「缶切り」がインスタ映えで復権 プロ愛用の5選
合羽橋の台所番長が斬る
合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」(http://www.kappa-iida.com/)の6代目、飯田結太氏がイマドキの調理道具を徹底比較。今回は、プロが愛用する、今ひそかに人気上昇中の「缶切り」を検証する。
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こんにちは、飯田結太です。少し前に「缶詰バー」がちょっとしたブームになったことがあります。イマドキの缶詰はプルトップ構造のものが主流ですが、業務用の缶詰はまだまだ缶切りが必要なものが多いのです。フルーツからソース類、輸入食材、食用油や粉類などさまざまな缶詰があり、プロにとって缶切りは定番の道具。そして今、進化した缶切りが次々と発売になっています。
[注]価格は飯田屋の店頭価格。変更になる場合があります。
キーワードはSNSと高齢化
昔からあるプロ用の缶切りといえば、てこの力でコキコキと開けていく「ガンジー」が有名です。今も変わらず人気がありますが、缶切りは進化し、トレンドはハンドルタイプへと移行。そのあとに電動式が登場しました。電動式はいつの間にかブームが去り、プルトップ構造の缶詰が増えてきたこともあって、缶切りの進化はここで止まってしまったように思えました。しかし、ここ2~3年で再び缶切りが増加中。今、飯田屋で扱っているものだけでも20種類以上はあります。
最近の缶切りの傾向は、手をケガしにくい、切り口が尖らないように切れるもの。以前は、缶のふたの内側を切っていくのが一般的でしたが、最近増えているのはふたの外側を切っていくもの。外側を切ると、切り終わったふた部分がまたふたとして使えるのです。食べ終わったら、小物入れとして再利用する人が増えているのだそうです。
このトレンドは、最近のSNSへの投稿に関係があるようです。おしゃれなデザインが施された外国製の缶詰を食べた後にインテリアとして飾る女性が増えていて、その様子をSNSに投稿しているのが理由のよう。海外の缶はプルトップ構造は少数派なので、缶切りが必要になります。「どの缶切りが一番きれいに切れるか」と質問する女性も多く見かけるようになりました。
もうひとつの傾向は、手の力が弱い人、高齢者向けに電動式が復活したこと。「親にプレゼントしたいから」と購入する人も増えています。さらに、おしゃれ家電や調理道具が増えているように、デザインにこだわった缶切りや左利き用も登場しています。
人気缶切り5選の実力を検証
最近の缶切りの傾向は、切った後のふたのフチを手で触ってもケガをしにくい切り口になること、そして、電動式が復活していることです。さらに、一斗缶でもラクに開けられる、プロに人気の缶切りを加えて5つの缶切りを検証しました。
今回試用したのはこちら。
・「クイジプロ 缶オープナー」(飯田屋店頭価格3980円)
・「Giaretti La Bean(ジアレッティ ラ・ビーン)」(飯田屋店頭価格3500円)
・「irori 電動缶切り正宗」(飯田屋店頭価格8000円)
・「Nogent(ノジャン)一斗缶切りクラシック」(飯田屋店頭価格2900円)
ふたが再利用できるハンドル式
現在の缶切りの主流はハサミのような形状で、しっかり缶のふたを挟み込んでハンドルを回すことで缶のフチを切っていくタイプです。特徴は、ふたのフチを手で触ってもケガしにくい切り口になること。例えば、アスパラガスの水煮のような軟らかい食材は、缶の周りが少しでもささくれ立っていると、取り出すときに傷ついてしまい、食材として提供できなくなってしまいます。それがプロの悩みでした。だからこそ、切り口がきれいなのは画期的。その中でも先行してはやったのが「クイジプロ 缶オープナー」。細身で軽いうえに、指置き用のくぼみがあって握りやすい。ステンレスの輪の部分を缶の上に当てて刃でフチを挟み、横についているハンドルを回してふたを切っていきます。
クイジプロで実際に缶を切っていくと、刃の部分を缶に合わせるのに少しコツが必要でした。また、横にハンドルがついていてそこに力を入れすぎるとバランスを崩しそうになってしまうのも残念。でも、切り口はきれいで、これならケガをせず、食材もキレイなまま取り出せそうです。
もうひとつ、「安全に滑らかに切れてケガ知らず」というキャッチコピーで登場したのが、「オクソー スムーズエッジカンオープナー」。オクソーは、デザインが良く使い勝手も良いので人気があるブランドです。でも、プロの目には少し「軟派な製品」に思えていました。ところがこのスムーズエッジカンオープナーによってそんなイメージが覆されたのです。
まずグリップが太くてしっかりしているので持ちやすくて、力も入れやすい。そして、ハンドルがとても軽いんです。缶のフチを挟むと持ち上げてもしっかりと挟んだまま。そしてあまり力を入れなくてもハンドルが簡単に回って切れるので驚きました。1周したら、ハンドルを反時計回りにするとふたが外れるという仕組みも安全性が高くていいですね。そして感動したのが、ふたの切り口。手でなぞっても痛くないし、ケガもしないでしょう。そして、一時保管用のふたとして再利用できるほど切り口がきれいで段差がしっかりしているんです。
高額だけど便利な電動式
ハンドル式と同様に、最近人気が高まっているのが電動式です。調理家電の高級志向の流れは缶切りにまで及び、電動式はとても高額。なかでもプレミアムともいえるのが、「irori 電動缶切り正宗」。まず、缶切りとは思えない大きさに驚きます。そして8000円という価格にもびっくり。高額な理由は、磁石で缶をくっつけて本体を回してふたを切っていくという構造と、1周回ると自動的に停止する賢さ。さらに切り終わっても本体が刃と歯車で支えられているので、スイッチ部分を上に上げてオフにしないと落ちないなど、細やかな気遣いを感じる技術が導入されているところ。高額なのに指名買いする人が多いのもうなずけます。
しかし、とても残念なのが、ふたが極端にギザギザでゆがんでいるところと、アルミ缶は磁石が反応しないので手で押さえていないと使えないという点。
正宗では大きすぎるという人に人気があるのが、「Giaretti La Bean(ジアレッティ ラ・ビーン)」。これは卵形の電動式缶切りを缶詰の上にセッティングしてスイッチをオンにすれば自動的に切っていくというもの。お尻をプルプル震わせながら缶を切っていく様子はチャーミング。ただし、1周して切り終わってもスイッチをオフにしないとずっと回っているので、缶を開けている間に他の作業を、と考えていると大変。ずっとウィンウィンうるさく音を立てているので注意が必要ですね。
小さいのにパワーは強力
プロに愛用されているのが、「Nogent(ノジャン)一斗缶切りクラシック」です。その名前の通り、一斗缶をラクに開けることができるというもの。手のひらにおさまるほど小さいのに、パワーはすごいのです。「一斗缶なら電動式で開ければ簡単なのでは」と思うのですが、実は一斗缶は円形ではなくて四角い缶が多く、電動式では角で止まってしまうのでムリ。時間はかかりますが、これならゼンマイのようなハンドルを回していくとスイスイ切れていくので便利。しかも小さいからポケットにも入れられる。調理中に必要になってもすぐに使えるというわけです。切り口はギザギザでエレガントさはまるで感じないのですが、その無骨さが業務用に最適。ただし、缶の内側を切っていくので、最後まで切ってしまうとふたが中に落ちるため、最後は少し残しておくのがコツです。
ラクなのは電動式、きれいさを求めるならハンドル式
一堂に並べると、切り口の差がはっきりと出ました。5つの缶切りを試用して分かったのは、ギザギザでケガをしたくない、ふたを再利用したいと考えるなら、ハンドル式がおすすめ。ふたはギザギザでもいいからラクに早く切りたいというなら電動式が最適ということ。そして、プロ仕様のコンパクトなものが欲しいなら、一斗缶も切れるノジャンがいいでしょう。
また、缶切りを選ぶときは、刃のチェックをすることも忘れずに。リーズナブルなものでも切れるのですが、長く使うには片刃ではなく、裏側にもしっかり刃がついている両刃がおすすめ。両刃があることで缶にスムーズに刃が入ってあまり力をかけなくても切っていくことができるのです。(談)
(ライター 広瀬敬代)
[日経トレンディネット 2017年11月2日付の記事を再構成]
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