投資用中古マンションの価格 上昇の要素は見当たらず不動産コンサルタント 田中歩

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2012年末以降、都区部の中古マンション価格は上昇を続けています。昨年の秋以降、その勢いは衰えつつあるとの声が聞かれるものの、依然として価格の調整局面に入ったとはいえない状況です。一方、投資用マンションの収益の源泉となる賃料は08年のリーマン・ショック以降、売買価格とは全く異なる動きを見せています。

東日本不動産流通機構「市場データおよび首都圏賃貸取引動向」より筆者作成

表面利回りの下落で価格上昇

上のグラフを見れば明白ですが、12年末以降、23区の中古マンションの売買成約単価は上昇しているものの、マンションの賃料単価はおおむね横ばい傾向です。給与所得者などの可処分所得が増えにくい状況では、賃料の上昇は期待できませんし、実際に可処分所得が増えなかったために賃料上昇が実現しなかったのです。

このように賃料が横ばいなのにマンションの価格が上昇しているときは、結果として表面利回りが下がります。つまり、

表面利回り=年間賃料÷中古マンション価格

で計算するので当然のことです。この算式を以下のように変形すると、マンション価格を求める算式になります。

中古マンション価格(上昇)=年間賃料収入(横ばい)÷表面利回り(下落)

つまり、投資用の中古マンション価格の上昇は表面利回りの下落によってもたらされたということになります。

ところで、なぜ表面利回りが下がったのでしょうか。実は表面利回りは「無リスク金利」と「リスクプレミアム」という2つの要素で構成されています。

世の中にはまったくリスクがないものからリスクの高いものまで、様々な投資商品があります。リスクのない投資商品の代表選手は国債です。国債は国が破綻しない限り、必ず利息は支払われますし、元本も確実に戻ってきます。このことから一般に「無リスク金利」は10年国債利回りとして考えます。

一方、リスクが高い商品になればなるほど利回りの要求は高まります。無リスク金利にどの程度の上乗せを要求されるかでその投資商品の期待利回りが決まるわけです。この上乗せ部分が「リスクプレミアム」(投資家が上乗せしたいと考える収益率)です。立地や築年数などによって利回りが異なるのは、賃料下落や退去、突発的な修繕などのリスクに対して要求される上乗せ分が異なるからなのです。以上のことから、中古マンションの価格を求める算式の表面利回りの部分を詳しくすると、

中古マンション価格=年間賃料収入÷(10年国債利回り+リスクプレミアム)

となります。

それでは、表面利回りを構成する10年国債利回りとリスクプレミアムの動きを見てみましょう。

東日本不動産流通機構「市場データおよび首都圏賃貸取引動向」、財務省「国債金利情報」より筆者作成

今後はリスクプレミアムの変動に注目

リーマン・ショック後の09年3月ごろは、表面利回りは7%を超えピークを示し、そこから徐々に利回りが低下し現在では5%弱となっています。この期間、10年国債利回りは1.5%程度から右肩下がりを続け、現在は0%付近で横ばい傾向です。08年以降、徐々に表面利回りを下げた要素は10年国債利回りの低下によるものといえますが、10年国債利回りがこれ以上低くなることは考えにくいですし、当面は急上昇するということもなさそうです。となると今後、表面利回りを動かすのはリスクプレミアムの変動ということになりそうです。

東日本不動産流通機構「市場データおよび首都圏賃貸取引動向」より筆者作成

上記のグラフは、リスクプレミアムと日経平均株価の推移を示しています。リスクプレミアムの動きを見てみると上下動を繰り返していますが、面白いことに日経平均株価はこれと反対の動きを、しかもリスクプレミアムに少々先行した動きとなっていることが分かります。

例えばリーマン・ショックのような経済危機が発生すると、株価下落による損失から投資を控えようとしてリスクプレミアムも上昇します。つまり株価が下がると不動産投資に対して不安感が増し、リスクプレミアムも上がるわけです。逆に株価が上がると不動産投資に対して安心感が増してリスクプレミアムも下がるという動きになります。東日本大震災が発生すれば建物の損壊リスクに目が向き、リスクプレミアムは上昇しました。政権交代後、国内景気が良くなると株価上昇による安心感からリスクプレミアムも低くなっています。

リスクプレミアムの下落は考えにくい

問題は今後、リスクプレミアムがどう動くかです。筆者は都区部の投資用中古マンションに対するリスクプレミアムは、基本的には5%弱から6%弱という範囲で変動すると考えており、現在は最も低い水準に張り付いているのではないかと考えています。日経平均が2万3000円を突き抜け2万5000円をうかがう勢いになるようなことがなければ、つまり経済環境のステージが大きく変わるという事象がない限りは、リスクプレミアムがさらに下がることは考えにくいと思っています。

賃料上昇の可能性は低い、これ以上の金利低下は見込みにくい、リスクプレミアムは現状のままだとすると、都区部の投資用中古マンションの価格がこれ以上、上昇する理由は見当たらないと言わざるを得ません。楽観的な投資は控えたほうがよいかもしれません。

ただし、ここで見てきた数値は23区内のマクロ的な状況であり、言ってみれば平均値です。おそらく、価格上昇の余地がある中古マンションも少なからず存在しているはずです。逆に価格下落予備軍はかなりの量で存在するでしょう。マクロ的には投資環境として決してよいという状況ではありませんが、ミクロ的に個別物件を見極めていくと活路が見いだせる可能性もあります。新たに投資をされる方もすでに保有されている方も、それぞれの物件において、コスト削減の可能性や競争力アップの余地など、個別物件の特性や背景を加味し、投資や運営を行っていく必要性が極めて高い状況と言えるでしょう。

田中歩
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。
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