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ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は2~3カ月に一度訪れる準定点観測ポイントの青山ブックセンター本店だ。前回訪ねたのは9月下旬。大手町や八重洲など都心東側のビジネス街から、久しぶりにこちらに来ると、がらりと売れ筋が違うのが印象的だ。そんなこの地域らしい本が並ぶ売れ筋の中で発売直後の11月初めから売れ続けているのが、広告界の鬼才といわれるクリエーティブ・ディレクターが自らを励ますためにつぶやいた言葉をまとめた一冊だった。

課題解決に挑む異色の広告マン

その本は岸勇希『己を、奮い立たせる言葉。』(幻冬舎)。著者の岸氏は、広告にコミュニケーションデザインという概念を持ち込み、もはや広告にとどまらない企業の課題解決に取り組む先鋭的なクリエーティブ・ディレクター。トヨタ自動車の「アクア」の広告宣伝プロジェクトで大きく話題になった。本書は、その岸氏が2009年から現在に至るまでツイッターでつぶやいてきた言葉に、再編集、解説を加えたものだ。

「自分のアイデアは、いじめ抜くことで研ぐ」「飛躍は卑屈のあとにやってくる」。こんな印象的な短文が、横書き左開きの本の左ページに赤い背景の白抜き文字で提示され、右ページに解説文が付く。「挫折のあとに」「貪欲に考える」「プロとして生きる」など、8つの章に分けられて68の言葉が並ぶ。表題にある通り、岸氏が仕事をしていく中で、その時々の自分を奮い立たせるためにツイッターに書き留めたものだ。

自分を叱咤する強い言葉に共感

「語録なんていうのは、基本的に成功者が人生の終盤に、後人たちのことを想って、書くべきものだ」。「おわりに」でこう書く著者は、この本を書くことへの違和感を隠そうとしない。自分は「バキバキの現役」だし、言葉に一切の責任は負えないとまで書く。その時々の自分自身を支えるために書いた言葉で、それ以上でも以下でもないと言う。それでも「その瞬間は少なくとも本物だったと思っています」と著者は言う。その背景を感じながら読むと、読んでいて励まされる瞬間が訪れる。怖い人の強すぎる言葉に思えるひと言から、ノウハウとかスキルとかに還元されない、仕事に向かう熱やあがきのようなものを読者は受け取ることになるだろう。本を書くことを断り続けた著者が最後に引き受けたのも、編集者の情熱を受け止めてのものだ。

「自分でも読んでいるんですけど、はっとする言葉がある」と、ビジネス書を担当する益子陽介さんは話す。「例えば」とあげたのが、「うまくいってるときこそ、うまくいっていることの中に潜む、うまくいっていないことに気を配る」というひと言。好調時にネガティブモードが全開になり、滅びのストーリーを具体的にイメージするという姿勢に、すごみを感じたという。「若い読者の反応がいい。12月に著者イベントの開催も決まった」といい、さらに販促を進める考えだ。

売れ続けるアパレル崩壊のルポ

それでは先週のベスト5を見ていこう。

(1)SHOE DOGフィル・ナイト著(東洋経済新報社)
(2)己を、奮い立たせる言葉。岸勇希著(幻冬舎)
(3)革命のファンファーレ西野亮廣著(幻冬舎)
(4)社長の「まわり」の仕事術上阪徹著(インプレス)
(5)誰がアパレルを殺すのか 杉原淳一、染原睦美著(日経BP社)

(青山ブックセンター本店、2017年11月12~18日)

1位は、前回紹介したナイキ創業者の自伝。版元が力を入れており、地域を問わず売れている。2位に今回紹介した本。この本も3位の本も、幻冬舎と経済ニュースアプリ「ニューズピックス」とがコラボしたビジネス書シリーズ。この書店では毎月刊行されるたびに上位をにぎわし、その後も好調な売れ行きが続く好循環になっている。4位は、カリスマトップの周りで働く人13人に焦点を当てたインタビュー集。カルビーの松本晃会長やディー・エヌ・エーの南場智子会長といったすごいトップを、支え動かすスキルと思考に迫ったユニークな視点のビジネス書だ。5位のアパレル崩壊の現場ルポは、6月に同店を訪れたときに注目書として紹介した。大小含めてアパレルメーカーや服飾店の多い地域だけに、息の長い売れ筋になっている。

(水柿武志)

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