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「発酵のまち」を訪ねる10選 伝統の魅力が薫る

NIKKEIプラス1

2017/12/3 NIKKEIプラス1

小豆島にある「醤の郷」
醤油に味噌、麹など日本の風土が醸す発酵のうまみ。
木造の古い蔵で静かに息づき、時間をかけて熟成する。
食も街並みも魅力ぷくぷく、発酵のまちを訪ねてみよう。

 発酵学者の小泉武夫さんは「日本はこの国独特の風土が生んだ発酵食品の宝庫」と絶賛する。味噌や醤油の種類は数知れず、日本酒や漬物も土地ごとに風味が変わる。小魚を漬け込んで作る「魚醤」や強烈な臭いで好き嫌いが分かれるくさやなど、味わいも幅広い。いずれも夏は湿潤、冬は厳しい気候風土の中で食品貯蔵のために生まれた知恵と工夫のたまものだ。発酵食品の数々は、2013年にユネスコの無形文化遺産に登録された和食のうまみを支えている。

 「発酵のまち」の多くは古い木造の蔵が軒を連ね、どこか懐かしい雰囲気がある。それには理由がある。

 「蔵に住み着いている酵母を酒造りに使っています」と話すのは、酒造りで300年以上の歴史を持つ寺田本家(千葉県神崎町)の寺田優社長。1位になった小豆島でも木桶が現役で活躍する。木造の蔵や桶なしに、発酵も進まない。蔵も酵母も、生きているのだ。

 発酵食品は添加物が少なく、体にも優しいスローフード。「特に乳酸菌は、健康に好影響を与える」(小泉さん)。これからは、鍋のシーズンを迎える。寒い冬こそ「発酵のまち」を訪ね、身も心もぷくぷくしたい。

1位 香川県小豆島町 720ポイント
醤油400年の歴史、蔵や工場20軒

 海の塩や温暖な気候に恵まれた小豆島は「古くからの発酵アイランド」(小倉ヒラクさん)。特に400年の歴史を持つ醤油(しょうゆ)造りは近代化産業遺産にも認定された伝統産業で、「今も20軒以上の醤油蔵やつくだ煮工場がある」(椿浩さん)。

 その中心は島の東南にある「醤(ひしお)の郷」と呼ばれるエリア。昔ながらの木造の蔵が並び、醤油の香りが漂う。蔵に入ると「醤油造りの木桶(おけ)にびっしりと付着した麹(こうじ)菌が、歴史と伝統を感じさせる」(富本一幸さん)。近くには映画「二十四の瞳」の舞台もあり、「観光地として多彩な魅力を備えている」(黒島慶子さん)。

 (1)草壁港、坂手港(2)0879・82・1775(小豆島観光協会)

2位 秋田県横手市 580ポイント
冬に温まれる食品が豊富

 コメどころ横手だけに、「米で作る麹を使った発酵技術が古くから根付いている」(椿さん)。地元で「あまえっこ」と呼ぶ甘酒、米麹をぜいたくに使った味噌、漬物を薫製にした「いぶりがっこ」。さらには魚醤の「しょっつる」など、「長い冬の胃袋を温めてくれる発酵食品が盛りだくさん」(長谷川賢吾さん)。

 地元では自治体主導で発酵文化研究所を作るなど、いち早く発酵のまちづくりに取り組んできた。「一丸となって発酵を広めようという努力が伝わってくる」(横山貴子さん)。市内増田町の「中七日町通り」には伝統の木造建築が軒を連ね、見学もできる。

 (1)JR十文字駅など(2)0182・32・2117(よこて発酵文化研究所)

3位 千葉県神崎(こうざき)町 510ポイント
発酵テーマに道の駅開業、地域に貢献

 江戸時代に水運で栄えた利根川沿い。小さな町に今も古い酒蔵が残り、「醤油や酢、みりんなどの醸造文化が受け継がれている」(かくまつとむさん)。毎年3月に開く「酒蔵まつり」は臨時列車が運行され、町の人口の10倍の6万人近い人が訪れる人気のイベントだ。

 2015年には全国で初めて、発酵をテーマにした道の駅がオープンした。全国各地の発酵食品を扱い、発酵食品を使った手作り教室も随時、開催している。有機農業やパン店の開業などで移住する若い世代も増えており、「発酵がまちづくりに大きな役割を果たしている」(岡村英彦さん)。

 (1)JR下総神崎駅(2)0478・72・2111(神崎町)

4位 竜の子街道 490ポイント
多様な食品の製造集中(愛知県常滑・半田・碧南・西尾市)
国盛 酒の文化館

 中部国際空港から東に向かって並ぶ常滑、半田、碧南、西尾の4市は、タツノオトシゴに似た地形から「竜の子街道」を自称し、醸造を軸にした産業観光を進めている。日本酒をはじめ、味噌、醤油、酢、みりんと「多様な発酵食品の製造が集中しているのが特徴」(毛賀沢明宏さん)。豆味噌、白醤油、三河みりんなど独特の製品がある。

 「ミツカンミュージアム」(半田市)、中埜酒造の「国盛 酒の文化館」(同)など見どころも多く、「国際空港に近いので、外国人観光客にも人気が出そう」(富本さん)。

 (1)JR半田駅など(2)0569・32・3264(半田市観光協会)など。

5位 長野県木曽町 450ポイント
漬物「すんき」、山あいに根付く
すんきそば

 木曽の山あいには独特の発酵文化が根付いている。代表例が赤カブの葉を漬けた「すんき」。かつては貴重品だった塩を使わず、乳酸菌だけで発酵させた酸っぱい漬物は冬到来を告げる味覚だ。「地元の信州そばとの相性が抜群。そば店には冬季限定で『すんきそば』がメニューに加わる」(長谷川さん)。町は全国でも珍しい発酵食品振興条例を14年に制定。「伝統的な味噌玉、『すんき』の乳酸菌を使ったヨーグルトなど町をあげて発酵食品作りに取り組んでいる」(椿さん)。

 (1)JR木曽福島駅(2)0264・22・3618(木曽町商工会)

6位 石川県白山市 440ポイント
雪深い気候が育む珍味
ふぐの卵巣の糠漬け

 霊峰白山の麓から日本海へと続くエリアは「現代の食生活では思いつかない発酵食品の宝庫」(横山さん)。サバを糠(ぬか)で漬けた「へしこ」、身欠きにしんと大根を麹で漬け込んだ「大根寿司」や酒かす料理など、白山の清流と雪深い気候が育む多様な味が楽しめる。

 中でも独特なのが「ふぐの卵巣の糠漬け」。発酵技術を駆使し2、3年かけて無毒化した珍味で、検査後出荷される。「世界に誇る奇跡の発酵食品。この奇跡に触れるだけでも訪ねる価値がある」(長谷川さん)。

 (1)JR美川駅など(2)076・259・5893(白山市観光連盟)

7位 滋賀県高島市 420ポイント
「鮒寿司」、琵琶湖西岸の味

 すしの原型である「なれずし」を今に伝える琵琶湖西岸の町。特産の「鮒(ふな)寿司」は湖で採れるニゴロブナを塩漬けし、さらに米につけ込んだ伝統の味。強烈な臭いが特徴だが、「そのうま味は知る人ぞ知る奥深い味わい」(毛賀沢さん)。鯖(さば)寿司に使う酢や麹、日本酒、醤油なども数多い。「町ぐるみで発酵食品をPR」(富本さん)しており、京都市に2016年に開いたアンテナショップ「かもす家」も好評だ。

 (1)JR近江今津駅など(2)0740・32・1580(高島市商工会)

8位 新潟県上越市 360ポイント
気候風土が生んだ食品多く

 冬は低温多湿、夏は高温多湿の気候風土が生んだ発酵食品が多く、「文化として生活に溶け込んでいる」(椿さん)。例えば鍋に合う香辛調味料の「かんずり」。収穫した赤唐辛子を塩漬けし、冬場の雪にさらしてアクを抜き、ユズと麹を加えて長期発酵させる。「浮き糀味噌」は「良質な原材料を使い、手間を惜しまず作った伝統食品」(岡村さん)。豊富な日本酒も新潟ならでは。町の中心には雪よけのがん木の町並みが今も残る。

 (1)JR上越妙高駅など(2)025・522・2666(上越発酵食品研究会)

9位 京都市・伏見地区 290ポイント
運河沿いに歴史のある酒蔵
月桂冠大倉記念館

 古くから水運の拠点として栄えた伏見は国内屈指の日本酒の醸造地。歴史のある酒蔵の集積が魅力で、「京都観光で訪れるのには最適」(木下斉さん)。中でも宇治川から引いた運河沿いに建つ月桂冠大倉記念館は、明治期の酒蔵の姿を現代に伝える。「酒の仕込み水が飲める酒蔵があり、蔵を改造したレストランなども多い。坂本龍馬ゆかりの寺田屋、酒を運んだ舟運を再現した十石舟の遊覧など観光スポットも豊富」(富本さん)。

 (1)京阪本線中書島駅など(2)075・213・1717(京都市観光協会)

10位 兵庫県神戸市・西宮市 280ポイント
灘五郷、日本酒の蔵点在
白鶴酒造資料館

 「灘の生一本」で知られる日本一の清酒生産地。神戸市と西宮市にまたがる灘五郷と呼ばれるエリアに日本酒の蔵が点在する。白鶴酒造資料館など、「著名な酒蔵には資料館などが併設されており、酒造りの歴史を知り試飲も楽しめる」(富本さん)。「歩いて回れる範囲に酒蔵が集積しており、日帰りで訪れるのも楽しい」(木下さん)。毎年秋の酒蔵公開では巡回バスも運行され、神戸観光の人気スポットになっている。

 (1)阪神電鉄西宮駅など(2)078・841・1101(灘五郷酒造組合)

◇  ◇  ◇

 ランキングの見方 数字は、選者の評価を合計した総得点。地域名。(1)最寄り駅・港(2)問い合わせ先電話番号。写真は1、3位瀬口蔵弘、2位渡辺信雄、5位木村小左郎撮影。4位中埜酒造、6位あら与、7位魚治、8位上越発酵食品研究会、9位月桂冠、10位白鶴の提供。

 調査の方法 国内で、発酵を切り口にした街づくりに力を入れている地区21カ所を事前に選出。その中から、食品の多様性や観光地としての魅力などを基準に選者11人にベスト10を選んでもらい、合計して点数化した。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)。

 ▽梅木孝志(醸界タイムス編集長)▽岡村英彦(JTB中国四国)▽小倉ヒラク(発酵デザイナー)▽かくまつとむ(地域ジャーナリスト)▽木下斉(エリア・イノベーション・アライアンス代表理事)▽黒島慶子(醤油ソムリエール)▽毛賀沢明宏(産直新聞)▽椿浩(発酵食品評論家)▽富本一幸(トラベルニュース編集長)▽長谷川賢吾(かもし堂)▽横山貴子(日本発酵文化協会代表理事)

[NIKKEIプラス1 2017年12月2日付]

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