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貧しい国にもワクチンを 製薬会社の利益と格差の壁

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ナショナルジオグラフィック日本版

サンジダ・サハジャハンという11歳の少女は、3歳の時、バングラデシュのダッカ子ども病院に運び込まれ、肺炎球菌が原因の髄膜炎と診断された。髄膜炎は、脳と脊髄を包む膜に起きる炎症で、脳に重い障害を残すことがある。サンジダは今、自分で頭を動かすことができない。顔がゆがむのも、口からさまざまな音が出るのも、自分ではコントロールできない。

肺炎球菌は至るところに存在し、くしゃみや軽い接触によって人から人へ感染する。免疫力があれば問題は起きないが、いったん免疫力が低下すると、命に関わる感染症を引き起こす。幼い子どもは特にかかりやすい。

サンジダが各種の予防接種を受けた2005年当時、先進国では肺炎球菌感染症の予防のための新しいワクチンが急速に普及していた。だが、製薬会社が求める金額を支払うことができないバングラデシュのような国々には、新しいワクチンは届かなかった。

ワクチンは、ごくわずかな例外を除いて、民間企業が利益を得るために作っている。国境なき医師団のような支援組織は、製薬会社に対してワクチンの価格を下げるよう(あるいは値下げが不可能であることを裏づける会計情報を公開するよう)要請してきた。

開発には費用と年月がかかる

だが、ワクチンの開発には膨大な費用と年月がかかるのも確かだ。実際、小児用の肺炎球菌ワクチンの開発には数十年かかった。さらに厄介なことに、肺炎球菌の最も重要な病原性因子である莢膜(きょうまく)多糖体(菌体を覆う多糖体の層)の血清型は、100種類近く特定されている。強い病原性をもつものは一部だが、地域性があり、たとえば「血清型1」は米国ではほとんど見られないが、アフリカや南アジアでは罹患(りかん)および死亡原因のトップを占める。そのため、ワクチンは血清型を数種類含む必要があるのだ。

こうした複雑な経緯を経て完成した最初の小児用肺炎球菌ワクチン「プレベナー」は、史上最も高価なワクチンの一つとして2000年に発売された。米国で頻度の高い7種類の血清型の肺炎球菌に対して効果があり、4回の定期接種に232ドル(約2万7000円)かかる。米国では、その価格でも子どもたちに投与できた。

一方で、危険性が認識されながらも製造されてこなかったのが、アフリカや南アジアの貧困地帯で死や重篤な後遺症をもたらす可能性が最も高い、血清型1に有効なワクチンだった。ダッカ子ども病院に運び込まれたサンジダの脳に感染した肺炎球菌も、実は血清型1だった。つまり、彼女が各種の予防接種を受けた2005年頃に欧米で流通していたワクチンが効かない型だ。仮に、バングラデシュ政府が当時そのワクチンを買えていたとしても、サンジダを守ることはできなかった。

安価に送り届けるには

「この仕事を始めたとき、どうにも悩ましかったのが格差の問題でした」と、米国の慈善団体ビル&メリンダ・ゲイツ財団でワクチン配布の責任者を務めるオリン・レビンは語る。「先進国の子どもが肺炎球菌による感染症で亡くなる可能性は、貧困国の100分の1程度です。なぜ私の子どもたちはワクチンを受けられるのに、もっとワクチンを必要としている国の子どもたちは受けられないのでしょうか」

もちろんレビンはその答えを知っている。最も必要としている人々にワクチンを届けることは、製薬会社の利益に結びつかないからだ。

「ワクチンと予防接種のための世界同盟」(GAVI)という組織は、米国で肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)が出回り始めた2000年頃、官民が協力して設立した。先進国の資金を活用し、貧しい国々の子どもたちがワクチンを接種できる環境づくりに取り組む。製薬会社と値下げの交渉をしたり、助成金を使って購入コストを下げたりして、発展途上国が格安でワクチンを大量購入できるよう手助けするのだ。

現在、PCVを製造する製薬会社は、米ファイザーと英グラクソ・スミスクライン(GSK)のみ。この2社はGAVIと特別な取り決めを結び、各購入国が希望するだけのワクチンを買えるよう、将来にわたり十分な量を製造し、特別価格で提供することを約束している。欧米から遠く離れた国の子どもたちのために、従来よりも効力の範囲が広いワクチンも開発している。

2010年にファイザーが発売した「プレベナー13」には、血清型1も含む6種類の抗原が新たに追加され、計13種類の肺炎球菌に予防効果がある。2009年に発売されたGSKの製品は、アフリカやアジアに多い血清型も含めた10種類の血清型に対して効果のあるワクチンだ。そして15年3月からは、3カ月に一度、GSKの配送センターからバングラデシュにワクチンが空輸されるようになった。

バングラデシュにおける肺炎球菌ワクチンの成果を見極めるには、時期尚早かもしれない。だが、肺炎球菌の研究で有名な微生物学者で、ダッカ子ども病院の一角に研究所を設立したサミル・サハを訪ねた時、彼の顔には笑みが浮かんでいた。その日、一般病棟にいた肺炎球菌感染症の入院患者はわずか3人で、容体は安定していた。また、患者数の推移を見ても、2016年秋は大きく減少し、過去6年分と比べてかなり少なかったのだ。

(文=シンシア・ゴーニー、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2017年12月号の記事を再構成]

[参考]ナショナル ジオグラフィック12月号では、ここに抜粋した特集「ワクチンで世界の子どもを救う」のほか、「考古学で探る本当のイエス」「失われゆくジャガーの王国」「アフリカを変えるITジェネレーション」「北朝鮮、最後の米国人ツアー客」などを掲載しています。

ナショナル ジオグラフィック日本版 2017年12月号 [雑誌]

著者 : ナショナル ジオグラフィック
出版 : 日経ナショナルジオグラフィック社
価格 : 1,010円 (税込み)

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