coba、作曲の極意 傑作は風呂場に降りてくる編集委員 小林明

――突然、風呂場で曲がひらめいたらその処理に困りますね。

「そうなんです。『やった。傑作ができたぞ!』なんてつい油断すると、大切なメロディーを忘れてしまう。それが原因で傑作をかなり逃してきました。そんな失敗談をラジオ番組で話していたら、リスナーの方が風呂場に置けるホワイトボードを送ってくれたんです。これなら傑作を忘れないうちにメモできるだろうと……。ところが、風呂場にそのホワイトボードを置いた途端、ピッタリと曲が降りてこなくなってしまった。妙なものですね。いくらホワイトボードを眺めていても、まったく傑作が降りてくる気がしない。やはり無意識でないとダメなようです。だから、なるべく気にしないようにしています。たとえ忘れても形を変えてまた現れるだろうと考え、自然体でいるように努めています」

人は多様だから面白い、新しいオペラに挑戦

――座右の銘はありますか。

「『人は人を呼ぶ』ということ。正確に言うと『人は多少のノイズを伴い、人を呼ぶ』ということ。必ずしも呼ばなくてもいい人まで勝手に集まってきますからね。だからこそ人生は面白い。人間は多様です。他人と違うから魅力があるし、価値もある。それが文化なんです。最近、異なる他者を許容しないムードが強くなってきているのは危うい兆候だと思います。文化だけでなく、政治も経済も、すべて人間の生きざまにほかならない。移民問題も、宗教・民族問題も、多くの戦争の原因は人間の多様性を許容する精神を持つことである程度は緩和できるのではないでしょうか」

「5年以内に新しいオペラに挑戦したい」と語るcobaさん(自宅スタジオで)

「自分が何者なのか。そして、自分はどこからどこに行こうとしているのか……。それを探し続けるのも自分の使命だと考えています。もし自分の正体が完全に見えてしまったら、それはアーティストとして音楽活動をやめるとき。僕がいつもボーダー柄のシャツを着てるのは、国境や既成概念の枠を越えて旅を続ける気持ちを込めているから。そうした精神的な遺伝子を様々な形で次世代に引き継ぎ、楽器にも音楽にも、いつまでも新たな風を吹き込むことができたらとても幸せです」

――今後の音楽活動の目標は。

「2つあります。1つはこれまで体験したことのない空間・様式で新しいオペラを作りたい。僕が尊敬する武満徹さんが晩年、オペラに意欲を見せつつも結局、完成させることができなかったことを考えると、その思いがますます強くなってきます。オペラはやはり避けては通れない気がする。音楽性はもちろん違いますが、5年以内には自分なりに挑戦してみたい。もう1つは99年からプロデュースしている音楽や芝居、舞踏を組み合わせた実験イベント『テクノキャバレー』をパリでも公演すること。世の中には様々な感情や欲望があり、常に人間模様はドロドロしたものです。そんな世界を風刺的にうまく表現できたら面白いなと思っています」

coba(本名=小林靖宏)
アコーディオン奏者・作曲家。1959年長野市(松代町)生まれ。18歳でイタリアに留学し、ルチアーノ・ファンチェルリ音楽院アコーディオン科を首席卒業。80年世界アコーディオンコンクール優勝。92年『SARA』を収録したアルバム『シチリアの月の下で』で日本レコード大賞特別賞。人気歌手ビョークの世界ツアーなどに参加。映画、CM、テレビの音楽も多数手がける。
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