仕事だけの人はダメ 働き方改革は生活改革とセットで

日経DUAL

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「生活を大事にしようという気持ちがあれば、早く帰ろうと思える。その『生活』がない人もいるから、生活改革をする。働き方改革で生じた時間を社員にどう使ってもらうのか。既に先進的企業では始めていますよ」と語るのは、中央大学大学院戦略経営研究科教授の佐藤博樹さん。「働き方改革」のあるべき方向について、佐藤さんに詳しくお話を伺いました。

残業がない職場にも働き方改革は必要

――2016年から17年にかけての大きな話題として、いわゆる「電通事件」がありました。その影響は感じていますか。

中央大学大学院戦略経営研究科教授の佐藤博樹さん

電通もそうですが、残業時間をどう減らすかという問題だけにとらわれてしまっている企業が多いですよね。「ビジネスモデルを変える」「仕事の仕方を変える」といった発想が出てこないまま、残業時間削減だけに集中しても無理があります。実は残業がない職場でも働き方改革は必要です。

――え、残業がない職場でも働き方改革は必要なのですか?

詳しくは追って説明しますが、残業がない職場だったとしても、「今仕事がそれほどない」というだけで、いずれ仕事が増えたら、残業が出てしまうような働き方をしていませんか、ということです。

今後さらに女性が活躍するためには、男性も子育てしなくてはいけない。そのために男性も育休を取得する。なぜ男性が育休を取得するかというと、その後も「カップルで子育てする」ためです。重要なことは、育休を取ったことをきっかけに「働き方を見直さなくては」と意識を変えることです。

「カップルで子育てする」ということは、送りは当たり前として、お迎えを男性に少なくとも週2日は行ってほしいですよね。「週2日、定時に帰るなんて難しい」と思われるかもしれませんが、本当にできないのか考えてみてください。例えば、週2日、定時で帰る代わりに、他の日に残業を増やせばいいんです。

極端な話、女性から見れば、そのほうがまだましなんです。中途半端な時間に毎日帰ってくるぐらいなら、週2日でもお迎えに行ってもらって、晩ごはん作って夜の育児までしてもらえるほうがずっと助かるわけですよ。他の日は「もうどれだけ遅くなってもしようがない」と諦められる。でも、実際にこれを試すと、全体的に残業は減るんですよ。

「翌日に回せる仕事はどれか」自分で考えることが大事

色々な企業で働き方改革を提案してきましたが、その一つとして「部署内の全員が週2日は定時で帰る」という試みを導入したという事例があります。その代わり、残業は減らさなくてもよい。定時で帰る日は自分で決める。それならやれるでしょう、と。これを2カ月ほどやってみた結果、全体の残業時間は減りました。

まず、毎日誰かが定時に帰ってしまう。だから会議や打ち合わせは定時以降は設定できない。残業はしてもいいけど、他の人を巻き込んではいけないので、1人でできる仕事に限定するわけです。そして、定時に帰ると決めている日なのに、「このままだと仕事が終わらなそうだな」と思ったら、翌日に回せる仕事はどれか考える。この「自分で考えること」が大事なんです。普段は何も考えていないんですよ。育児中でお迎えがある女性は、優先順位を自分で考えて効率的に働いている。週2日定時退社することに意味があるのではなく、週2日定時退社を課すことによって、1週間の段取りを考えさせる。それが真の目的です。

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メリハリつけて「残業するなら2時間以上」

「残業は20時まで」などと決めている会社が多いですが、あれは「20時まで残業していい」というメッセージを出しているのと同じことです。そこまではOK、と認めてしまっているので、逆効果ですよね。みんな残業を総量で見がちですが、残業時間は総量だけで判断してはいけません。大事なのはメリハリです。

例えば、月20時間の残業はどうなのか。単純に考えると、1日1時間の計算ですよね。私は1日1時間残業するぐらいなら、残業ゼロの日と2時間の日があるほうがいいと思います。1時間なんて残業はなくせるはずなんです。残業ゼロの日は少なくとも週2日は欲しい。だから「残業するなら2時間以上」と私は提案しています。それが働き方改革なんですよ。メリハリをつけることを覚えないと働き方は変わらない。今は総量規制になってしまっていますが、本来の目的は規制ではない。働き方改革です。残業がない職場でも働き方改革が必要と冒頭で言いましたが、それが理由です。今残業がなくても、自分の頭で時間を意識してメリハリをつけて働けているのか、みんなが問い直したほうがよいということです。

もう一つ大事な点は、週2日定時退社させると、会社を出た後にやることがないという人が出てくる。実際にそういう取り組みをした事例では、そういう人たちに2カ月間、退社後に予定を入れさせました。飲み会でも何でもいいからとにかく予定を入れろと。

つまり、働き方改革は生活改革とセットでやるべきなんです。生活を大事にしようという気持ちがあれば、早く帰ろうと思える。その「生活」がない人もいるから、生活改革をする。働き方改革で生じた時間を社員にどう使ってもらうのか。既に先進的企業では始めていますよ。ある企業では夕方になると「今日は◯◯でこういうイベントがあります」といったメールを社員に流しています。その内容は仕事に直結していても、していなくても正直どちらでもいいんですよね。

難しいのは「お節介」にならないようにすること。企業が「勉強しろ」「子育てしろ」などと社員に直接言うのはお節介ですよね。企業ができることは、「これからうちが求める社員はどういう人か」というメッセージを出し続けることしかない。「仕事ができるのは当たり前。でも、仕事しかできないのはだめ」というメッセージをね。そこから先は本人に選択してもらう。

「仕事しかできない人」は生き残れない

―― なぜ仕事しかできない人はだめなのでしょうか。

変化の時代を迎えているからです。変化に対応できるフレキシビリティー、好奇心、高い学習能力。この3つがこれからの企業が必要とする社員の能力です。今後、企業が変わっていくのは間違いない。ただ、どう変わるかは分からない。だから「これを勉強しろ」「これをやっとくとお得だよ」とも企業は言いにくいんですよね。どう変わるかは分からないけど、必ず変化は起きるので、新しいものにも嫌だと思わず取り組む好奇心と、高い学習能力が必要でしょ、と。この3つがある人は、仕事しかできない人じゃないですよね。

まだここまで至っている企業はありませんが、経団連のセミナーなどでも私は話しています。生活改革という視点で、既に企業が取り組んでいる実例としては、社内報がありますね。男性社員が子育てしている様子をリポートするような社内報もありますが、一歩進んでるところは違うんですよ。「この社員は、仕事以外にこんなことをやっていますよ」、と伝えている。例えば、絵を描いて個展を開いている、毎夏に有休を取ってマングローブの植林を手伝っているなんていう人は実は意外といるけど、これまで社内で大きな声では言ってこなかった。黙っていたわけですよ。そういう人の活動を社内報で紹介する。社内報というメディアを使って「仕事ができる人」のイメージを変えてしまうということです。

他にも、社会人向け大学院の説明会や、ボランティア募集の説明会などを社内で昼休みに開催する手があります。する、しないを選ぶのはあくまでも社員です。ですが「勉強やボランティアを会社は応援してくれるんだな」というメッセージを社員は理解する。企業はこうやって社員にメッセージを伝えるべきなんです。お金を出さなくても間接的に「これはよいことだ」と企業が言うことが、企業の目指す姿を社員に伝えることになる。「うちの会社は仕事以外のこともサポートしてくれる。そのための働き方改革なんだ」と社員が感じることが大切なのです。

「働き方改革は生活改革とセットですべき」という話は、最近、企業の役員研修などで皆さんによく伝えています。働き方改革で遅れを取っている企業も、生活改革とセットで取り組むことで、一気に加速する事例がこれから出てくると思いますよ。そのほうが改革の本質を捉えているのですから。

―― ありがとうございました。

[日経DUAL 2017年9月28日付記事を再構成]