貧しい国にもワクチンを 製薬会社の利益と格差の壁

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/12/3
ナショナルジオグラフィック日本版

サンジダ・サハジャハンという11歳の少女は、3歳の時、バングラデシュのダッカ子ども病院に運び込まれ、肺炎球菌が原因の髄膜炎と診断された。髄膜炎は、脳と脊髄を包む膜に起きる炎症で、脳に重い障害を残すことがある。サンジダは今、自分で頭を動かすことができない。顔がゆがむのも、口からさまざまな音が出るのも、自分ではコントロールできない。

肺炎球菌は至るところに存在し、くしゃみや軽い接触によって人から人へ感染する。免疫力があれば問題は起きないが、いったん免疫力が低下すると、命に関わる感染症を引き起こす。幼い子どもは特にかかりやすい。

サンジダが各種の予防接種を受けた2005年当時、先進国では肺炎球菌感染症の予防のための新しいワクチンが急速に普及していた。だが、製薬会社が求める金額を支払うことができないバングラデシュのような国々には、新しいワクチンは届かなかった。

ワクチンは、ごくわずかな例外を除いて、民間企業が利益を得るために作っている。国境なき医師団のような支援組織は、製薬会社に対してワクチンの価格を下げるよう(あるいは値下げが不可能であることを裏づける会計情報を公開するよう)要請してきた。

開発には費用と年月がかかる

だが、ワクチンの開発には膨大な費用と年月がかかるのも確かだ。実際、小児用の肺炎球菌ワクチンの開発には数十年かかった。さらに厄介なことに、肺炎球菌の最も重要な病原性因子である莢膜(きょうまく)多糖体(菌体を覆う多糖体の層)の血清型は、100種類近く特定されている。強い病原性をもつものは一部だが、地域性があり、たとえば「血清型1」は米国ではほとんど見られないが、アフリカや南アジアでは罹患(りかん)および死亡原因のトップを占める。そのため、ワクチンは血清型を数種類含む必要があるのだ。

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