「破れない和紙」でカバンや帽子 メーカー三女が奮闘大直の和紙ブランド「SIWA」(上)

手探りで進めた商品化

深沢氏から渡されたのはイメージ図だけ。それをどう形にしていくかの解は自分たちで見つけなくてはならなかった。

「海外の展示会では関心を持ってもらえることが多い」と、愛さんは言う

「ナオロンはもともと両面テープで貼れる障子紙として販売していましたから、最初はのりやテープを使って貼り付けてみたんです。そうしたら、全然強度が足りない。ボンドならどうかと思って試してみましたが、それでもダメ。最後に誰も想定していなかった紙を縫うという方法を試したら、これがうまくいきました」(愛さん)

この時、縫い手として作業を手伝ったのが、当時はまだ専業主婦だった長女の亜希子さんだった。染め上げた紙を愛さんが切り、それを亜希子さんが縫うという二人三脚でどうにか期日までに間に合わせた。

社長が出した助け船

そうして迎えた展示会初日。事業計画では、「販売は10月ぐらいから……」とスケジュールを立てていたが、思った以上に注文が殺到し、悠長なことを言っていられなくなってしまった。なかには「8月から販売したい」というお客さんもいて、愛さんは慌てた。2日目の朝には青ざめて、姉の亜希子さんにこう電話をかけたという。「予想以上の反響だよ。お姉ちゃんが縫っていたら、たぶん、間に合わない……」

「協力してくれる縫製工場を探そう」と提案したのは、一瀬社長だった。その言葉を受け、愛さんは電話帳を片手に、山梨県内にある縫製工場に片っ端から電話をかけた。

「でも、全部、断られてしまいました。素材が紙ですから、革製のバッグなどに比べて高い値段はつけられない。にもかかわらず、一度縫ったら穴が開いてしまい、縫い直しがきかないなど、縫製の難しさは革と同じかそれ以上。『そんな上代(販売価格)じゃとても縫えないよ』と言われてしまいました」

途方に暮れていたとき、社長がある新聞記事を差し出し、「ここに電話をしてみろ」と愛さんに渡した。記事にあった縫製工場を訪ねると、二つ返事で引き受けてくれた。その工場は、自動車の内装部品であるシートの縫製を主に請け負っていた。同時に様々な新しい開発の取り組みにも精力的で、異素材を縫い合わせた経験もあったため、紙を縫うことにもためらいがなかったという。「バッグなどを作るとなると12枚の紙を縫い合わせる箇所もあるので、自動車のシートのような厚手の素材を得意としていたメーカーに出会えたことはとてもラッキーでした」(愛さん)。

SIWAの縫製は現在、先の工場を含む数社に依頼している。染色も地元企業に請け負ってもらっているという。

「SIWAを手がけたから大きくもうかるわけではないし、どちらかと言えば手間もかかります。それでも『やるよ』と言ってくださった方たちはみなさん、これまでやったことのないことだからおもしろそうだと仲間に加わってくださった。そういう方たちに助けられて、今があります」(愛さん)。

08年にSIWA事業を立ち上げてから、18年で10年になる。売り上げの面では国内分が多いものの、すでに海外20カ国以上とも取引している。海外の展示会に出すと、「ジョルジオ・アルマーニ」など一流ブランドの担当者が珍しがって見に来るという。これまで触れたことのないSIWAの感触をほおずりして試す人もいる。

「ブランドにしたければ、年間1億円を売り上げるのが一つの突破口になる」と、社長には言われていた。愛さんは16年、そのハードルをようやくクリアした。今も試行錯誤は続いている。

(ライター 曲沼美恵)

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