「いい民泊」まで排除? 自治体の独自規制に落胆の声東京都世田谷区は住宅地で平日認めず、利用者いない恐れ

2017/12/1

インバウンド最前線

朝食を食べながらゲストとの間で会話が弾む(11月21日、東京都世田谷区)
朝食を食べながらゲストとの間で会話が弾む(11月21日、東京都世田谷区)

一般の住宅に旅行者を泊める民泊は2018年6月の全面解禁を前に、すっかりマイナスイメージが定着した感がある。騒音、ゴミなどに対する住民の不安を受け、東京都世田谷区などの自治体は独自に制限する検討を始めた。だが民泊の現場を訪ねると、異なる実態も見えてくる。特に家主が同居するタイプでは懸念されるような問題は起きにくく、草の根の国際交流さえ生まれている。過度な上乗せ規制は「角を矯(た)めて牛を殺す」ことになりかねない。

駅から歩いて7分ほどの住宅地。約束していた朝8時に呼び鈴を鳴らすと、ホスト(家主)のミチコさん(仮名、56)が顔を出した。民泊仲介会社の米エアビーアンドビーで、ゲスト(宿泊者)からトップクラスの評価を得ている「スーパーホスト」の一人だ。もっとも旅館業としての営業許可はとっておらず、現行法ではグレーといえる。

「いま朝食を作っていて手が離せないので、とりあえずゲストの方と話していてもらえますか」。ミチコさんはこの家のあるじであり、2人の娘の母親でもある。ゲストと家族の朝食をいっぺんに用意しなければならない朝は、1日で最も忙しい時間帯だ。

現行法でグレーでもやめられず

この日泊まっていたのはオーストラリアからの旅行者であるタニーさん(32)とリサさん(39)。「ホストとの交流が楽しいので、海外旅行ではいつも民泊を利用しています」。日本を訪れるのは今回が初めてで、ミチコさんのところに4日間滞在した後は、京都に移動するという。

長女がゲストの似顔絵を描いてプレゼントした(11月21日、世田谷区)

2人はミチコさんが案内してくれる近所の商店街が大のお気に入り。「ラーメンでしょう。ギョーザでしょう。温泉(スーパー銭湯)だってあるわ」。スマートフォンで撮った写真をうれしそうに見せてくれる。日本人の目には単なる日常風景でも、2人にとっては新鮮な驚きだ。

朝食を食べ終わった時に、ミチコさんからサプライズの演出があった。「ハッピーバースデー、タニーさん」。歌いながら手渡したプレゼントは、折り鶴の手作りピアス。タニーさんは早速、耳に付けてニッコリしていた。

これから原宿に出かけるという2人を玄関で見送った後、ミチコさんに民泊との関わりを聞いた。まずは旅館業法について。現在は東京都大田区や大阪市などの国家戦略特区を除くと、簡易宿所でなければ有償で旅行者を泊めることはできない。ミチコさんの民泊は違法でないのか。

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民泊をするなと言っているようなもの