぎるのではないか、陣容を増やすべきなのではないかと。残業や長時間労働は例外のことで、普通になってはいけない。キーワードは優先順位をつけること、人に委譲すること。それはマネジャーの能力だ。
ヨシペル 残業もして週末も出勤しなければならないとなると、女性は責任ある仕事をしたいという気持ちがなくなってしまう。
アッシャー イスラエルの公共セクターは、週2日は午後4時に仕事を終えなければいけない法律がある。仕組みがあれば、仕事と家庭が両立する一助になる。
アッシャー 私は週2日は早く帰り、子供に「お帰り」と言える日をつくる。その日は子供と一緒にいるときは携帯電話に触らず、メールも子供が寝てから。
ヨシペル 子供は私の仕事を誇りに思ってくれているようだ。特に同性の親が子供に与える影響は大きいと思う。働くことで自分が得られること、子供に与えられることはたくさんある。
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