「ロングセラーはデザインの良さだけでなく、作り手側の商品に対する愛、ストーリーこそが大切」と語るのはロングライフデザイン活動家のナガオカケンメイ氏。3回連載で、ロングセラーブランドの作り手が守ってきたもの、変えてきたものを紹介する。
1919年に生まれたカルピスは、一時売り上げが伸び悩んだが自らの価値を見直すことで復活した。ナガオカケンメイ氏の考察と取材からカルピスの歩みを見る。
ナガオカケンメイの目
「カルピス」は不思議な飲み物。そう思いませんか? 多くの飲料がある中で、まるで幼なじみの友達のようなところがある。それはユーミンやサザンオールスターズを聴くと青春時代を思い出すようなところです。家にお客さんが来た時に、母親から「カルピス作って」と頼まれたことも思い出にあります。子どもながらに注ぐ量を考え、水を注いでかき混ぜ、味見をする。それはおそらく子どもにとって初めての調理だったのです。
今は時代に合わせてカルピスウォーターのような完成品やフルーツのフレーバー、ソーダなども生み出しています。それでも今回の取材で、家でかき混ぜて作るという家庭の原風景を、会社全体が意識し、大切に愛していることがとても感じられました。乳酸菌の研究は世界レベル。健康飲料としても優秀ではありますが、何よりも「カルピス」が作っているのは「みんなで飲む」という家庭の原風景だと感じました。
多くのロングライフデザインには共通した点があります。もちろん、今回の主役にもありました。それは「ツッコミどころ」。例えば、カルピスの誕生日が七夕の7月7日ということで生まれた「水玉模様」ですが、しっかりとしたデザインマニュアルはなく「バランスよく均等に」としか伝えられていません。デザインを担当するアサヒ飲料の野村典子さんにとって、まさにそれは自分で作るカルピスと他の人の作る味が違うかのように同僚たちと一緒に「こんな感じでどうかな」とカルピスの世界を作ってきたそうです。ソーダの時は小さな粒に、フルーツの時は色を変えてと。取材中、その話題だけでも大変盛り上がりました。
カルピスに関わる皆さんは創業者の三島海雲さんの残した「おいしいこと」「滋養になること」「安心感のあること」「経済的であること」という4つのキーワードを絶対的なブランドの軸としていました。これはいつの時代にもみんなが大切に考えないといけないテーマであり、つまり、この普遍的なテーマによってカルピスは作られているのでした。カルピスに優しさを感じる時、製造側はこうした思想を合言葉のようにずっと考えているのでした。
カルピスは優れた健康飲料であると同時に、誰かに作ってあげた、また、作ってあげたい飲み物。最後にかき混ぜるというシーンは、日本人の心の中にある家庭をいたわる優しさの魔法だと思いました。ながく続くということは、人のいつの時代も変わらないことに寄り添うことだなと思いました。

以下では「つくる」「売る」「流行」「つづく」の4つの観点からカルピスのロングセラーの秘密を解き明かす。