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土地は貸すと戻ってこない? 地主の「死角」こんなに 弁護士 志賀剛一

2017/12/7

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Case:23 父から相続した空き地を所有していますが、近所の建築業者から「資材置き場としてしばらく貸してほしい」と頼まれました。いずれはここに自分の家を建てたいので私がこの土地を必要としたときには返してほしいのですが、知人に相談したところ「土地は一度貸すと戻ってこないからやめたほうがいい」と言われました。本当なのでしょうか。

■建物の所有が目的、借り主に強い権限

 「土地を一度人に貸すと戻ってこない」。よく聞く話です。しかし、貸したものは返してもらうのが物の道理ですね。お金を貸した場合を考えてみてください。たとえば返済時期が2018年の12月7日と決まっていたら、その日に必ず返してもらいますよね。土地もこれと同じではないのでしょうか。

 土地の貸し借りは民法上の賃貸借契約に当たります。他に「地上権設定契約」という借り主に強い契約もありますが、あまり利用されていないのでここでは説明を省きます。そして土地を借りている側の権利である「借地権」は、賃貸借契約に基づく「賃借権」と、前述した「地上権」の2つを含んでいます。

 例えばAさんがBさんに土地を貸し、Bさんがそこに家を建てて住んでいたところ、Aさんが突如、Cさんに土地を売ってしまったとします。賃貸借の契約はAさんとBさんの間の決めごとですから、新しく所有者となったCさんが「私はAさんとBさんの間の契約の当事者ではないので、Bさんには出ていってほしい」と主張できるのが本来のルールです。しかし、そうなるとせっかく費用をかけて建てた家を壊して出ていかなければならず、Bさんの生活が立ち行かなくなります。

 そこで、明治の後期に「建物保護に関する法律」が制定され、土地を借りている人は土地の上の建物を登記すれば、地主が代わっても対抗できることとしました。その後、民法の特別法として「借地法」ができ、借地契約の開始時に存続期間の合意がない場合の借地期間について、ブロックやコンクリート造りなど「堅固な建物所有目的」だと60年、木造など「非堅固建物所有目的」でも30年とみなすことにしました。

 また、当事者間で借地期間を定めることに合意した場合でも、借地期間の最低期間は堅固な建物所有目的が30年、非堅固建物所有目的は20年と定められ、これより短い借地期間を定めても無効となっていました。さらに借地期間が満了しても貸主(地主)に正当な事由がない限り、更新を拒絶することができないと規定されました。この正当な事由は容易に認められず(単に「そこに家を建てたい」程度では難しい)、賃貸借が法律上更新されてしまうことから、地主は半永久的にその土地を使えない状態になっていたわけです。

 1991年に借地借家法ができ、定期借地などの制度が新たに導入されましたが、定期借地に該当しない普通借地は依然として解約や更新拒絶に正当な事由が求められているので、借り主が有利になっています。また、借地借家法が施行される前の借地については、旧借地法の規定が適用されることになっており、先代から続いている借地というような場合はだいたい旧法の問題となります。

■資材置き場として賃貸借する場合は?

 しかし、今まで長々述べてきたのはすべて建物を所有する目的の土地の賃貸借についての話で、相談のケースのように建物の所有を目的としない資材置き場であれば借地借家法は適用されません。この場合には民法が適用され、契約で期間が定めてあればその時期に契約は終了し、土地の返還を受けられます。

 更新も可能ですが、貸主が更新を拒むこともできます。期間が定められていない場合には貸主、借り主いずれからも解約申し入れができ、解約通知の後、1年後に契約が終了することになっています。この期間を契約でさらに短くすることも可能です。「なんだ、貸しても大丈夫じゃないか。よし、これでいこう!」。いえいえ、安心するのはまだ早い!

■本当に資材置き場か?

 建築業者は「資材置き場として貸してくれ」と言っているようです。材木や鉄鋼などが野積みの状態で置かれているだけなら問題ありません。しかし、それだと雨ざらしになるので、ぬれないようにするため屋根をつけ、壁ができたらどうなるでしょうか。これは状況次第では建物と認定される可能性があります。プレハブの倉庫や作業小屋などもしばしば問題になります。そうなると、借地借家法が適用される余地が出てくるのです。

 したがって、建築業者に単なる資材置き場として貸すならば、契約書に「建物所有目的でない」「建物やその他の構築物は一切、土地の上に設置しない」と明記すべきです。建物がなければ大丈夫ですが、あるとそれは大きな問題になるのです。万一、契約に反して建物らしきものが建てられていたら、直ちに文書で撤去を要請してください。「まぁ、この程度ならよいか」と思っていると、いくら契約書で禁止していても後日、建物の建築を容認したと解釈される可能性が出てきます。世知辛い話ですが、そこまでしないと「土地が返ってくる」賃貸借になりません。

■「一時使用」の賃貸借にも細心の注意を

 単なる資材置き場ではなく、建物の建築を認める前提で、かつ確実に返してもらえるようにする方法としてまず考えられるのは、一時使用目的のための賃貸借です。「臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合」には借地借家法の規定の多くが適用されないこととなっています。

 私が見る限り、比較的安易に「一時使用というタイトルの契約にして貸せばよい」と考えている人が多いように見受けられます。しかし、一時使用目的かどうかは

(1)賃貸期間の長短(短いほど認められやすい)
(2)利用目的(たとえば土地が工事現場に近く、この工事が終わるまでの間だけ借りたいというように目的がはっきりしていれば認められやすい)
(3)地上に建てられている建物の種類(簡易で取り壊しやすいものほど認められやすい)

など様々な事情を総合的に考慮して判断されます。このため契約書に「一時使用」と書いてあっても、事情次第では借地借家法の諸規定が適用される「普通借地」と認定される余地は十分にありえます。例えば、一時使用契約として期間1年と定められているのに、1年ごとに何度か更新を重ねているような事案は、いざ裁判になると普通借地であると認定される可能性があるでしょう。

 それならばいっそのこと、借地借家法が定めている事業用定期借地権を設定する手もあります。これならば期間経過後の更新はなく、土地は必ず返ってきます。ただし、その場合は最低10年間貸さなければなりません。また、事業用定期借地の契約は公正証書で行うことが必要になります。

志賀剛一
 志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。

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