日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/12/2
聖書博物館が所蔵する死海文書らしき断片の一つ。これは現在、偽造が疑われているものではない(PHOTOGRAPH BY BRUCE AND KENNETH ZUCKERMAN AND MARILYN LUNDBERG, WEST SEMITIC RESEARCH,COURTESY MUSEUM OF THE BIBLE)

インクを鑑定

聖書博物館にある死海文書の断片のいくつかが本当に偽造品だとしたら、どのようにして作られたのだろうか。

たとえば、死海文書の専門家であるデイビス氏は、別のコレクションに含まれる2002年以降に出てきた羊皮紙の断片について、放射性炭素による年代測定を行った。すると、インクが現代になって載せられたものであることを示唆していた(近年、死海文書が見つかった洞窟の1つで、何も書かれていない羊皮紙が考古学者らによって発見されている)。(参考記事:「死海文書「第12の洞窟」を発見、50年ぶり」

ノルウェーの収集家のコレクションの中からデイビス氏が検査したいくつかの断片では、インクが羊皮紙の古びた色味や風合いの上に重なっていたり、ぼろぼろになった部分に載っていたりする。何百年、何千年もたってから書かれたようだ。別の写本では、現代の食卓塩にまみれたものまで見つかっている。どうやら偽造者が、塩気を帯びた本物の死海文書に似せるために使ったと見られる。

今回の聖書博物館に収蔵された断片では、調査が継続中である。専門家がこの作業に手をつけたのは2016年からで、すでにデイビス氏を含む、同博物館の支援を受けた研究者らが、収蔵品のいくつかについて偽造の兆候を特定している。その1つは現在展示されている。

その断片はヨナ書の一節であるが、ヘブライ文字の1字が、羊皮紙が完全だったときにはなかったであろう隅に無理やり押し込むように書かれている。文字列も、断片の破れた端の輪郭に沿っているように見える。「これら(の文字列)は、おそらく本物ではないでしょう」とデイビス氏。「すでに傷んでいたものに文字が書かれた可能性が高いと思われます」

進行中の調査を考慮して、同博物館は現在展示中の各断片の下に次のような注意書きを添えた。

「2002年に、それまで知られていた何十もの死海文書の断片が、古器物商に並び始めた。大学や博物館、個人収集家は、このような『新たな』断片を入手した。学者らがその研究を始めると、不可解な特徴に気づき、偽造品であるとする者も現れた。(聖書博物館は)収集した断片に関する最初の研究結果を2016年に発表したが、それらが本物かどうかについては未だに学者の意見が分かれている。これらの断片のインクおよび筆跡については、科学的分析が続けられている」

この文章を書いたシフマン氏は、博物館としては来館者に対して透明性を確保する任務を果たしたと考えている。後は断片の本当の起源について明らかにするだけだ。

(文 Michael Greshko、訳 山内百合子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年11月22日付]