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「退職金で投資デビュー」は危険 50代で運用始めよ 資産運用の達人に聞く(上)

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2017/12/22

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老後資金作りに投資を考えている人は多いだろう。コモンズ投信社長兼CIOの伊井哲朗さんは、「まずは少額でもいいので、投資に慣れておくことが大事」と話す。その上で、「老後資産を目減りさせないように、自分がよく知らない商品には投資しないこと」とアドバイスする。伊井さんのお勧めは、「自分がよく知っている日本株式」への投資だ。

◇  ◇  ◇

伊井哲朗さん コモンズ投信社長兼CIO。山一証券、メリルリンチ日本証券、三菱UFJメリルリンチPB証券を経て、コモンズ投信創業とともに現職。2012年7月からCIO(最高投資責任者)を兼務。長期運用での資産作りを唱える

──退職が迫ってから資産運用を考える人は少なくありません。間に合うのでしょうか。

私は、50歳を過ぎたら少額でもいいので資産運用を始めることをお勧めしています。退職金を運用で増やすには、ある程度投資に慣れておく必要があるからです。50歳からでも十分資産は増やせます。

問題なのは、退職金を全て投資に回してしまうことです。これは大体失敗します。銀行や証券会社に勧められて退職金全てを何種類かの金融商品に分散投資する人が多いのですが、ここに落とし穴がある。一度に投資してしまうと、仮にある商品で損をした時に資産配分を修正するだけの余力がなくなってしまうのです。投資する時間を分散することによるリスク分散の効果も発揮できません。

ですので、退職前から積み立て投資に慣れておこうというのが私の意見です。積み立て投資なら、下げ相場でも買う数量を増やせます。積み立てによる時間分散の効果を肌で感じることが大事です。

──問題は何に投資するかですね。

その通りです。退職直後に高金利や高分配を狙って新興国の債券・株式などリスクが大きい商品に投資し、資産を目減りさせてしまう方は少なくありません。自分がよく知らない商品を、運用の「コア(中核)資産」にすべきではないのです。

私は中長期の資産形成のリターンは、日銀が目指す物価上昇率の2%を上回るべきと考えています。そのためには持続的な拡大が見込まれる世界経済の成長を取り込む工夫が必要です。世界株式のインデックス型投信を連想されるかもしれませんが、それでも為替変動リスクは残ります。やはり投資先は自分の知る企業であるのがいい。

とすれば、グローバルに成長を続ける日本企業に投資するのが王道です。為替リスクは企業が負うわけですし、株主の圧力があるためその期待に応えようと市場平均より良い業績や株価になりやすいのです。当社の投信「コモンズ30ファンド」も、こうした海外売上高比率の高いグローバル企業に集中投資しています。

コア資産は日本株のアクティブ型投信やグローバル企業の株式を中心に、先進国や新興国株の投信を組み合わせて作るのがいいと思っています。大事なのは、コア資産は自分の知っている、手触り感のある投資対象にすべきだということです。周りに勧められるがまま、よく分からない企業の株式に投資してはいけません。

──大型株だけだと十分なリターンが取れない不安もありそうですが。

30代から退職する数年前までは、ある程度リスクを負った運用をしてもいいと思います。コア資産の他に、全資産の5~10%ぐらいを「サテライト(衛星)資産」として高リスクの資産に投資するのもいいですね。サテライト資産は中小型の変動率が高い個別株であってもいいですし、最近話題の仮想通貨であってもいいです。

サテライト資産はおまけのようなものであり、ハイリスク・ハイリターンを狙ってもいいと思います。サテライト資産は、自分が知らないものへの挑戦のための授業料と考えてもいいくらいです。

ここで重要なのは、サテライト資産の運用に熱中してすぎて、気がついたらコア資産を取り崩してしまわないようにすることです。サテライトの全体に占める割合は増やさず、あくまでオマケぐらいの感覚がいいでしょう。

資産全体の90~95%はしっかり増やしつつ、残りで大きな値上がり益を狙うというのに留めるべきです。一方で、サテライト資産の運用ではロスカットなどのルールを作っておくこともお勧めします。また、55歳ぐらいからは、現金比率を増やすなどして徐々にリスク許容度を落とし、老後に備えるのが望ましいですね。

──退職後はさらにリスク許容度を落とすべきでしょうか。

いつまで働くかにもよりますが、資産の変動は穏やかなものにしておく必要があるでしょう。退職後は運用しながら資産を取り崩していくわけで、大きな価格の変動がコア資産にあるのは望ましくありません。

具体的には、債券や金などの実物資産に一部の資産を移すことが考えられます。分配金期待があるREIT(不動産投資信託)への投資も一手でしょう。また、株式全体の比率は減らさなくても小型株の比率を減らすことは考えた方がいいかもしれません。毎月分配型の投信は、「グロソブ」など大型で実績のあるものなら問題ないですが、投資先が不透明なものはやはり避けるべきですね。

──2017年1月からはつみたてNISA(少額投資非課税制度)がスタートします。50歳からでも活用した方がいいのでしょうか。

つみたてNISAは使うべきだと思います。非課税枠だけでもお金が浮きますし、使わない手はないと思います。引き出すタイミングは任意なので、運用しながら老後資金を取り崩すのにも向いています。つみたてNISAは若い方に向いた制度とみられがちですが、実は50代からの資産運用にも向いた制度かと思いますね。

(日経マネー 川路洋助)

[日経マネー2018年1月号の記事を再構成]

日経マネー 2018年2月号

著者 :日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 750円 (税込み)


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