年金・老後

定年楽園への扉

公的年金は長生きに備える保険 損得論に意味はない 経済コラムニスト 大江英樹

2017/12/14

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退職後は年金が大切な生活の支えになります。しかしながら、その本質的な意味を勘違いしていないでしょうか。今回は国民にとって重要な公的年金について、お話ししたいと思います。

まず、私の講演で必ず出てくる質問があります。それは「年金の受け取りを早くするのと遅らせるのとではどっちが得なのですか」という内容です。確かに公的年金には年金の受け取り開始を本来の65歳から60歳に早めたり、逆に70歳まで遅らせたりする仕組みがあります。これについて、一様に「どちらが損でどちらが得なのか」と聞いてくる人が多いのです。

端的にいうと、受け取りを早めれば年金は減額され、遅らせると増額されます。例えば、60歳から年金をもらうとします。ずっと長生きした場合は、65歳からもらう人に比べて3割も受取額が少なくなります。一方、70歳から年金をもらう場合は、4割も多くなります。その点では、早めにもらうのは損ということになります。

■死んでしまったら損も得もない

しかしながら、公的年金に関していえば損得を考えることはあまり意味がありません。なぜなら、公的年金の本質は万が一に備える「保険」だからです。

保険は自動車事故や病気で働けなくなったり、亡くなったりした場合の家族の生活保障です。予測することができない事態で、かつ自分の蓄えでは賄えない場合に備えるのが保険の役割です。契約期間中にもし何も起こらなかった場合は支払った保険料は損になるでしょう。逆に極端なことをいえば、生命保険に加入してすぐ死亡すれば大もうけです。ほとんど保険料を払っていないのに保険金が全額受け取れるからです。

でも、そんなことを考える人がいるでしょうか? 死んでしまったら損も得もありません。

年金も同様です。ずっと年金保険料を20歳から払い続け、年金を65歳から受け取る場合、計算上は76歳が損益分岐点です。損得だけを考えれば76歳以降に死ねば得ということになりますが、これも死んでしまえば損も得もないでしょう。

もとより、自分がいつ死ぬかは予測不能です。つまり年金は「寿命」という予測不能なものに対して、備えるのが本来的な役割なのです。要するに、年金は万が一長生きしたときの備えです。長生きするのは喜ばしいことですから、万が一という言葉は不適切に思われるかもしれません。でも現実にはどうでしょう。

老後に長生きしてお金がなくなることほど怖いことはありません。だから公的年金は終身、つまり死ぬまでもらえるのです。

■受け取りはライフスタイルに応じて

4月6日付コラム「公的年金 ライフスタイルで変わる受け取り方法」でも述べましたが、それぞれのライフスタイルによって受け取り開始の時期は変わってしかるべきです。自分は働けるのか、健康はどうなのか、老後はどう過ごしたいのかといった個々の条件に応じてじっくり決めればいいのです。

長生きというリスクに備えるには、元気なうちは働いて稼ぐのが一番のお勧めです。働けるのであればその収入で生活費を賄い、それができなくなったときに年金を活用するというのが合理的な考え方ではないでしょうか。

「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は12月28日付の予定です。
大江英樹
野村証券で確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。著書に「定年男子 定年女子 45歳から始める『金持ち老後』入門!」(共著、日経BP)など。http://www.officelibertas.co.jp/

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