現在、合計で10万片に及ぶ死海文書の多くは、エルサレムにあるイスラエル博物館内の「死海写本館」に収蔵されている。したがって個人市場で売買されているのは、1970年以前に個人コレクションに加わった数多くの「切れ端」たちである。条約発効以前から存在したものについては適用が除外されるためだ。
21世紀に入って、条約が適用されない75の断片(そのほとんどがせいぜい高額硬貨ほどの大きさ)が、売りに出された。その多くはカンドーの親族が売り出したものだったが、そのうち少なくとも13の断片を、2009年から2014年の間にグリーン氏の家族が購入した。これら「2002年以降」の断片の多くは、学問的な発見とはならない。そこに書かれた文言はそれ以前の死海文書からわかっている内容の写しである。にもかかわらず、博物館や個人収集家は、貴重な古文書を物理的に所有できるチャンスに飛びついた。
「りっぱな聖書の博物館であるなら、死海文書はまず所有していなければなりません」と、聖書博物館の収集ディレクターであるトロビッシュ氏はCNNのインタビューに回答している。
聖書学者のシフマン氏によれば、これらを購入した時点では、2002年以降の断片は本物であると広く考えられていた。しかし、この見解は最近になって崩れつつある。2016年初めにベルギー、ルーヴェン大学の研究者エイバート・ティシュラー氏が、ノルウェーの収集家が所有する断片のいくつかに疑義を唱えたのを皮切りに、次々に偽物との疑いを広げていったのだ。
「そのいくつかはおそらく偽物だろうと確信を得られるまでに、長い時間がかかりました」と言うのは、カナダ、トリニティ・ウェスタン大学のキップ・デイビス氏だ。死海文書の専門家で、2002年以降の断片について詳しい研究を行っている。
ただし、本物もあるとの声もある。シフマン氏は、2002年以降の断片の少なくともいくつかは、本物の死海文書とパズルのピースのようにはまるため、本物に間違いないと述べている。死海文書研究の第一人者のひとり、エマニュエル・トーヴ氏は、それらの断片が偽造品だとは思わないと述べている。「聖書博物館に本物でない断片はない、と言っているのではなく、偽物である証拠を見ていないということです」
しかし他の学者らは、偽造については慎重すぎるぐらい慎重になるべきだと考える。「2002年以降の断片の90%以上は、ほぼ確実に現代の偽造品だと思います」と、ノルウェー、アグデル大学の研究者オースタイン・ユスネス氏は言う。同氏が率いる21世紀の偽造写本に関する研究プロジェクト「ライイング・ペン・オブ・スクライブズ(Lying Pen of Scribes)」は、2002年以降の断片を監視している。