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生前整理は元気なうちに 家の利用・売却、早期に判断 終活のいま(下)

2017/12/10

PIXTA

 「年賀状の次は大掃除。今年は早めにやるわよ」。筧家のダイニングテーブルでは妻の幸子が夕食を終えた夫の良男と息子の満に呼びかけました。慌てた良男が「大掃除といえば、終活では家や家財の片付けが話題だよね」と聞きかじりの知識を披露し始めました。

筧幸子(かけい・さちこ、48=上) 筧良男(かけい・よしお、52=中) 筧満(かけい・みつる、15) 

筧幸子 「遺品整理」や「生前整理」のことね。家や部屋の中にある家財や物品などを整理・処分するの。住人が亡くなった後に残された家族らが片付けるのが遺品整理、住人が生前に自分たちで片付けるのが生前整理よ。いずれも不用品の量が多くて作業が大変なケースが増えていて、生前の元気なうちに着手するのがいいようね。

筧良男 ゴミでいっぱいの部屋を片付ける番組をテレビで見たことがあるよ。

幸子 背景にあるのが持ち家志向と核家族化。高度経済成長期以降、家を持つことが日本人の人生の目標になり、当時主流だった三世代同居に応じて広い家を建てたの。でもその後で子や孫は独立し、家に住んでいるのはお年寄りだけというパターンが増えているわ。居住年数が長くなれば荷物は増えるけど、部屋の数が多いので置き場に困らない。捨てるのも面倒なので放置してしまい、どんどんモノが増えていくという構図ね。

筧満 三世代同居って?

幸子 祖父母、父母、子など3つの世代がひとつ屋根の下に住んでいる世帯よ。65歳以上の人がいる世帯では、1980年には50%以上だった比率が年々下がり、2016年には11%に減ったわ。代わって増えたのが夫婦のみと単身者の世帯。合計で60%近くに達しているの。

良男 家族が多ければ家財を共有する場合も多いから、年長者が亡くなっても家財などは受け継がれるはず。だから以前はそんなに不用品は出なかったんじゃないのかな?

幸子 日本経済新聞が今年の夏、終活の内容を読者に聞いたところ、「遺品を少なくするための片付け(生前整理)」「あらかじめ遺品整理をプロに頼む」が計11%に上り、死後や終末期の希望などを記すエンディングノートの執筆やセミナー参加などに次いで多かったわ(複数回答。経験済み、準備中を含む)。片付けは高齢の自分や親の終活の重要なテーマになっているの。

良男 プロに頼むと、いくらぐらいかかるんだ?

幸子 業者で異なるけど、基本は処分品の量で決まるようね。部屋の広さに応じて量は見当がつくので部屋のタイプで金額を示すところもあるの。主に関東・東海・近畿で営業するリリーフ(兵庫県西宮市)は1Kなら4万~8万円、1LDKは8万~16万円、2LDKは15万~25万円、3LDKは20万~35万円を目安に挙げているわ。

 遺品整理と生前整理で料金などに違いはあるのかな?

幸子 事前に業者が現地を訪ねて見積もりを取って契約し、作業日に不用品を分別して搬出する流れはどちらも一緒よ。リリーフの赤沢知宣おかたづけ事業部長は「遺品整理はほとんどが不用品だが、生前整理では今後使うものを残す。同じ広さの部屋なら一般に遺品整理の方が処分品が多いので料金は高くなる」と話していたわ。件数では遺品整理が多いけど、一人暮らしのお年寄りなどから生前整理の依頼も増えているそうよ。

良男 価値があるものを買い取ったり、料金から引いたりしてくれる会社もあるとか。

幸子 整理業者は全国で6千社とも1万社ともいわれるわ。過去の実績に加え、リサイクルやリユースの資格があるか確認したり、相見積もりをとって比較したりして選ぶのが重要よ。実際の作業には本人や家族ができる限り立ち会いたいわね。

良男 家や土地の整理も問題になっているそうだな。

幸子 親が住んでいた家を子が相続などで引き継ぐ事例は多いけど、子も自分の家があるので持て余して放置してしまうの。これが近年の空き家問題と結び付いているようね。総務省の調査では全国の空き家数は約820万戸と総住宅数の13.5%にも上るわ。今や7軒に1軒が空き家よ。33年にはこの空き家率が30%を超えるというシンクタンクの予測もあるわ。

 小さいころよく遊んだ公園の近くにある家も、住む人がなくてボロボロだったよ。

良男 貸すにしても古ければリフォーム費用がかかるし、駐車場にするなら古い家を壊して更地にする必要がある。更地にすると固定資産税が高くなると聞いた。借りる人が十分いなければ採算がとれないよね。

幸子 不動産コンサルティングを手掛けるさくら事務所(東京・渋谷)の長嶋修会長によれば、解体費用は1坪(3.3平方メートル)あたり5万~7万円。30坪の家なら150万~210万円。住宅密集地などで重機が入れなければもっと高くなるそうよ。だから「引き継いだ家は使う予定がなければ売ってしまうのがよい」と話していたわ。でも親や自分が長く住んだ家や土地には愛着があったり、家族や親戚の反対があったりもするの。経済合理性だけでは判断できない難しい問題よね。

良男 地方などでは、売りたくてもなかなか買い手が現れない場合があるらしいね。

幸子 そんな不動産を「負動産」などと呼ぶ人もいるわ。でも家は半年も放置すると傷んでしまうの。利用するにしても売るにしても、早めに動き出した方がいいといえるわね。

■片付け、葬儀より負担大きく
第一生命経済研究所主席研究員 小谷みどりさん
 家族に迷惑をかけたくないと終活をする人が増えています。そんな人の多くはまず葬式や墓の心配をしますが、家にある大量の荷物のほうが問題です。これらは整理せずに亡くなると遺品となって処分は家族に委ねられます。1~2日で済む葬式よりも片付けは手間がかかり、家族の負担は大きいのです。価値があると自分で思うものも亡くなれば大半がゴミになります。元気なうちに譲ったり売ったりしましょう。終活は自分の終末期を考えることで今の生活を見直すことでもあるのです。
 家そのものの片付けはもっと大変です。ライフスタイルの変化に応じて住み替えるのが理想ですが、現在の年配者は昔ながらの家に住み続けている人が多く、場所によっては引き継いでもなかなか売れません。この状況は今後、20~30年続くと思われます。
(聞き手は土井誠司)

[日本経済新聞夕刊2017年12月6日付]

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