コンビニで手軽に「燗酒」 日本盛、商品開発の舞台裏日本盛「燗酒ボトル缶」

「燗酒ボトル缶」の製造ライン(兵庫県西宮市の本社工場)
「燗酒ボトル缶」の製造ライン(兵庫県西宮市の本社工場)

温かい日本酒が恋しい季節になってきた。大手日本酒メーカーの日本盛(兵庫県西宮市)が10月に業界初の「燗酒ボトル缶」を発売した。温めた状態でコンビニエンスストアや駅売店で販売し、手軽に熱燗を味わいたいときに重宝しそうだ。2週間連続で加温しても品質が低下しない、これまでありそうでなかった熱燗商品。縮小傾向にある日本酒市場の活性化に向けて期待は大きい。開発秘話を聞いた。

2万3000種から「理想の酵母」

日本盛の燗酒ボトル缶

寒くなるとコンビニの店頭にペットボトル入りの温かいお茶や缶コーヒーが並ぶ。いまや珍しくない光景だが、意外なことに燗酒はなかった。温かい飲料を店頭で加温しながら販売する場合、期間を2週間とするのが一般的だが、日本酒は加温状態で保存するのが難しかったからだ。

「お客さんから『温かいお酒が飲める場所はないの』とよく聞かれていた」。森本直樹社長は商品開発の経緯を説明する。日本酒を温めて飲むのは当たり前なのにそれを販売できる環境が整っていなかった。消費者のニーズや市場性を調査し2011年秋に研究が始まった。

研究室の若林興さんはプロジェクトチームから開発の話を聞いた時のことを「いやあ、難しそうだなと思った」と振り返る。技術的な問題は2点あった。1つは香り。日本酒を加温すると「老香(ひねか)」と呼ばれるタクワンや硫黄のような香りが発生する。もう1つは日本酒の色や風味。日本酒は温めると色の変化が激しい。色が変われば味も変わってしまう。できるだけ色がつきにくい酒質にしなければならなかった。

研究室の若林興さん

前例のない取り組みは老香を発生させにくい酵母を探すことから始まった。まずは酵母を選び出す方法を開発する。遺伝子が変異して、老香を発生させなくなった酵母を探す。この酵母を見分けて取ってくる。探し出す方法を見つけるのにかなりの労力がかかり、実作業として酵母を見つけるのも大変だった。数でいうと2万3000の酵母の中から1、2の酵母を見つけ出すという気の遠くなるような作業だ。

独立行政法人・酒類総合研究所と共同研究し、開発まで4年かかった。それまでは、1週間加温しただけで色や香りが劣化してしまっていたが、新しい酵母菌の開発で飲料用の加温器で2週間連続、55~60℃に加温したままでも品質が保たれるようになった。

新開発の日本酒(右)は2週間連続で加温しても変色しない

もう1つの課題は色。酒質を劣化させる要因となる「メイラード反応」が色も変化させる。「糖類」「アミノ酸」を低減すれば、反応は抑制できるが、どちらも味わいのもとでもあり、一定量は必要だ。日本盛は糖とアミノ酸の反応を抑える新たな仕込み技術を開発し、「メイラード反応」の抑制に成功した。特許出願中の技術で詳細は明らかにしなかったが、色がつきにくく、味わいを保つという。「これは基本的な技術開発に2年かかった。その後、味わいの微調整で酵母探しと同様、4年かかった」(若林さん)

■ボトル缶を採用

品質保持性の高さや携帯性から容器にはアルミのボトル缶を採用した。紫外線や酸素による劣化を防ぐ。キャップの開け閉めができ、軽く割れない利点もある。今年2月から4月に関東圏の一部のコンビニや駅ナカの売店でテスト販売した。目標の1.5倍の売れ行きとなり、今年10月2日に全国販売が始まった。

冬場の屋外のイベントやスポーツ観戦の場でも売り込んでいく。現在、サッカーの競技場で商談中という。マーケティングを担当する商品開発室の高野将彰さんは「(危険防止のため)缶をスタジアム内で売れないので、カップに移す方法で話が進んでいる」と明かす。「販売のオペレーションもラクになるという提案も含めていろんな用途を開拓していければ」

店舗ではコンビニと駅ナカ売店が主な販路となる。適切な加温状態で売ってもらえるよう、慎重に販売先探しを進めている。まだ取り扱い店舗は少ないものの、POS(販売時点情報管理)データを調べてみると、週末だけ販売している、ある競馬場の最寄り駅の売店は温かいお茶に比べ燗酒は販売本数は少ないが、売り上げ金額は同じだったいう。

商品開発室の高野将彰さん

今年秋、コンビニで加温販売する缶入りのスープの品質悪化がニュースになった。製品自体に問題はなく、加温手法に問題があったとされている。同じように加温販売する燗酒にとっても気になる話だ。ジュースなど他の飲料に比べて商品の回転を見極めないと温めすぎで品質が低下する懸念がある。「加温についてはあらためて啓蒙をしている。保温温度と期間の管理について、店舗に意識を高めてもらうようお願いしている」(高野さん)という。温めすぎによる品質のクレームだけは避けたい。そのためにも取扱店舗拡大は店舗の売り上げ状況などを踏まえ慎重に進めていく。

「燗酒180ミリリットルボトル缶」は1缶223円(税別)。100円台~200円台前半の一般的なカップ酒よりちょっと高めだ。淡麗でやや辛口の味わい。初年度の販売目標は1億円と控えめ。付加価値が高い分、安売りはせず大事に販売していく。将来的には酒類商品のヒット商品の目安とされる10億円を目指す。ホットドリンクがよく売れるのが11月から翌年2月下旬。まずはそこを狙っていく。

全国的に昨年まで2シーズン続けて平年より暖かい冬が続いた。気象庁の予報では今季は平年並みの寒さが戻りそうだ。手軽に飲める燗酒が停滞する日本酒市場に火をつけるか。手探りの「燗酒」販売の本番はこれからだ。

チャレンジ精神は創業時から 森本社長に聞く

――ありそうでなかった燗酒商品。商品開発のきっかけはなんですか。

「チャレンジ精神は我が社のルーツから」と話す森本直樹社長

「さかのぼれば平成元年(1989年)、ちょうど会社の創業100周年の時、当時の役員・幹部で将来のマーケティングをどう考えるか話し合った。『シーンマーケティング』といい、どの地域の、どんな状態でどんな人にどんな商品を飲んでもらうのか。そういうのが最初の発想だ。その後、商品プロジェクトのなかから生まれたのがホット清酒だ」

――日本盛はこれまでも生原酒のボトル缶や糖質・プリン体ゼロの日本酒といった業界初の画期的な商品を開発してきました。チャレンジ精神の源はなんでしょうか。

「もともと明治22年(1889年)に地域の青年実業家が集まって地域に役立つビジネスをなにかやろうじゃないかというのが会社のおこり。いまでいうベンチャー企業だ。その時に作ったのが日本盛と西宮銀行(現在の三井住友銀行の前身のひとつ)だ」

「清酒メーカーは古いところでは歴史が500年というのがある。設立間もない当社にはなんでもやってみようというチャレンジ精神があった。会社のルーツがそういうところにあったのが大きい」

「創業当初から明治時代にはほとんどなかった株式会社だった。業界で初めてテレビCMを流したり、2級酒をつくって東京に進出したりしたのもうちの会社が早かった。健康酒のジャンルも先駆けた。チャンレンジするDNAが受け継がれている。(研究室の)若林君が6年かけて取り組んだのも126年の歴史の1つのあらわれだ。社長としても喜んでいる」

――全国の日本酒出荷量はピーク比3分の1です。商品開発は新しい需要開拓につながっていますか。

「(昨年春に投入した)ボトル缶は前年同期に比べ1.5倍の実績を出している。目標の2倍以上の商品もあり、会社の業績にも寄与している」

「話題になるのが大事。多くの人に知ってもらわないと売れない。消費者に商品の特性や特徴を知ってもらい、楽しんでもらう、きっかけづくりになればいいと思う」

――燗酒ボトル缶にあう料理。森本社長のおすすめはなんでしょう。

「思いつくのはおでんやたき物、焼いた物だ。我々社員はピザにもあうと話している。チーズと日本酒は相性がいい。日本酒を身近に楽しんでもらえるよう、ボトル缶シリーズがうまく寄与してほしい」

(村野孝直)

MONO TRENDY連載記事一覧
注目記事
MONO TRENDY連載記事一覧