ライフコラム

マーケ戦略研「Think!」

「体験をギフト」で急成長 コト消費で成功する方法

日経BP総研マーケティング戦略研究所

2017/11/30

和太鼓教室やスノーシュー・ウォーキングなど新しい体験も充実している

 モノ消費からコト消費へ、と唱えるのは簡単だが、実際のビジネスはそう単純ではない。2005年に創業し、「体験をギフト」にすることで話題を呼んだ「ソウ・エクスペリエンス」も長いこと売り上げを伸ばすのに苦労してきた。ところが、ここ2年ほどで急速に人気を拡大した。15年度には約5万の出荷数だったのが、16年度は10万セット以上。3年前と比較すると、3倍以上の出荷数だ。急成長の理由を探ってみると「コト」ビジネス成功のヒントが見えてくる。

ソウ・エクスペリエンスの西村琢社長。学生時代の友人とともに同社を立ち上げた。自身もサーフィンを楽しむ「コト」派。同社は「子連れ出勤」を認める会社としても注目されている

■急成長の三つの理由

 「ソウ・エクスペリエンス」が販売する体験は、ホテルに宿泊やレストランで食事のような一般的なものから、ダイビングや乗馬、シイタケ栽培やDIY教室のようなちょっと変わったものまで幅広い。「形のない体験」を、おもにインターネットを通じて取り扱ってきた。

 当初は「体験をプレゼントする」ということで、カタログを贈るサービスを考えてきた。それをここ数年で脱カタログに大きく舵をきった。これが第1の理由だ。「プレゼントは実は手渡しすることで気持ちがより伝わるんです。その重要性からすると『何でも選べる』カタログよりも、選択肢が減ったとしてもおしゃれだったりセンスの良さだったりが大切と気づきました」(開発担当・関口昌弘氏)

 体験のチケットを入れるパッケージは、品の良さと高級感が漂っている。プレゼント用の包装も工夫している。販売するのは「コト」であるが、受け取る人に訴えかけるような「モノ」らしさや形にこだわり工夫したことがわかる。

個室スパ&エステチケットのパッケージ
二人のためを意識した「FOR2ギフト」のパッケージ

 第2の理由は「脱カタログ」を進めると同時に店頭の活性化を進めたこと。伊勢丹新宿店、東急ハンズ渋谷店、SHIBUYA TSUTAYAなど多くの店で取り扱っており、店頭での売り上げも伸びている。こうした店では早い時期から扱いがあったが、ターゲットが絞りきれず売り場もあいまいになりがちだった。それを、ハッキリと「結婚」「誕生日」「母の日」のように分かりやすくプレゼント用を打ち出すことにした。

イデアセブンスセンス有楽町マルイのディスプレー
イデアセブンスセンス。店内の雰囲気と調和するよう工夫されている

 特にイデアセブンスセンスのような雑貨店には、具体的な品物を決めずにプレゼントを探しにくるお客が多い。彼らには、おしゃれであることやセンスが合うことが重要で、「脱カタログ」が奏功している。おしゃれなパッケージで売り場が展開しやすくなると同時に、認知度が上がり、これまでリーチできなかった客層を取り込めるようになっている。

 インターネットで販売しているときは、その中身を伝えることに意識が向いていたが、リアルな店舗での使いやすさを工夫したことで影響力が増したといえる。

 第3の理由は企業用途。大手広告代理店を通して、企業のキャンペーンやノベルティーとして利用したいという引き合いが増えている。これまでキャンペーンのプレゼントやパーティーのおみやげでは「モノ」が贈られるのが普通だったが、最近は「コト」をプレゼントすることが増えていて、利用企業が増加しているという。

 例えば、フォルクスワーゲンの場合。購入者に、クルマを使ってこんな場所に遊びに行くのはどうでしょうと、2人でできるパラグライダー教室や陶芸体験などのアクティビティーを選んでいる。モノとコトをつなぐものとして注目されているのだ。

■カギになるのは新しい「コト」を見つける力

 ただ、ソウ・エクスペリエンスの一番の強みは幅広くちょっと変わった体験を探り当てる商品開発力にあるようだ。普通ならなかなか人目につきにくいオーベルジュ(宿泊施設を備えたレストラン)を見つけてきたり、アフタヌーンティーの人気が高いと知れば商品化したりする。一方で、夏休みの自由研究に役立つようなクワガタの育成キットやシイタケの栽培セットなども「コト体験」として商品化してきた。また、室内スカイダイビング「フライステーション」のような新しい体験が誕生すれば交渉に赴く。

 人気のある「コト」を商品化するのは難しくはないが、まだ知名度が低い新しい「コト」を探すのは簡単ではない。同社のスタッフにはその姿勢があふれている。コトの感動は出合いと発見の感動でもある。ただ「新しいだけではだめで、贈られて喜ばれる体験でないと逆効果になる」(関口氏)という。10年の経験から生まれたバランスの取れた商品開発力に可能性を感じる。

 「コト」ビジネスを取り巻く環境は日々変化しているが、「ソウ・エクスぺリエンス」のやり方は、他社にとっても参考になるに違いない。

品田英雄
 日経BP総研マーケティング戦略研究所上席研究員。学習院大学卒業後、ラジオ関東(現ラジオ日本)入社、音楽番組を担当する。87年日経BP社に入社。記者としてエンターテインメント産業を担当する。97年に「日経エンタテインメント!」を創刊、編集長に就任する。発行人などを経て現職。著書に「ヒットを読む」(日経文庫)がある。
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日経BP総研マーケティング戦略研究所(http://bpmsi.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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