「いい民泊」まで排除? 自治体の独自規制に落胆の声東京都世田谷区は住宅地で平日認めず、利用者いない恐れ

「1年半前、(友人や知人、留学生などを合法で泊める)ホームステイの延長のつもりで始めました。保健所から民泊は(旅館業であって)違法と言われましたが、騒音などの問題はいっさい起きていなかったし、何よりも泊まった人にとても喜んでもらえていたので、そのまま続けてきました」

実はホームステイと民泊の境目はあいまいだ。厚生労働省によれば、「社会性をもって継続反復されていて、利用者の生活の本拠となっていなければ旅館業とみなされる」。ミチコさんの民泊は不特定多数の旅行者から宿泊の申し込みを受け付けており、本来は旅館業としての許可が必要といえる。

旅館業の一つである簡易宿所になる選択肢はなかったのか。「保健所で調べたところ、トイレを各階に男性用と女性用それぞれ1つずつ用意しなければならなかったり、フロント(帳場)を設けなければならなかったりで、今の家ではとても無理なことが分かりました」

法的にグレーでも、民泊にはやめられない魅力があったようだ。「生活が苦しくて海外留学に行かせられなかった」という娘たちは、ゲストと片言でやり取りしているうちに簡単な英会話ができるようになった。外国人に対する心理的な壁もなくなり、街で困っている人がいたら何かできることはないか声をかけることもあるという。

お金の面でも助かっている。「近所でお店を営んでいますが、売り上げは不安定。民泊の収入は(生活の)下支えになっています」とミチコさん。民泊の宿泊料は1人1泊40ドル(約4400円)。2人なら合計60ドルだ。仲介業者に払う手数料を引いても、多い月では10万円程度の収入になるとみられる。

民泊をするなと言っているようなもの

とはいえ肩身は狭かった。ネット上には違法民泊の摘発を呼びかける自警サイトまであり、通報を受けて警察官が自宅に踏み込んできたこともある。そこに飛び込んできたのが国による民泊解禁のニュースだ。「これでもう違法といわれずにすむと喜んでいたら、世田谷区が独自の規制をすることが分かり、目の前が真っ暗になりました」

世田谷区が制定しようとしている条例は、同区の面積の78%を占める住居専用地域で月曜から金曜までの宿泊(月曜正午から土曜正午までの利用)を禁止するというもの。利用できるのは週末の2泊(土曜正午から月曜正午まで)と祝日だけだ。ミチコさんの自宅は、まさにその住専地域に当たる。

国は新たに制定した住宅宿泊事業法で民泊を解禁する一方で、「生活環境の悪化を防止するため必要があるときは、合理的に必要と認められる限度において」自治体による制限を認めている。世田谷区は今回の規制について「平日は区外に出ている区民が多く目が行き届きにくいため」(保健所生活保険課)としたうえで、「民泊を推進する立場に変わりはない」(同)と説明する。

ゲストの寝室は6畳の和室(11月21日、世田谷区)

だがミチコさんは「民泊をするなと言っているようなもの」と話す。ミチコさんのところに滞在する外国人はみな3泊以上。1週間もざらだ。「東京は見るところがたくさんあって、2泊では短すぎます。もっと長く滞在したければホテルに移ってください、なんて頼めません」

ゲストのタニーさんとリサさんにも聞いてみた。「民泊は長く滞在してこそ。そうでなければホストとは仲良くなれません。それに休暇をとって日本に来ているのに、週末しか泊まれないなんて、利用者のことを考えてくれているのでしょうか」

周辺の生活環境が悪化するという指摘も、2人には心外だ。「ホストから悪い評価をもらうと(エアビーから点数として公表されて)次に民泊を利用しにくくなるので、迷惑をかけないように注意しています」。2人が起きたばかりの寝室を見せてもらったが、畳の上に布団がきちんとたたまれていて、生活習慣に配慮している様子がうかがえた。

「外国人がうろうろして気味が悪い」

こうした現場の困惑をよそに、民泊の上乗せ規制はほかの自治体にも広がっている。新宿区や中野区は住宅地で月曜から木曜までの宿泊を禁じる方針だ。世田谷区よりやや緩いとはいえ、民泊の利用実態と合わない点は同じだ。大田区は住宅地と工業地などで、民泊そのものを禁じる方向で検討している。

背景にあるのが、一部住民の外国人に対する恐怖心だ。新宿区が11月15日に開いた民泊問題対応検討会議では、警察の出席者が「見知らぬ外国人がうろうろして気味が悪いという苦情が最も多い」と発言。傍聴席から「単なる偏見ではないか」というささやきが漏れた。民泊を推進する国の方針と住民感情の間で、自治体は板挟みにあっている。

「民泊のなかでも、家主が同居する自宅シェア型と同居しない空き家型を区別して扱ってはどうか」。自治体のインバウンド(訪日外国人)政策に詳しい東洋大学の矢ケ崎紀子・准教授はそう提案する。自宅シェア型なら品行の悪い客がいても家主が直接注意できるし、近所からの苦情にも対応しやすい。「いい民泊はきちんと認めたうえで、ホテルや旅館と並ぶ選択肢の一つとして訪日外国人に提供していくべきだ」と訴える。

民泊と密接な関係にあるのが、20年の東京五輪・パラリンピックだ。ともにインバウンドの拡大に寄与するだけでなく、人種や国籍の違いを超えて交わる「共生社会」の理念でも重なり合う。世田谷区が米国選手団のキャンプ地誘致に成功したように、民泊解禁を生かすも殺すもそれぞれの自治体の判断次第だ。

(オリパラ編集長 高橋圭介)

東洋大学の矢ケ崎紀子・准教授が民泊について語ったインタビューもあります。こちら(「ミレニアル世代は民泊好き 次の訪日客、規制で逃すな」)をご覧ください。