「破れない和紙」でカバンや帽子 メーカー三女が奮闘大直の和紙ブランド「SIWA」(上)

「欠点」が「魅力」に変わった

「深沢さんに新規事業を依頼すると決めた後、社長と2人で東京の深沢直人デザイン事務所へ行きました。入ったとたん、静ひつで洗練された空間に圧倒されました。忙しいはずなのに、スタッフの机の上には何も置かれていなかったんです」

和紙でつくる品には独特のしわや風合いが宿る

明確な返事はもらえなかったものの、感触はよかった。電話などでのやりとりを重ねて深沢氏が大直を訪れたのは、それから数カ月後のこと。工場を案内しながら、社長が深沢氏に紹介した素材のなかに、先の破れない障子紙「ナオロン」もあった。以下は一瀬社長の回想だ。

「ナオロンを開発したのはSIWAの商品開発を始める5年ぐらい前でした。『できるだけ張り替えをしたくない』というお客様の要望を受けて、破れないことを売りにした障子紙を作ったんです」

強度がある半面、いったん折れたり、しわがついたりしてしまうと、どんなに伸ばしても元に戻らないのがこの素材の欠点なんです――。そんな話を深沢氏にしたところ、それが記憶に残ったようだと社長は言う。後に出版された作品集『THE OUTLINE(見えていない輪郭)』(写真家・藤井保氏との共著、アシェット婦人画報社)のなかで、深沢氏はSIWA製品に付きものの「しわ」について、こんな記述をしている。

「皺(しわ)には緊張感のほぐれた安堵感もある。緊張感をほぐすことがこのバッグの魅力だと思う」

展示会までわずか半年

深沢氏がプレゼンのために再び大直にやってきたのは、2007年12月のことだった。手作りのカタログが表現する世界観に、社長も愛さんもくぎ付けになった。ほかのスタッフは目を輝かせながら聞き入っていた。

深沢氏の事務所を訪れた後、このプレゼンまでの間に、社長は事業資金の確保にも動いていた。同じ年、中小企業が地域資源を活用して商品の開発や生産、需要の開拓などを行う際に補助金を活用できる制度が創設されていた。それを知った社長が制度に申請し、認定を受けた。資金のメドはこれで立ったものの、補助金を受けるにはすぐに事業計画をまとめ、08年6月の展示会に商品を出す必要があった。

「実は深沢さんのプレゼンから展示会まで半年間しかなかったんです」と愛さん。商品開発の経験がなかった彼女はそれがいかに大変なことか、全く気がついていなかった。

「障子紙として開発したナオロンは白しかなく、まずはそれを深沢さん指定の色に染めなくてはなりませんでした。ふすまの柄を印刷している職人さんと毎日、テストをしました。桶に染料を入れて染め、乾かし、それを深沢さんに送る。ナオロンはもともと染める想定で作ってはいませんでしたから、どんな顔料を使えばいいのか、染め方をどうするか、乾かすとどれくらい色が変わるのか、といったことを手探りでつかんでいかないといけなかったのです」(愛さん)

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