寿命が延びれば延びるほど、退職後の老後の時間は長くなり、必要なお金も増える。そのためには、資産運用だけでなく「生涯現役」の覚悟で働き続けるのも大事なことだ。国際金融小説『マネーロンダリング』などを執筆した作家の橘玲(たちばなあきら)氏に、老後資金づくりのポイントを聞いた。
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資産が増えれば増えるほど幸福になるか、というと実は違います。これ以上収入が増えても幸福感は大きく変わらないという水準が存在するのです。日米の研究では、年収800万円前後がそのような水準であるといいます。これは、世間一般で幸せだと思われていることを、お金を気にせずにできる金額ですね。
例えば独身で年収が800万円あったら、デートでちょっとしたレストランに行くとか、年に1回海外に行くとか、そういうことがほとんどお金を気にせずできます。結婚していれば1500万円がこうした水準になります。子供を私立に入れ、好きな習い事をさせてあげられるという水準ですね。逆に言うと、それ以上ぜいたくしてもそんなに幸福感は上がらない。
将来への不安が幸福感を引き下げるのは、お金について悩みながら生きていかなければならないからです。逆に言えば、それがなくなれば十分幸福なんです。
老後についても似たようなことが言えます。定年後に貯金が減っていったとして、何があってもとりあえず大丈夫だろうという、不安から解放されるのが60歳時点で1億円というお金です。だから、老後資産1億円というよく言われる目標は、幸福のボーダーラインの一つといえます。